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『ショック・ドクトリン』を観て

2013-08-17 20:02:55 | 

話題の映画『ショックドクトリン』を元町映画館で観ました。大満員の盛況に、是非、大阪でも上映会を企画したいと思います。みなさん!そのときは観に来てくださいね!

『ショックドクトリン』を観て

過去の歴史認識がしばしば話題になる。確かに、私たちが、現在、そして未来を考えるとき、それがどれほど目を背けたくなるような過去の歴史であってもそこから学ぶことは大切だ。だが、そんなふうに過去を捉えることは、ある程度、それが歴史と呼ばれるようになるまでの時間的経過が必要だ。

そのこともむろん大切だが、私たちが知りたいのは、今なのだ。なぜ、世界はこれほどまでに争いが絶えないのか。なぜ不安が絶えず人々を襲うのか。世界で起こっている数々の事件に関連性はあるのか。私たちが未来を志向していくとき、現況をどう捉えていいのかがなかなか見えて来ない、そんな苛立ちがある。それを見事に解き明かしたのは、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインではないだろうか。その大著『ショック・ドクトリン』のエッセンスの映像化は2009年だという。4年後、ようやく日本で観ることが叶った。

80分の映像の中にさながら現代史が凝縮されていた。20世紀は戦争の世紀とはよく言われることであるが、第二次大戦以後、冷戦時代の朝鮮戦争、ベトナム戦争までは、米国資本主義陣営と共産主義陣営の代理戦争とも言われ、ある意味わかりやすい戦争であった。しかし冷戦が終わり、資本主義が暴走し始めた頃から戦争も分かりにくくなる。

ネーミングはしばしば現実を裏切る。「自由」という概念は私たちにとってかけがえのないものだ。むろんプラス価値と受け取られる。しかし、「新自由主義」とよばれる経済思想、経済政策は、市場に委ねることを一義的に考え、そのためには国家が経済を縛る様々な規制の緩和・撤廃を目論んで来た。

映像は、ナオミ・クラインのシカゴ大学での講義をリード的に使いながら、数々のショッキングな映像を畳み掛けるように重ねながら進めていく。最初に紹介されているのは、1950年代CIAの依頼を受けカナダの精神科医が大学で行った恐怖療法の実験の映像であった。あまりにグロテスクで信じがたい映像であったが、これは紛れもない事実だ。私たちの世界で行われていることだ。

戦争やテロやクーデター、あるいは地震や洪水などの自然災害は国家にショックを与える、そして人々が不安や恐怖や混乱の陥ったところに、登場するのが政治家やグローバル企業だ。今度は経済的ショック療法によって国家に二度目のショックを与える。これが新国家主義を生み出すことになるのであろうし、さらにこうしたショック政治に抵抗する人々を利用し三度目のショックを与えるという、そのメカニズムが、およそここ30~40年で起こった世界の出来事を通して明らかにされる。チリのピノチェト、アメリカのニクソン、レーガン、ブッシュ、イギリスのサッチャーらの仕業が、ナオミ・クラインの手によって、つながっていく。彼らを操っているのが、「新自由主義」を標榜しているミルトン・フリードマンとその弟子たち、いわゆるシカゴボーイズたちであることも明らかにされていく。人々の精神を支配・服従する手法が新自由主義政策にとっては不可欠なものであることも見えてくる。1パーセントの富を占める人が、多くの人々から「自由」を奪い取っていくイデオロギーが「新自由主義」とはなんとも皮肉なネーミングだ。

映像には、日本は出て来ない。しかし、日本とて同じことだ。プラザ合意後の実体経済から離れたバブル経済のなかで国労解体、日教組の融解も仕組まれたともいえる。阪神大震災後の復興の問題、金融ビックバン以後の人々の不安、それに乗じた規制緩和を旗印にした新自由主義政策と一見それと矛盾するように見えながら、実は車の両輪のように、新自由主義を補完する新国家主義。現政権こそがその最たるものだ。惨事便乗型資本主義とナオミ・クラインが呼ぶショックドクトリンの処方箋通りに、東日本大震災・原発事故を巧みに利用し、経済ショックを企む。日本は仮想敵国には不自由しない。それへの恐怖を操り新国家主義的軍事強大国家をも打ち立てようとすしている。映画を観た多くの人々は日本の有様に想像力を働かせる。

たった一日の関西における上映であったが、この映画は多くの人に観てほしい。そして現政権の危険性を世界のなかに位置付けて考えていきたい。そうすれば、恐ろしいのが、近隣の諸国ではなく、実は内にある勢力だということがわかるのではないだろうか。

■『ショック・ドクトリン』
 20世紀の一時期、世界は資本主義から社会主義へ移行し、より平等な社会がやってくると信じる人々がいた(わたしもその一人だった)。しかし実際は、歯止めのきかない貪欲な資本主義が甦ってきた。1970年代に台頭した暴力的「市場原理主義」の路線は、癌のように浸潤し増殖していった。ナオミ・クラインは『ショック・ドクトリン』の大著で、その歴史ーーチリのクーデターにはじまって、ソ連の崩壊、イラク戦争等々の歴史的なショックの実体を暴いた。彼女は歴史思想家だけでなく、戦争や自然災害などが起きると、その<現場>に行って調査するジャーナリストでもある。それが同名のドキュメンタリーを生み出した。1%が99%を支配する世界がどうしてつくられたのか。映画は、そのまま3.11後の日本の現実と重なる。本邦初公開の傑作。(木下昌明)

監督 : マイケル・ウィンターボトム/マット・ホワイトクロス
原作 : ナオミ・クライン 2009年/80分/イギリス(日本初公開)

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