2017年5月5日-3
美術修行 読書録20170505:笹沼俊樹 2013/7 現代美術コレクションの楽しみ
美術修行2017年5月5日-3
読書録20170505
[さ]
笹沼俊樹.2013/7/25.現代美術コレクションの楽しみ 商社マン・コレクターからのニューヨーク便り.4+171pp.三元社.[本体1800円+税][Rh20170505][大市中図707.9]
この書は、商社に勤めた給料生活者が、ニューヨークやパリなどでの美術収集者(コレクター)として、美術の勉強、画廊とのかけひき、オノサト トシノブ や白髪一雄の作品についての日本と外国との 評価の差異が書かれていて、貴重である。
塗り絵画や線描き絵画の価格を決めるのは、美術館学芸員と美術収集者が、美術館での展覧会開催での評価づけと有名画廊を介した美術館と術収集者による購買(を通じた価格づけ)だということである。
日本では、地方自治体の美術館は自治体の借金財政のためか、美術作品の購買予算はほとんどが零である。
「1987年12月5日。〔略〕ジョエル〔 シャピロ〕の個展まで3ヶ月以上もあるのに、〔ポーラ・クーパー画廊のなかに〕運び込まれた作品はすべて売約済み。〔略〕
この頃、アメリカでは、一ヶ月半ほどの前の10月19日に発生したニューヨーク株式市場の大暴落「ブラック・マンデー」後、株から逃げた投資資金が不動産や絵画に向かい始めた時期だった。
美術市場が活況を呈してくると、欧米の富裕層コレクターや画廊と緊密な関係を築いているコレクターなどが、画商の周辺に群がってくる。これらの枠の外に置かれているコレクターなどは目もくれられない。」
(笹沼俊樹 2013/7、117頁)。
「ニューヨークで評価を取った画商は、作品を売ることにのみ埋没しない。絶えず、市場で作家をどのようにに育成し、どのように価値を創出するかに、細心の注意を払っている。
一方、顧客も大切にしている。上質の作品に至っては、前もって、上得意の信頼できる富裕層コレクターに密かに見せて、予約を取ってしまう。作品は人目にさらされることなく、消えてゆく。」
(笹沼俊樹 2013/7、118頁)。
「ジョエルは二作品を差し出すことで、「形状、色彩、素材、それぞれの特性が見事に絶妙なバランスをとったとき、生気がその作品に宿るのだ」ということを実物で、なんとなく教示しているように思えた。」
(笹沼俊樹 2013/7、124頁)。
上記の二つの作品とは、
a.変形五角形の鮮やかな青の油絵具(下層には白や黄が塗られている)が塗られた木製の作品
b.それを原型にして鉄で抜いた真っ黒に塗装された作品
である。
二者は、形はほぼ同一(木製の方は、側面の木の貼り合わせ部分に、ごく細い隙間がある)である。
木製か鉄製かは、その表面への塗りが厚ければ、わからないだろう。たとえば発泡スチロールを黒く塗れば、重々しい鉄製かと感じる。
大きく異なるのは、鮮やかな青か、真っ黒か、である。これが、二者の見えの違いの大部分であろう。笹沼俊樹氏は、その変五角形と相まった鮮やかな青が好みだったのだろう。
「海外でオノサトの作品を所有しているコレクター〔略〕の最大公約数は、「我々の文化圏では表現しえないものを見事に描き出している。」〔略〕「現在100人の受賞作品で、欧米作家が制作したものは、“強さの主張”だったり、“色彩の強調”、そして、“理性を強調”したものが多い。しかし、日本人作家の作品を見ていると、何か政治に問いかけるようなもの、そして不思議にも、心が和むようなものを感じるのですよ」
(笹沼俊樹 2013/7、150頁)。
「行動開始のための判断基準が自分自身の眼ではなく、価格や欧米の評価だとしたら、この主体性のなさに、やりきれなさを感じる。」
(笹沼俊樹 2013/7、159頁)。
