まい、ガーデン

しなしなと日々の暮らしを楽しんで・・・

川上未映子著 『夏物語』

2020-09-14 08:57:37 | 

川上さん、ずっと以前に読んだ『ヘヴン』からの2冊目だと思う。
もう忘れているので何とも言えないが、かなり衝撃的な小説だったことはかすかな記憶にある。それ以来。

 いい小説だった。ずっしりとして読みごたえがあった。

手に取ってからかなり日数をかけて読み終えた。
読みづらいというのでもなければ、どうも好きになれないというのでもない。
共感とか理解するなんて次元を通り越していて、ただただ小説の世界に浸るだけで。
読み進めるのが惜しいような、1日にこれ以上の頁数を読むと沈んでいきそうな、
何とも不思議な気分に陥って少しづつ読んでいった。


小さめの文字で543ページの長編。
第一部 二〇〇八年 夏
豊胸手術をすると大阪から上京してきた姉の巻子、巻子とは一切話さない姪の緑子と
三輪のアパートで過ごした3日の夏の話。
死んだコミばあ、母との思い出が絡まった話に、読んでいる間中切なくて泣きたい気分が
ひたひたと胸に押し寄せてきた、変。それは第二部にも続いて。

第二部 二〇一六年 夏~二〇一九年 夏
夏目夏子は38歳、初めて刊行した短編集がヒットして、どうにか文筆業で身を立てるようになっていた。
けれどー。
ーつまり毎日のなかでふと、この「けれど」が現れるようになって。

大学ノートに綴られたメモ。

いいけど、わたしは会わんでええんか
わたしはほんまに
会わんでええんか後悔せんのか
誰ともちがうわたしの子どもに
おまえは会わんで いっていいんか
会わんでこのまま

第二部は、ほとんどこの命題で話が進んでいるから面倒と言えば面倒だが、
川上さんの圧倒的な筆力と詩情溢れる筆致で物語は豊かに膨らんでくる。

夏子は、自分は普通のそういう手段では子供が生めないと特殊な方法を検討している。
AID(第三者の精子を使った人工授精)

そういう手段で生まれた逢沢潤。インタビューで呼びかけている。
「身長百八十センチと大きめで、はっきりした二重まぶたの母とは違って、一重まぶた、
子どもの頃から長距離走が得意です。現在は五十七歳くらいから六十五歳くらいのかたです。
心当たりのあるかたは、いらっしゃいませんか」
同じくそういう手段で生まれた善百合子。百合子は夏子に言う。
「あなたは、どうしてそんなに、子供が生みたいの」(川上さんは「生む」を使っている)
続けて、
「自分の子どもがぜったいに苦しまずにすむ唯一の方法っていうのは、その子を存在させないことなんじゃないの。
生まれないでいさせてあげることだったんじゃないの」

二人は鍵になる重要な存在。

そして、私とならもっといい作品を一緒につくれるという編集者の仙川涼子。
同業の売れっ子作家遊佐リカが登場して、物語は広がり厚みを増してくる。

夏子が住んでいる三軒茶屋や生まれ故郷、今も姉の巻子と姪の緑子が住んでいる大阪
笑橋の日常情景の描写が素晴らしく、生活音や匂いまでが漂ってくるようでいっそう引き込まれていった。
そしてなぜか川上さんが使う「寂寥感」に襲われる、それはいつまでも続いて。

結末は、私が願う通りに運んでいってあたたかな幸せな気分でいる。
昨日読み終わったばかりとはいえ、毎度のことながら文章が取っ散らかって。
いやいや川上さん、素晴らしい作品を書いてくださいました、と頭下げたい気分。
静かな興奮はまだ続いているんですもの、次の本が手に取れない。

 

コメント
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