「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

オーディオ談義~レーザー復刻による「英雄」~

2008年08月30日 | オーディオ談義

SPやLPなどのレコード盤を針の替わりに非接触のレーザーを使って再生するエルプ社の「レーザー・ターンテーブル」(以下、「LT」という)についてはこれまでしばしば話題に取り上げてきたところ。

使い勝手の良さや音質の優秀さはつとに好評だが、いかんせん値段が最大のネック。

それでも当初からは随分値下がりしているものの、依然として100万円以上というのは購入するのに相当の覚悟が要る。もっともSPやLP盤を大量に保有し、愛好している人にとっては持っていても絶対損はしないと思われる程の優れものであることは間違いない。

しかし、自分の場合はレコードよりもCDの保有枚数の方が圧倒的に多いので今更レコードに戻るわけにもいかず「LT」とは所詮
”縁なき衆生”だと思っていた。

ところがつい先日、湯布院のAさんから連絡があり「情報の提供ですが」と随分控え目な切り出し方なので「はあ、なんですかと」何気なしに受けたところ、これが「LT」が関連するビッグニュースだった。

端的に言えば1944年に録音されたSP盤を「LT」で再生し、それを音源にして復刻したCDが発売されたので聴いてみたところSP盤ではとても聴けない極めて繊細な音が入っていて感激したという大喜びの内容。しかし、何といってもその演目と指揮者が凄かった。

曲  目:ベートーヴェン作曲の交響曲第3番「エロイカ」(英雄)

指揮者:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

演  奏:ウィーン・フィルハーモニー

録  音:1944年12月16日~20日/楽友協会大ホール(ウィーン)

「LT」による復刻もさることながら往年の大指揮者フルトヴェングラーが振った作品が蘇ったという意義が物凄く大きい。

「フルトヴェングラー」(1886~1954)。

ご存知のとおり古今東西を通じて「巨匠」の名をほしいままにしている名指揮者である。「モストリー・クラシック9月号」(産経新聞社刊)には「不滅の巨人たち」の特集が組まれているがそのトップを飾っているのがこの指揮者。

見出しの言葉に「亡くなってからすでに50年以上も経た現在も、ドイツ音楽の演奏でその芸術を凌駕する者は出ていない不世出の巨匠」とある。

平たく言えばクラシック通を自称する人でフルトヴェングラーを素通りした人があればその人はまったくのモグリであると断言しても間違いではないというくらいの存在。

とは言いつつも、フルトヴェングラー指揮の「英雄」をはじめ「第九」、「グレート」(シューベルト)などは20代の頃にLP盤でしょっちゅう聴いていたが30代以降はかなり遠ざかっているのが実状。

仕事で毎日のように神経をすり減らすと、せめて家に帰ったときくらいは癒し系の音楽になるのは必然の成り行きで、フルトヴェングラー指揮ともなれば相当身構えて精神を集中することが要求されるため聴くのがつい億劫になってくるというわけ。

しかし、昨今ではやっと仕事から解放されてストレス・フリーとなったので心理的に再び聴ける余裕が出来てきたというところ。

とにかく、こんないい情報を聞かされて放っておく手はないので「一刻も早く聴きたい」とAさん宅に愛車を駆っていざ出動。

久しぶりに聴くフルヴェンの「英雄」、しかも「LT」再生による音源のCDがどんな音を出すのか、自然とアクセルに力が入るのは当然でビュンビュン飛ばして30分ほどで到着。

早速オーディオ・ルームに案内してもらって試聴の前にライナー・ノートを見せてもらった。

末尾にレーザー復刻シリーズの製作プロセスが順番に記載されている。

 エルプ社「LT」による再生

 回転数の微調整によるピッチ調整

 アナログ/デジタル変換(DSD)

 96kHzPCMに変換/デジタル・リマスタリング

 CDプレス

中山実氏(製作関係者)の言によると今回のCD盤の大きな特徴は次の2点。

1 ダイナミックレンジの広さ

「LT」の再生によってレコードの記録媒体としての凄さが改めて分かった。針を使っての再生ではスクラッチノイズがあるので不可能だった第二楽章(葬送行進曲)の最後のピアニッシモが見事に体感できた。

