「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「整流管」を挿し換える楽しみ

2015年04月16日 | オーディオ談義

前回からの続きです。

テーマ1 「新しい古典管シングルアンプのベストマッチの整流管選び」
について

40年以上に亘って真空管アンプを愛用しているが、一番の楽しみは何といってもいろんな役割を持つ真空管を手軽に挿し換えながら音の変化を楽しむことにある。

たとえば通常のアンプの真空管の構成は電流の流れに沿っていくと整流管、初段管、ドライバー管、出力管といった順番になる。まあ、この中で最後尾に位置する出力管を殿様とすると、他の真空管はその引き立て役にあたる。いわば主君と家来という主従の関係のようなものだが、中には主君と相性が悪くてご機嫌を損じるあまり追放されることもあるのでご用心(笑)。

そういう中で整流管についても日頃はなかなか陽が当たらない存在だが出力管との相性がいろいろあってユメユメおろそかに出来ない真空管である。

整流管の役割については今さらだが「家庭で使っている交流電流を直流に換える」大切な役目を担っており、原則としてはアンプの回路や出力管の規格に対応したものを使うのが無難だが、数字的にかなりの幅があっていろんな型番のものを冒険できるのが非常に面白い。

お値段の方もピンからキリまであっていろんな球が発売されている。たとえば最高峰とされる「WE274B」ともなるとオークション相場は程度にもよるが15万円(1本)ほどになり、そこそこの真空管アンプが1台買えるほどのお値段がするかと思えば、数千円程度のものもある。

中には掘り出し物があって、値段がメチャ安いにもかかわらず出力管との相性がバッチリというのもあって、そういうときは狂喜乱舞することになる。そう、自分は生来の貧乏性なのである(笑)。

そして、沢山の種類の整流管の挿し換えができるようにわざわざピン穴を2種類準備してあるのが我が家の「古典管シングルアンプ」である。部分的にアップしてみたのが次の画像。

           

上部が8ピン型、下部が4ピン型の整流管が挿せるようになっており、ソケットの間隔が狭いので物理的に2本同時に挿せないようになっているのがミソである。製作者のGさん(福岡)の発案だが、こういう工夫は初めての経験でほんとうに助かる。

今回の試聴で差し換えた整流管は4本である。

          

左からカニンガムの「380」(ナス管、4ピン型)、以下、8ピン型としてシルヴァニアの「274B」、そしてSTC、レイセオンと続く。STCとレイセオンの型番は事情があってヒ・ミ・ツ~(笑)。

最初に挿していたのは「274B」だったのだが、ちょっと整流能力が高過ぎたようで、ボーカルの試聴では「サシスセソ」の発音がちょっと刺激的になった。WE300Bを挿した時は圧倒的な出番だが、古典管の時は遠慮した方が良さそうだ。

そこで次に、古典管(1920年代製)にとって一番ポピュラーに使用される「380」に換えたところ、音が奥の方に引っ込む感じで奥床しさが何とも言えず上品な佇まいとなった。異口同音に「古典管にはこっちの方が相性がいいみたいですね。」

しかし、しばらく聴いていくとあまりにも上品すぎて何だか物足りなさを覚えてしまう。ときには野性的ともいえる鳴り方も欲しいところ(笑)。この辺は実にシビアな差を出すのが気難しいSPユニット「AXIOM80」たる所以である。

そういうこともあろうかと、Kさんが「整流管はものすごく大切な存在なので厳選してきました」と、今回持参されたのがSTCとレイセオンの整流管。画像右側の2本である。両者とも「380」と「274B」の短所を補う形で中庸をいく観点からの選別球である。

2本とも試聴してみたが、「ほら、歌手の表情が浮かび上がるようになりましたよ」とのことで、「これはクセがなくていいですねえ!」と、思わず声を上げたほど。これなら長時間聴いても大丈夫といった印象を受けた。