美術修行 読書録20170505:笹沼俊樹 2013/7 現代美術コレクションの楽しみ
美術修行2017年5月5日-3
読書録20170505
[さ]
笹沼俊樹.2013/7/25.現代美術コレクションの楽しみ 商社マン・コレクターからのニューヨーク便り.4+171pp.三元社.[本体1800円+税][Rh20170505][大市中図707.9]
この書は、商社に勤めた給料生活者が、ニューヨークやパリなどでの美術収集者(コレクター)として、美術の勉強、画廊とのかけひき、オノサト トシノブ や白髪一雄の作品についての日本と外国との 評価の差異が書かれていて、貴重である。
塗り絵画や線描き絵画の価格を決めるのは、美術館学芸員と美術収集者が、美術館での展覧会開催での評価づけと有名画廊を介した美術館と術収集者による購買(を通じた価格づけ)だということである。
日本では、地方自治体の美術館は自治体の借金財政のためか、美術作品の購買予算はほとんどが零である。
「1987年12月5日。〔略〕ジョエル〔 シャピロ〕の個展まで3ヶ月以上もあるのに、〔ポーラ・クーパー画廊のなかに〕運び込まれた作品はすべて売約済み。〔略〕
この頃、アメリカでは、一ヶ月半ほどの前の10月19日に発生したニューヨーク株式市場の大暴落「ブラック・マンデー」後、株から逃げた投資資金が不動産や絵画に向かい始めた時期だった。
美術市場が活況を呈してくると、欧米の富裕層コレクターや画廊と緊密な関係を築いているコレクターなどが、画商の周辺に群がってくる。これらの枠の外に置かれているコレクターなどは目もくれられない。」
(笹沼俊樹 2013/7、117頁)。
「ニューヨークで評価を取った画商は、作品を売ることにのみ埋没しない。絶えず、市場で作家をどのようにに育成し、どのように価値を創出するかに、細心の注意を払っている。
一方、顧客も大切にしている。上質の作品に至っては、前もって、上得意の信頼できる富裕層コレクターに密かに見せて、予約を取ってしまう。作品は人目にさらされることなく、消えてゆく。」
(笹沼俊樹 2013/7、118頁)。
「ジョエルは二作品を差し出すことで、「形状、色彩、素材、それぞれの特性が見事に絶妙なバランスをとったとき、生気がその作品に宿るのだ」ということを実物で、なんとなく教示しているように思えた。」
(笹沼俊樹 2013/7、124頁)。
上記の二つの作品とは、
a.変形五角形の鮮やかな青の油絵具(下層には白や黄が塗られている)が塗られた木製の作品
b.それを原型にして鉄で抜いた真っ黒に塗装された作品
である。
二者は、形はほぼ同一(木製の方は、側面の木の貼り合わせ部分に、ごく細い隙間がある)である。
木製か鉄製かは、その表面への塗りが厚ければ、わからないだろう。たとえば発泡スチロールを黒く塗れば、重々しい鉄製かと感じる。
大きく異なるのは、鮮やかな青か、真っ黒か、である。これが、二者の見えの違いの大部分であろう。笹沼俊樹氏は、その変五角形と相まった鮮やかな青が好みだったのだろう。
「海外でオノサトの作品を所有しているコレクター〔略〕の最大公約数は、「我々の文化圏では表現しえないものを見事に描き出している。」〔略〕「現在100人の受賞作品で、欧米作家が制作したものは、“強さの主張”だったり、“色彩の強調”、そして、“理性を強調”したものが多い。しかし、日本人作家の作品を見ていると、何か政治に問いかけるようなもの、そして不思議にも、心が和むようなものを感じるのですよ」
(笹沼俊樹 2013/7、150頁)。
「行動開始のための判断基準が自分自身の眼ではなく、価格や欧米の評価だとしたら、この主体性のなさに、やりきれなさを感じる。」
(笹沼俊樹 2013/7、159頁)。