 ピッチの調整

この「エロイカ」ではオリジナルテープの回転が狂っていて、レコードのピッチが狂って高くなりすぎていたが今回はダイレクトに「LT」の回転数を調整してピッチの調整が正確に可能となった。

                          

さて、前置きはこのくらいにして実際に聴かせてもらった「英雄」の感想に移ろう。

えッ、これがSPの音とビックリするほど細かい音が入っているというのが第一印象。しかも、当時のことだからもちろんモノラルだが、音が凝縮されていてステレオ録音とはまた違った良さがあって、音質的にもこれで十分鑑賞できるというのが二つ目の印象。

そして、何といってもフルトヴェングラーの演奏が凄かった。楽団員の張り詰めた緊張感がリスナーにもひしひしと伝わってくるのである。こういう息が詰まるような緊迫した演奏はこの指揮者以外ではとても無理。

特筆すべきは低域の弦の響き!表現するのは難しいが、あえて言えば耳のあたりで鳴り響くのではなくて身体全体、それも腹の付近で音の放射を受け止めている感じといえば分かっていただけようか。

それにしてもAさんのシステムのスケールの大きい音に心底から感心した。決してハイファイ調の音ではなく中低域に重心をおいた音だがリスナーを有無を言わせずねじ伏せるような豪快さに満ち、分厚くて力強い音。アンプが完全にスピーカーをコントロールしている。

ウェスタンの15Aホーンと特注のWE300Bシングルアンプの威力だろう。

帰り際にご好意に甘えてこのCD盤をお借りし、帰宅後に自分のシステムで再生したのだがバランス的にはまあまあとしてもやはりというべきか、中低域の力強い分厚さがまったく物足りない。とても堂々たる「英雄」には程遠い感じで残念ながら「痩せ細ったヒーロー」といった印象。

音楽鑑賞にあたってオーディオ(文明)は音楽(文化)の僕(しもべ)に過ぎないとの思いは変わらないが、やっぱり前者が曲趣を一変させる大きな力を持っていることは悔しいけれども認めざるを得ない。

それから、最後に気になる点がひとつ。今後「LT」による復刻で昔の名演が続々とCD化されていけば(同じフルヴェンが振った「運命」も発売中)、肝心の本体の「LT」の売れ行きが鈍くなるのではあるまいか?

 


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オーディオ談義~「ワディア170」の出現とiPod革命~

2008年08月12日 | オーディオ談義

配信音楽やCDを取り込めるiPodはたいへん手軽で便利だと思うが、あの小さな本体とヘッドフォンで音楽を聴くのはいかにも”ちゃち”なイメージがあって、これまで本格的に音楽を鑑賞するのに必要な代物ではないと完全に問題外にしてきたところ。

しかも発売されて数年、今更、話題にするのは時代遅れで気恥ずかしいが、何とデジタル・オーディオの雄でハイエンド・オーディオの世界に君臨するワディア社から
「iPodをオーディオシステムの核にする」といううたい文句のもとに、「ワディア170iトランスポート」(以下170という。)が9月から発売されると福岡在住のU君からメールが入った。

早速「ワディア170」で検索してネット情報を追ってみたところ、ワディアにしては販売価格60,000円前後と実に安価で非常に身近に感じて大いに興味が湧いた。すでにご存知の方も多いかもしれないが、紹介してみよう。

この
170はアップル社から「Made For iPodR]の正式認定を受けており、現在の入手可能なiPodプレイヤーから、ダイレクトに生のデジタルオーディオ信号を取り出すことを可能とする画期的な製品。

iPodのデジタル音楽ストレージ能力は最大48KHz/16bitというCDを上回るクォリティーを秘めている。その高品位なデジタル音源をこの
170を利用してデジタルのままiPodから引き出し、オーディオシステムのデジタル入力に接続して再生すれば驚異的な高音質を得ることができるという。