両者とも出てくる音に遜色なし、まさに甲乙つけ難しの印象を受けたが、取り分けSTCは傍熱管というのにこんな音を出すのだからほんとうに参った。

「さすがはSTCですね。」

「そりゃそうですよ、ロンドン・ウェスタンですよ~」と、Kさん。

レイセオンも素晴らしい音だが直熱管なので、稀少な出力管に負担をかけない意味では常時STCを使った方が良さそうだ。

「このSTCはオークションで見つけるまでお借りするわけにはいきませんかね~」と、恐るおそるお伺いしてみると、

「はい、いいですよ。レイセオンも置いていきますのでしばらく両方じっくりと聴き比べてください」

やはり持つべきものは「オーディオ仲間」である(笑)。

 


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新春を迎えての「試聴会」

2015年04月14日 | オーディオ談義

つい先日の朝食時のこと、家内がテレビを観ながらこう言う。

「あらっ、NHKの女子アナが変わったみたいね」

「そうだ、和久田さんといってな東大(経)出身だぞ。どうやら天は二物(「美貌」と「才能」)を与えたようだな。」

「フ~ン、しかしこの人、声の通りがあまり良くないみたいね。」

「声なんかどうだっていいんだ!テレビなんだから女子アナは顔さえ可愛ければそれでいいんだ。」

「だってアナウンサーなんだから顔よりも声の方が大事でしょ!」

とうとう朝から小競り合いが勃発(笑)。いずれにしても、これから(平日の)朝のニュースはNHKに限る~。

閑話休題

去る10日(金)のこと、同じスピーカー「AXIOM80」を使っているKさん(福岡)からご連絡があった。

「明日(土)はご在宅ですか?よろしかったら試聴にお伺いしたいのですが・・。それから持って行くものがあったら遠慮なく仰ってください。」

「はい、明日は何も予定が入っておりませんのでOKですよ。それからよろしかったら最近手に入れられたという古典管のプッシュプルアンプを持って来ていただけませんか。是非我が家のシステムで聴いてみたいです。」

「はい、分かりました」と、めでたく談合成立(笑)。

このブログをきっかけにしてKさんとの交流が始まってから丁度2年が経過した。およそ1か月に1度の割合で試聴にお見えになっているので、おそらく通算すると軽く20回を越えるはず。気難しいことこの上ないSPユニット「AXIOM80」の同好者として、お見えになるたびに何かしら得るところがあって大いに勉強させてもらっている。

何よりも音のスピードを重視される方で、低音をドスン、ドスンと鳴らすいわゆる「ドスン・オーディオ」を非常に忌み嫌う方である。まあ、AXIOM80の愛好者は皆そうだろうが・・。


取り分け今回は10日ほど前に到着した古典管シングルアンプが我が家に到着してから初めてのご訪問なので「あまりの音の良さにKさんをビックリ仰天させる絶好のチャンス」でもある(笑)。

それに、Kさんはたいへんな古典管の権威である。何ら脈絡なしにいきなり真空管の型番をお訊ねしても製造工場(ファクトリー・ナンバー)を含めて即座に答えがかえってくるので凄い~。それも単なる知識で終わっているのではなく実際に購入して聴き比べられているのがたいへんな強味である。

したがって、涎が出るほど欲しい稀少な真空管を沢山持っておられるので厚かましくもときどき返済期限なしのまま借用している球もある。言い換えると、これを「強奪」というのだろう(笑)。

また当方がオークションで古典管を入札しようとするときは必ず相談させてもらっているが、今のところ良否の確率は3割程度である。

たとえば「この真空管は買いですかね?」に対して「あっ、それはダメです。やめといた方が無難ですよ。」という否定的な答えが返ってくる確率が7割といった具合。

まあ、ことほど左様にオークションに出品される真空管は用心すべきものが多い(測定値付きは別として)という証左だが、それもお値段との兼ね合いなので当方にとっては無駄遣いをしなくて済むので大いに助かっている。もちろん、一方では「出品者は〇〇市の人ですね。この人は間違いありませんよ。」というお墨付きのもある。

