長いことオーディオをやっているといろんなトラブルが起こる。耐久性を重視する工業製品とは違って、オーディオ機器ははるかに繊細だし、繊細なツクリであればあるほど音がいいので仕方がない一面もあるが、振り返ってみるとそういったトラブルのたびに何かしら得るところがあり、結果的に成長したことに気付く。
つまり、ピンチはチャンス。今回もそうだった。
「171シングルアンプ」と並んで、愛用している「Px25シングルアンプ」だが、真空管の抜き差しをしていたところ磁器製のソケットにヒビが入ってしまった。こういう小さな事故が大切な古典管を台無しにしてしまうきっかけになるので、早急に修繕をしなければならない。
まず思い浮かぶのが優れた腕前を持つ馴染みのアンプ・ビルダーさんだが、現在はあいにく腰痛の治療でリハビリの真っ最中。じぶんも腰痛の経験があるが、屈んでの作業なんて厳禁でもってのほかである。現時点ではそういう非常識なことを頼むわけにはいかないので「さあ、困った!」。
ふと思い浮かんだのが「北国の真空管博士」(以下、「博士」)。先日「71Aプッシュプルアンプ」を見事なまでに蘇生していただいたのはまだ記憶に新しいところ。
「ソケットにヒビが入ってしまったので交換をお願いできませんか。併せて、現在ボリュームが一つ付いているのですが、不便なので左右単独のボリュームにしていただけませんか?」と、博士にお願いしてみたところ、「いいですよ。診て差し上げましょう」と、快く引き受けていただいた。
待つこと10日あまり、この間博士独自のノウハウをいかしたアレンジメントもしていただいたようで昨日27日(土)のお昼時に無事アンプが戻ってきた。
アンプの基本構成は変わらずドライバー管に「471B」(デフォレ)、UTCのインターステージトランス(内蔵)を経由し出力管は「PX25」(ナス管)、そして一番右側の整流管はレイセオンの「VT244」(軍用管)。スピーカーは「AXIOM80」(最初期版)
さっそく、結線して聴いてみたところ「う~む、この音は!」と、思わず唸ったねえ(笑)。
一人で聴くのはもったいないとばかり、近所にお住いのYさんに来ていただいた。
「音の立ち上がり、立ち下りが早いのでとてもクリヤーに聴こえます。艶のある音色といい、音の粒立ちといい、素晴らしいですね。それに人肌の温もりまで感じさせます。これまでこの家で聴かせていただいた中ではこの音がベストです。凄い人がいるもんですね~。」と、大絶賛。
一言でいえば、「とても品が良くてヨーロッパの上流社会の貴婦人を思わせるような音」だ。
つい先日のブログにも掲載したが「171アンプ」(アメリカ)が「素顔美人」だとすると、「PX25アンプ」(イギリス)は大舞台にふさわしい「お化粧美人」ともいえる。今や我が家の両雄である
しばらくCDの音を目を瞑って聴かれていたYさん、やおらポケットからどっさりUSBメモリを取り出されて、「ひとつ、これを聴かせていただけませんか。」
久しぶりに「ネットワーク オーディオ プレイヤー」の「NA-11S1」(マランツ)の出番となった。
システムの流れは「NAー11S1」 → (サエクのデジタルコード) → DAコンバーター「エルガー プラス」(dCS) → 「大西プリ」 → 「PX25パワーアンプ」 → スピーカー「AXIOM80」。
以後、クラシック、ジャズ、歌謡曲のオンパレードが始まった。
「これまで石川さゆりの飢餓海峡(ステレオサウンド誌特別録音)を、いろんなところで聴かせていただきましたが、この音がベストです。」と、Yさん。今日はベストという言葉がしきりに横行する(笑)。
以下、続く。