自分のシステムの場合でいえば、
170のデジタル出力をDAコンバーター(ワディア27ixVer3.0)のデジタル入力で受ければすぐに使えそう。ただし170の出力端子はRCA方式で27ixの入力端子はBNC方式なので小さな変換器具が必要となる。

さて、これまでiPodを使ったことがないので配信音楽の取り込み方法をはじめサッパリ分からないことだらけだが類推できる範囲で音質、コスト、便利の良さの観点からこの
170を検証してみよう。

1 音質

ワディア社の宣伝文句ではCDよりも高音質という。
CDのフォーマットは44KHz/16bitだが、
170で送り出す能力は48KHz/16bitというからたしかに数値的には上回っている。

だがしかしである。iPodは配信音楽にしろCDの取り込みにしろすべてパソコン経由というのが引っ掛かる。つまりパソコンを経由する時点でそもそも音質の劣化がありはしないかというのがひとつの懸案事項。

どのくらいの程度の劣化が起きるのかが最大の難関で、ある程度問題がなければすぐに購入してもいいとさえ思う。

2 コスト

iPodを使っている娘に聞いてみると配信音楽を取り込むときの費用は4分前後のポピュラー音楽一曲あたり300円程度という。単純計算で15曲を取り込むとすると4500円となるがこれは15曲入りのCDを購入する価格よりも確実に上回ってしまう。ただし、前者では好きな曲ばかりを取り込めるというメリットがあるのでいささか割り引く必要はある。

クラシック音楽の場合は一曲あたり30分程度はザラなのでおそらく500円以上するのではあるまいか。

憶測ばかりで申し訳ないがランニングコストの面ではあまりメリットがないと考えておいた方がいいかもしれない。

ただし、拙宅のCDトランスポート「ワディア270」は3年ほど前に定価130万円を110万円に値引きさせて購入したもの。それから比べるとこの170の60,000円は実に安い。万が一、両者に音質の差がそれほどないときは当然「一体何だ」という話になってランニングコストどころの話ではなくなる。

                       
              ワディア270               27ixVer3.0

3 便利の良さ

クラシック音楽の場合、配信音楽にどのくらいの曲目の在庫量があるのだろうか。すでに廃盤となった曲などが含まれていれば便利なことこの上ない。

それにたとえば、友人のCDをパソコンでコピーしてiPodに取り込めばコピー用のCD-Rを購入しなくて済む。使い勝手がいいのでこのメリットは大きい。この使い方が一番現実的のように思える。

また、自分が所有するCDをiPodに取り込んでおけばCDトランスポート(270)が故障したときに不便を感じなくて済む。

また肝心のiPodの容量だが、
170に接続できるいろんな種類が紹介されているが、「iPod classic」になると160GBが最大容量になっている。このくらいになると相当の蓄えが出来そう。(ネット調査では400曲以上の容量、40時間連続再生が可能で価格42,800円なり)。

以上、
170のメリットを検証してみたがつまるところ、その存在価値は将来を見据えた場合に「iPodがCDの補完”として機能するのか、あるいはまったく取って代わる存在、つまり”代替”になるのか」という話に行き着いてしまう。

7月29日号の
「エコノミスト」誌(毎日新聞社)によると「iPod革命がレコード業界を淘汰する?」という見出しのもとに「音楽がタダになる」とセンセーショナルな記事が掲載されていた。とにかくCDの販売が近年激減しているという。(21頁に亘る特集記事でたいへん興味のある内容だったのでいずれ紹介してみたい)。

「配信音楽がタダになる日」が来れば、CDが駆逐されるのは時間の問題だが、この170は「CD → iPod」へと変わりつつある時代の先がけ、象徴的な存在としてエポック・メイキング的な製品になる可能性が大いにある。

とにかくこれからCDプレーヤーシステムを購入しようと考える人には一考の余地ありだが、DAコンバーター(DAC)部分は絶対必要なので単体で購入する手はある。

 