さて、当日の11日(土)は久しぶりに朝から晴れ渡っており、高速道をぶっ飛ばすのには絶好の日和となった。

当方も朝から大忙し。まず、「デガウス」を使って、「トランス式アッテネーター → 古典管シングルアンプ」のトランスの「消磁」を行った。その際にアンプのSPターミナルからSPコードを外して、左右両チャンネルを短線でプラス・マイナスをショートさせているが、お客さんが見えるたびに「おまじない=安心感」として必ず実施している(笑)。

             

その後、恒例の運動ジム通いを午前中に実施。みっちり汗を流して帰宅すると丁度11時ごろにKさんがご到着。

「今日は天気が良くてよかったですね~。高速道の状況はいかがでしたか。」

「はい、クルマがやたらに多かったですよ。覆面パトカーも見かけました。どうも車種を一新したみたいで以前はトヨタでしたが現在は〇〇〇のようですよ。」

「ほう~、以前スカイラインの覆面パトに捕まったことがあります。それ以来運転席と助手席の2人乗車のクルマを追い抜くときは用心してますが、これから、〇〇〇を見かけたら要注意ですね。〇〇〇は現在アメリカでバカ売れしているそうですよ。」

くだらない前置きはこれくらいにして(笑)、さっそく試聴に入った。11時から昼食を挟んで17時まで何と6時間に及ぶ試聴となった。

ふり返ってみて思い付くままに今回の試聴会のテーマとなった事項を列挙してみよう。

1 新しい古典管シングルアンプのベストマッチの整流管選び

2 ヴィオッティの「ヴァイオリン協奏曲22番」(ボベスコ)の国内盤と外国盤の音質の違い


3 バッハの「パルティータ」「フーガの技法」の演奏家たちの品定め

4 AXIOM80(最初期版)に低音補強は必要か~ワーグナーのワルキューレを聴きながら~

5 Kさん持参の「古典管プッシュプルアンプ」の球転がし

6 古典管(1920年代製)とWE300B(オールド)の聴き比べ

以上のとおり、とても盛り沢山のテーマが溯上となったのでしばらくブログのネタに不自由しなくて済みそうだ(笑)。

ところで、周知のとおりオーディオを含めて趣味の面白さというのは一にどれだけ「自分なりの個性」を発揮できるかにかかっている。

いろんな方から忌憚のないご意見をいただくが、耳の形も違えば感性だってそれぞれ違う。したがって、それらはあくまでも参考意見の一つであって最終的な選択を行うのはシステムの持ち主であることは言うまでもない。

もちろん過信は禁物、つまらぬ意地は捨てて、いいと思う意見は積極的に取り入れないと結局自分が損をするが、その辺の兼ね合いが実に難しい(笑)。

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」(夏目漱石「草枕」)。

今回のケースでは、「賛同する、賛同できない」は別にして、Kさんのご意見を出来るだけ尊重してそのまま掲載することにした。自分の意見を前面に出すと、読者の方々から「この人はどうも日頃から我田引水の傾向がある!」と、あまり信用してもらえそうにないのも理由の一つ(笑)。

それでは、まず最初のテーマ「新しい古典管シングルアンプのベストマッチの整流管選び」について述べてみよう。
 


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現代ミステリーの金字塔

2015年04月09日 | 読書コーナー

☆ 「ソロモンの偽証」

この正月の帰省の際に娘が持って帰ってきたミステリー「ソロモンの偽証」(宮部みゆき)。

         

読了した娘が「お父さん、とても面白かったよ。私の中ではとうとう<Yの悲劇>(エラリー・クィーン)を越えたね。」と言うから、面白いのは分かっていたが、いつでも読めると思って図書館から借りてきた本を優先していたのだが、このたび図書館が改築の運びとなり休館しているのでやむなく読み方始めとなった。

