ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

清水さんへ 「春がくると」

2012-04-08 13:11:54 | Poem




   かたむきかけた冬陽の庭にたたずむと
   かぼそい母のからだは透きとおるようだ
   
   母の足元から影が長くのびてきて
   わたしの足元に届いている
   あなたの寂しさも 見果てぬ夢も
   影をのばしてきた

   母は事もなげに日常を歩くわたしを
   いつも遠い目をして追っている
   あなたとわたしの距離は
   もうそれほど遠くはないけれど
   今のあなたには
   わたしがささやかな希望のかたち

   わたしは寡黙に働く
   ことばにしてしまうと
   霧散してしまいそうなものを
   奥歯でくいとめるために……
   はかりようもない寂しさ

   春がくると
   母の記憶は花のようにこぼれはじめた
   虚空をまさぐる母の寂しい枝々は
   ついにわたしの日々を繁らせて……
   わたしの磨いたガラス窓は
   母の磨いたガラス窓
   わたしの貼りかえた障子は
   母の貼りかえたそれに
   「ほら お部屋が明るくなったでしょう」

   崩壊しようとする母は
   そのようにしてみずからを救済したのだ

   ふたたび 母の春


 *     *      *


昨年5月30日詩人清水昶さんがご逝去。そして2012年、桜の開花の季節に清水ご兄弟のお母上がご逝去。
お父上の死から、弟の昶さんの死、母上の死……列車の連結のように大切な方々をなくされた兄上の清水哲男さんの哀しみはいかばかりか?
言葉もない。ただここに思い出した我が母について書いた過去の拙詩を差し出すのみ。
哲男さま。お疲れでしょう。ご自愛くださいませ。

もう一編の詩を思い出しました。「伝言・加藤温子さん」