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釣り紀行♯32~やっぱり小潮のときは釣れない~

2008年08月10日 | 釣り紀行

8日(金)に釣行を予定していたのだが、あいにくの雨天。残念なことこの上ないがしばらく乾燥したお天気が続いていたので農作物や植木にとっては待望の雨となったことだろう。

自分を中心に「お天とうさん」は回っていないんだから、むしろ自然の恵みを感謝しなければならないのかもしれない。

やむなく1日ずらして9日(土)の釣行となった。土曜、日曜は釣り人が多くて釣り場が込むので、これまでできるだけ避けてきたが、夏の真っ盛りなのでそれほど多くはあるまいという淡い期待が伴うところ。とにかくフカセ釣りは両脇に人がいるとうまくいかない。

潮の状況もあまりよくない(小潮)なのになぜわざわざ土曜日の釣行かと問われれば、丁度この日がお盆休みを利用して1週間の長期休暇で一人娘が大阪から帰ってくる日。

都会では食べる機会が少ないだろう生きのいい魚を腹いっぱい食べさせてやりたいというせめてもの親心がなせる釣行というわけ。

したがって今回は型狙いというよりも釣果確実という無難の選択で、いつもの釣り場の現地(Y半島F波止)に着いたのが8時30分。

                        

期待どおり土曜日というのに釣り人は皆無だった。こういう猛暑に釣りに行くお馬鹿さんというのは結局自分くらいのものだろう。

小潮なので潮の落差が少なく時間帯が限定されないのがいいところでもあり悪いところでもある。いわば攻めるポイントがない相手をむやみやたらに小さなパンチを浴びせる感じ。

竿出ししたのが9時頃からだったが案の定、食いがいまいちで、手の平サイズ未満のリリース・サイズがほとんどで、どうにもらちがあかない。

2時間ほど釣ってまだ時間も早いことだしといさぎよく場所替え。Y半島の奥深く分け入ってK地区の防波堤に行ってみたところここにも誰も人がいない。早速、ベストポイントに釣り座を構えて釣り始めたところ、これが小アジの大群が湧き出てまったく釣りにならない。

1時間ほどねばったが、たまにサバの15cmクラスがかかる程度でどうしようもなく、これなら元の場所がいいとまた逆戻り。

ここでも相変わらず型が小さくほとんどリリースばかりで5匹に1匹程度取り込む感じだった。「やっぱり小潮のときは釣れない」と再認識した。

15時頃にマキエが無くなったので納竿。釣果はクロの330gがたったの2匹で後の28匹は手の平未満に等しいサイズだった。今年になって最悪の釣果。

疲れ切って自宅に到着したのが16時10分だったが、娘に会うなり「ワー、臭い、近寄らないで」と拒絶反応!

大量に掻いた汗と魚の臭い、それにマキエの匂いが染み付いて発酵状態になっている模様。早速、風呂に飛び込まされた。こういうときにいつでも入れる温泉はやっぱりありがたい。

と   き      2008年8月9日(土)、海上微風で過ごしやすかった

と こ ろ      Y半島F波止~K地区防波堤~F波止

釣り時間       F波止      9時~11時
            K地区防波堤 12時~13時
             F波止     14時~15時

           小潮

釣   果       クロ30匹(うち330g2匹)、サバ(15cmクラス)10匹


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魔笛試聴コーナー~CD(ライブ)の部~♯10

2008年08月09日 | 魔笛視聴コーナー~CD(ライブ)の部~

CD番号    メロドラム オペラ・ライブDP-SAZAS-GM-5.0044(3枚組)

収録年     1960年8月12日 ザルツブルク音楽祭

評  価     (A+、A-、B、C、D)の5段階評価

総  合     

指揮者        ヨーゼフ・カイルベルト    

管弦楽団    A- ウィーン・フィルハーモニー  

合唱団      A- ウィーンStaatsoper        

ザラストロ    A-  ゴットローブ・フリック        

夜の女王     C  エリカ・コース          

タミーノ      A+  フリッツ・ヴンダーリヒ     

パミーナ     B  リーゼンロッテ・フォルサー  

パパゲーノ    A- ワルター・ベリー       

音   質     B  モノラル・ライブ録音        

私   見     ヴンダーリヒの歌声を楽しむためだけの魔笛 

ようやく探し当てた45セット目の「魔笛」だったが、結論から先に言うとやや期待はずれに終わった。

まず、音質がよくない。終始こもった感じの音でスカッと抜けきらない。約50年前の録音それもスタジオではなくて劇場でのライブ録音なので要求するほうが無理かもしれない。

