夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『1001グラム ハカリしれない愛のこと』

2015年11月12日 | 映画(さ行)
『1001グラム ハカリしれない愛のこと』(原題:1001 Grams)
監督:ベント・ハーメル
出演:アーネ・ダール・トルプ,ロラン・ストケル,スタイン・ヴィンゲ,
   ヒルデグン・リーセ,ペール・クリスティアン・エレフセン他

前述の『マルガリータで乾杯を!』とキツキツのハシゴ。
シネ・リーブル梅田の4階から3階へ走りました。

ノルウェー/ドイツ/フランス作品。
大好きだった『キッチン・ストーリー』(2003)のベント・ハーメル監督。
その後の監督作『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007)は、
なんだか「無邪気と無神経は紙一重」を感じてイマイチ、
しかしその次の『クリスマスのその夜に』(2010)でふたたび好きに。
これはどうかなと思ったら、いやはや引き出しが多いですね、この監督。

ノルウェーの国立計量研究所に勤める女性科学者マリエ。
ガソリン給油機のメーターからスキージャンプ台の長さまで、きっちり測る。
計測のエキスパートそのままに、杓子定規な性格。
しかし、結婚生活は破綻し、行く先を測ることはできそうにない。

あるとき、研究所を束ねる父アーンストが心臓発作で倒れる。
パリでおこなわれる国際セミナーに出席予定だったアーンストに代わり、
マリエは「キログラム原器」を携えてパリへ向かうことに。
セミナーを前に、パリでは1キログラムの新定義をめぐって議論が飛び交っている。
そんなパリで、マリエはパイという男性と出会うのだが……。

キログラム原器とは、重さの基準となる器械。
国際キログラム原器はプラチナ90%、イリジウム10%から成る円柱形の金属塊。
パリ郊外のBIPM(国際度量衡局)で厳重に保管されているそうです。
これをもとに複製したキログラム原器を各国に配布してそれぞれが保管。
約40年ごとに特殊な天秤を用いて国際キログラム原器と比較されているとのこと。
こんなものがあるなんて、全然知りませんでした。

ファンタジーの要素はないはずなのにファンタジー。
北欧の冷え冷えとした空気が伝わってきそうな風景や整然とした部屋は
一見すると冷たく感じられるのに、実は温かい物語。

感情を露わにはしないマリエの孤独な心情。
電気自動車を見かけたときの彼女のちょっぴり嬉しい気持ち。
マリエ役のアーネ・ダール・トルプは絶世の美女というわけではないのに、
知的で凜とした美しさがあります。
彼女の表情から読み取れることのなんと多いことか。
説明が最小限に抑えられているので、不思議に思うシーンもいくつか。
たとえば、なぜその道をそんなふうに走るのという答えが明らかになるとき、
おぉぉぉ、そういうことかと思わず笑ってしまいました。

今こそ人生をハカリにかけるときだという父親。
彼の人生の重さを測ってみるマリエ。
このシーンのマリエの表情も大好きでした。

人生のいちばんの重荷は、背負うべきものが何もないこと。
背負うものがあるからこそ、道を前へ歩いてゆくことができるのですね。

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