TANEの独り言

日々の生活の中でのつぶやきだから聞き流してネ

父の思い出<ミルクセーキ>

2020-09-28 07:28:00 | 父の想い出
昨年の4月、連れ合いと長崎の街を訪ねました。

寺町を通り、坂本龍馬がつくった"亀山社中” の記念館を訪ねてみようということになりました。


分かりにくいところでしたが、細く入り組んだ急な坂道や階段を案内板に従ってしばらく登って行くと「亀山社中資料展示場」の看板を見つけました。



私はともかく、連れ合いは、
「もうこれ以上、坂道は上れません!」
といった表情だったので、たどり着いた時はホッとしたものの、"閉館中” の札がかかっていました。


肩を落とし上ってきた道を引き返しながら、何処かで旨いコーヒーでも飲みたいねという話になり、スマホで検索すると…

少し先に、昔からやっている喫茶店があることが分かり行ってみることにしました。



何と、この店は遠藤周作の小説『砂の城』の中で、

『タナカヤで流行の服を見物したあとは、銀嶺か冨士男という店でやすむ。冨士男は珈琲がおいしい。』

と、店の名前が出てくるほど有名な老舗喫茶店だったのです。

連れ合いはケーキセット、私は何にするか迷い、メニューの中に"ミルクセーキ” の文字を見つけたので注文しました。


これを読んで、
「エッ!いい歳したおじさん(お爺さんかも…)がミルクセーキ?」
と、思われたかもしれません。


実は、ミルクセーキには子どもの頃の特別な思い出がありました。


私の父は、戦地で食料調達と調理の担当もした経験もあり、復員後に家でコンビーフの焼き飯を作ったり、子どもたちと一緒にカルメ焼きを焼いたりしてくれていました。

レパートリーは豊富でドーナツや餃子は生地から捏ね、缶の蓋で型を抜くところからやっていました。

給食のコッペパンでフレンチトーストを作ってくれたこともありました。

中でも私を含めた子どもたちが魅了されたのが"ミルクセーキ” です。

近所の氷屋さんから買ってきた氷をキリや金槌で細かく砕き、練乳のタップリ入ったボールに卵黄、砂糖などを加えて作ったミルクセーキはこの世のものとは思えない美味しさでした。

こんな思い出もあり、メニューに"ミルクセーキ” の文字を見つけた時、反射的に注文したくなったのだと思います。


「珈琲 冨士男」のスタッフは総じて年配の方が多く、連れ合いのケーキセットも少し腰の曲がった年配の女性が運んできてくれました。

少し遅れて、私の注文したミルクセーキが同じ年配女性によって運ばれてきました。

そのミルクセーキをひとすくい口に運んだ瞬間、昔、家族で作ったあのミルクセーキの味が鮮やかに蘇ってきたのでした。

「珈琲 冨士男」の"昭和” な雰囲気と、小説から出てきたような店員さんの存在感が、一瞬にして私を遠い昔に連れて行ってくれたように思えました。


私は、眉間あたりをキンキンさせながら練乳と卵黄の味のするミルクセーキを口に運んでいました。