このマイナス・ポイントをカバーするためには配役陣の頑張りに期待するほかないがそれも女性陣がいまいち。

夜の女王役のコロラトゥーラは声量に余裕がなく肝心の最高音(ハイF)のところで声が伸びず完全な頭打ち。テンポも速すぎて伴奏と合っていない。

それにパミーナ役(ソプラノ)もやたらに声を張り上げる印象で声質にもっとしっとりとした柔らかさがほしい。独唱のときはまあまあ聴けるが二重唱となると調和が取れなくて浮いてしまう印象。

一方男性陣は充実の一言。タミーノ役のヴンダーリヒは言うに及ばずザラストロ役もパパゲーノ役も定評どおりの貫禄で水準以上。

とにかく、このオペラの全体的感想を言えば静謐感、緊張感に乏しくリズムもよくないし指揮者の手腕も冴えない。あまり感心できない出来栄えでこれほどの名曲にもかかわらず聴く途中で退屈してしまった。

この盤は「魔笛」ファンの方であってもあえて購入して聴くに値しないと思う。

ただし、不世出のテノール歌手ヴンダーリヒのファンにとっては別で、これ以外の彼の「魔笛」録音はベーム指揮の1964年盤だけなのでそういう意味ではこれは貴重な音源となる。

  
     


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音楽談義~「美は人を沈黙させる」~

2008年08月05日 | 音楽談義

連日35度近い猛暑の日が続く毎日、これでは暑さをしのぐだけで精一杯、日中に音楽を真剣に聴く気には到底なれっこないが、読書だけはざっと活字を目で追うだけでいいので別。

「クラシック音楽がすーっとわかるピアノ音楽入門」(2008.6.20、山本一太著、講談社刊)を読んでいたところ、「ベートーヴェン晩年のピアノ・ソナタ」について次のような記述(95~96頁)があった。~以下引用~

『ベートーヴェンは、1820年から22年にかけて「第30番作品109」、「第31番作品110」、
「第32番作品111」のピアノ・ソナタを書き、これらがこのジャンルの最後の作品となった。

この三曲をお聴きになったことのある人なら、これが現世を突き抜けた新しい境地で鳴り響く音楽だとして理解していただけると思う。

とにかくこういう
超越的な音楽の神々しさを適切に美しく語ることは、少なくともワタシには不可能なので、簡単なメモ程度の文章でご容赦ください。

ベートーヴェンの晩年の音楽の特徴として、饒舌よりは簡潔、エネルギーの放射よりは極度の内向性ということが挙げられる。

簡潔さの極致は「作品111」でご存知のようにこの作品は序奏を伴った堂々たるアレグロと感動的なアダージョの変奏曲の二つの楽章しか持っていない。ベートーヴェンは、これ以上何も付け加えることなしに、言うべきことを言い尽くしたと考えたのだろう。

こんなに性格の異なる二つの楽章を、何というか、ただぶっきらぼうに並べて、なおかつ見事なまでの統一性を達成しているというのは、控え目にいっても奇跡に類することだと思う。

もっとも、この曲を演奏会で聴くと、何といっても第二楽章の言語に絶する変奏曲が私の胸をしめつけるので、聴いた後は、第一楽章の音楽がはるかかなたの出来事であったかのような気分になることも事実だが。』

以上のように非常に抑制のきいた随分控え目な表現に大いに親近感を持ったのだが、「音楽の美しさを神々しく語るのは不可能」という言葉に、ふと憶い出したのがずっと昔に読んだ小林秀雄氏の文章。

「美しいものは諸君を黙らせます。美には、人を沈黙させる力があるのです。これが美の持つ根本の力であり、根本の性質です。」(「美を求める心」より)