当初は6冊ともなるとちょっと気が重かったが読み始めてみるとどうしてどうして、一気に読み耽った。

本書の謳い文句「現代ミステリーの金字塔」に恥じない内容でこれにウソ偽りなし。まず、あらすじを紹介しておこう。既に読破した方も多いだろうがお許し願いたい。

1990年雪の舞うクリスマス・イブで舞台は東京の下町。イブの翌朝中学の屋上から落ちた中学二年の男子の遺体を雪の中から同級生が発見する。警察は調査した結果、自殺と判断する。このため事件は落着と思われたものの、亡くなった少年は不良グループ3人に突き落とされたという告発状が校長などに届く。

その告発状をテレビ局の記者が入手し、いじめが裏にあると報道したため事態は一気に急変する。しかも亡くなった少年と同級の少女が交通事故で死亡し。加害者と目される不良グループの喧嘩で一人が大怪我をする事件も絡む。ところが学校側は好調などを辞職させ、事件の決着を図ろうとする。ここまでが第一部「事件」である。

この大人たちの思惑に対し、第二部「決意」は翌91年の夏休み前、死んだ二人と二年生の時に同級でクラス委員だった少女が三年生になっても事件を忘れず、卒業制作を事件の真相解明にしようと級友たちに訴えることから始まる。やがて彼女に賛同する生徒も現れ、卒業制作も不良グループのボスである同級生を告発状どおりに殺人罪で問い、真実を知るための学校内裁判にしようと彼女は決意する。

そして第三部「法廷」は夏休みの8月15日、終戦記念日の朝から20日までの6日間のリーガルサスペンスとなる。

謎解きの面白さに加えて、主役となる思春期の子供たちにつきものの不安、迷いや成長ぶりが実にうまく描けていて、まるで血と肉を与えられたひとりの人間として躍動している感がある。ミステリーは登場人物の人間性がうまく描けていないと台無しだが、本書にはそれがない。

「宮部みゆき」は「東野圭吾」と並んで現代ミステリー界の東西の両横綱であることを改めて確信した。

絶対に読んでみて「時間を損した」と後悔しない一押しのミステリーである。興味のある方はぜひ読んで欲しい。

☆ 逃げる幻

                   

1か月ほど前に図書館から借りてきて、いっさいの先入観なしに読み始めてみたのだが、非常に良くできた精緻なミステリーだった。あらすじを紹介しておこう。

「家出を繰り返す少年が、開けた荒野(ムア)の真ん中から消えた――ハイランド地方を訪れたアメリカ軍人ダンバー大尉が地元貴族ネス卿の娘から聞かされたのは、そんな不可解な話だった。その夜、当の少年を偶然見つけたダンバーは、彼が何かを異様に恐れていることに気づく。そして二日後、少年の家庭教師が殺される――スコットランドを舞台に、名探偵ウィリング博士が人間消失と密室殺人が彩る事件に挑む傑作本格ミステリ。」

自分が書くよりも、もっとうまい読書感想がネットにあったので引用させてもらおう。要は「手抜き」ですが(笑)。

「2015海外本ミス第1位作品。世界史に疎い私にも、この第二次世界大戦終結直後におけるスコットランドの時代背景を無理なく理解させてくれる丁寧な描写が有り難く、戦争が残した罪深い爪痕に語り尽くせぬ犠牲を強いられた人が世界中にいることを再認識させられる物語だった。人間消失や密室の謎は今作において装飾の一部程度ではあるが、終盤のウィリングの真相解明には感嘆の連続で、漏れのない伏線回収の素晴らしさも見事だった。そして全てが明かされた時に訪れるカタルシスには切実な哀しみが内包されている。絶賛に違わぬ本格ものの傑作。」

登場人物の会話に奥行きがあって、犯人の意外性も申し分なし。これは極めて上質のミステリーである。
 


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