私の生まれ育った町では、20歳の成人式は都会に働きに出ていた若者が帰省するお正月に行われていました。
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私はしばらく星から目が離せませんでした。
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同級生が成人の祝いで盛り上がっている時、私は奥深い九州の山の中、それも雪の降り積もる白と黒だけの墨絵のような世界にいました。
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私の初めての冬山登山は、傾(かたむき)山から祖母(そぼ)山までの縦走でした。
メンバーは1年生の私にとっては雲の上の存在にあたる大先輩(?年生)のM永さん、2年生のF上さん、S田さんと同じ1年生のS永と私の5名です。
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大晦日の朝、大学のサークルボックス(部室)を出発し、国鉄豊肥本線の緒方駅からはバスで傾山登山口に向かいました。
登り初めは雪はありませんでしたが、標高が増すと次第に地面に白い物が目立ってきます。
そして、稜線まで登ってくると一面雪の世界でした。
傾山山頂はガスに包まれて真っ白々、1日目の夜(大晦日の夜)は九折越にテントを張ったように記憶しています。
いつもだったら大晦日の夜は、コタツに入って紅白歌合戦を見ているところです。
天気図を録るためにラジオは持ってきていますが、わざわざ山にきて世俗に浸ることはしませんでした。
夕飯も食べ終え、夜になりました。
水が足りなくなったので、少し離れた水場まで水を汲みに行くことになりました。
私と2年生の先輩でテントの外に出ると、なんと、空には無数の星が煌めいているではありませんか。
今まで見たこともない星の数です。天の河も星の洪水です。
下界では見えない微弱な光の星も全て手が届く所にあるようです。
私はしばらく星から目が離せませんでした。
雪が積もったテント場も木の枝も、星の光で白く照らされ明るく感じられました。
2日目も3日目も天気に恵まれ、自分たちが歩いてきた稜線をはっきりと目で追うことができました。
雪が舞い散る中を黙々と歩いたこと、今にも空から落ちてきそうな無数の星々、白く浮き立って見える夜の雪景色、肌を刺すような冬山の空気…
成人式に参加することはできませんでしたが、その事が却って、私にとって特別な日の記憶として今でも鮮やかに思い出されます。
私は胸を張って言います。
「私の成人式の写真はこれです!」
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