結局、音楽鑑賞ってのはこういう沈黙の力に耐える経験を味わうってことなんですよね~!。

さて、いささか堅苦しくなったが自分も「作品111」についてまったく著者の山本氏と同様の感想のもと、この第二楽章こそ数あるクラシック音楽の作品の中で
「人を黙らせる力」にかけては一番ではなかろうかとの想いは20代の頃から今日まで一貫して変わらないところ。

その神々しい美しさを言葉で表現しようと思っても不可能で、無理に何か言おうとするとそれが結局ウソになってしまう、そういう美しさを持った作品。

同じベートーヴェンの交響曲「第九番」もたしかにいいが、スケール感を伴った精神の高揚という面での良さであって「美という概念には少しばかりそぐわないのでは」というのが個人的に思うところ。

ところで、このソナタは美の極致に位置する作品とはいっても演奏するほうもベートーヴェン自身がピアノの名手だったため、ハイドンやモーツァルトの作品よりも技術的に格段にむずかしくなっているという。

標記の本では「最高音と最低音との幅がドンドン大きくなっている」「高い音と低い音を同時に鳴らす傾向が目立つ」といった具合。

言い換えるとピアニストにとっても弾きこなすのが大変な難曲というわけで、聴く側にとっては芸術家のテクニックと資質を試すのにもってこいの作品ともいえる。

以前のブログでこの「ソナタ作品111」について手持ちのCD8セットについて3回に分けて聴き比べをしたことがある。

そのときの順番は次のとおり。(2007年6月:最終私見)

  バックハウス
  リヒテル
  内田光子
  アラウ
  グールド
  ケンプ
  ミケランジェリ
  ブレンデル

         

       

約1年前に聴いたときの順番なので、当時と今とではオーディオ装置も変わったことだし再度チャレンジしてみたいが何せこの暑さときわめて内省的な曲調とがどうも相容れないので今年の「芸術の秋」の時季にふさわしい宿題としよう。ただし、1位と2位以下との差はものすごく大きく今でもそれは変わらないという確信がある。

なお、余談になるが天才の名にふさわしいピアニストのグールドがこのベートーヴェンの至高のソナタともいえる作品で5番目というのは、自分で順番をつけておきながら首を傾(かし)げざるを得ない。

しかし、これは自分ばかりでなく世評においてもこの演奏に限ってあまり芳しくない評価が横行しているのだがその原因について先日のこと、オーディオ仲間のMさんが面白いことを言っておられた。

『グールドはすべての作品を演奏するにあたって、いったん全体をバラバラに分解して自分なりに咀嚼し、そして見事に再構築して自分の色に染め上げて演奏する。だが、この簡潔にして完全無欠の構成を持った「作品111」についてはどうにも分解のしようがなくて結局、彼独自の色彩を出せなかったのではないだろうか。』

グールドの演奏に常に彼独自の句読点を持った個性的な文章を感じるのは自分だけではないと思うが、この「作品111」にはそれが感じられないので、この指摘はかなり的(まと)を射たものではないかと思える。

後世になって天才ともいえる演奏家がどんなにチャレンジしても分解すら許さない、とにかく付け入る隙(すき)を与えない完璧な作品を創っていたベートーヴェンはやっぱり凄い!

  

 


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釣り紀行♯31~帰る間際になって入れ喰いに~

2008年08月03日 | 釣り紀行

「外に出ると死にますよ」との仰天会話が飛び交うほどの猛暑が続く中、めげずに常に汐の状況と天気(夕立の心配)をチェックして釣行のチャンスをうかがっている奇特な人間が九州の片田舎にいる。

そして、7月31日(木)は大潮の最初の日で干潮が12時前後と絶好の釣り日。

釣果(魚の食い気)と
「潮の満ち引き」がきわめて高い相関関係にあるのは周知のとおり。

自分の場合、ネットで「海釣り総合サイト釣りの窓口」の潮汐表(図形表示)で該当地点を表示させて必ず事前にチェック。

これまでの必勝パターンとして「引き潮(下げ)7分目 → 干潮 → 満ち込み(上げ)3分目」の時間帯に合わせて釣ってまず外れたことがない。ワン・パターンで進歩がないなどと言われるかもしれないが、どうせ行くのなら釣果があったほうがいいのでこのセオリーはまず崩さないようにしている。

このパターンでは引き潮がダメなときには、満込みの潮が狙えるのが利点。いわば両にらみというわけ。

この日は10時ごろから15時ぐらいが理想的な時間帯となる。いつもの釣り場に到着したのは丁度10時ごろだったが、さすがにこの猛暑日は来る途中の半島一帯の釣り場に釣り人の影は一人も見えなかった。

もちろん、この一級ポイントにも釣り人ゼロでしかもここ数日マキエを撒いた痕跡が皆目うかがえないので場荒れしていないのがプラスポイント。しかも微風があって結構気持ちよく、日差しの割には体感上はそれほど暑さを感じなかった。それでも飲み水は常時欠かせないところ。

10時30分頃から釣り開始となったが、はじめのうちマキエを撒いても魚の動きが鈍くまるで食欲がなさそうでコレはだめとすぐ予想がついた。今日の引き潮はよろしくない。たまに釣れるのも俗に言う「木葉グロ」でほとんどが手の平未満のリリースサイズばかり。

それかといって、全然釣れないときはこんなサイズでもキープしておかないと今晩の酒の肴に困るのでちょっと大きめサイズを選り分けてクーラーに放り込んだ。

「早く満ちこみの潮にならないかなあ~」と気長に待つ中、ウキ下50cm程度を漂うエサにクロとは違う形の影が食いついた。最初は「ウマズラ」かと思ったが何だか締め込みが結構きつい。逃がすものかと本気になって竿先を高く上げて引き寄せたところ何と小ぶりのチヌ(黒鯛)だった。

                 
   チヌ(黒鯛)              630g               釣り場(左端) 

クロならいざ知らず、チヌが表層まで浮いてくるのはホントに珍しい。時刻にして丁度12時半前後で最干潮から満ち込みに変わるあたりの出来事だった。

この暑い最中(さなか)に釣りに行ってめぼしい釣果がないときに家人から何を言われるかおよそ想像がつくが、チヌが釣れたので「よしコレで胸を張って帰れる」と急に気分的に楽になった。

不思議なものでコレを契機にぼちぼちとクロの食い気が立ってきた。とはいっても、せいぜい大きくても300g程度で今日はホントに型が小さい。

そのうち段々とマキエが残り少なくなってきた。何せエサ取りの数が半端ではないのでマキエを当初から撒き散らしたのが原因。結局前半のツケが後半に回ってきた勘定。

一方でクロの食い気が増してきて動きが早くなりマキエを撒くポイントに殺到しだした。惜しいことに帰る間際になって入れ喰い状態になってしまった。最後にはバッカン(マキエ用のボックス)についたマキエのカスや投げそこなったマキエさえも拾い集める始末。

納竿は14時40分でこういうことなら、時間を遅らせて12時前後から釣っていれば大漁は間違いなかったはずで、結果論だが
盛夏のときは引き潮よりも満ち込みにかけたほうがいいのかもしれないと思った。

次回はそうしてみるつもり。

なお、今回はツケエ(オキアミ)をミリン(調理用)に浸しておくと魚の食いが良くなるとの情報を得てやってみたがあまり効果の程は感じられなかった。もっとも、たったの1時間程度浸しただけだったが、一晩中浸しておけば効果があるのかもしれない。


と   き        2008年7月31日(木)  海上微風

と こ ろ        Y半島K地区神社横空き地

釣り時間        10時30分~14時40分

汐            大潮(干潮12時前後)

マキエ          オキアミ(中粒)1角、ジャンボ2角、パン粉1kg、チヌパワー

ツケエ          オキアミ(中粒)

釣  果         チヌ(黒鯛)1匹(630g)、クロ40匹(300gが10匹前後)


 


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