室生犀星の小説「杏っ子」は有名だが、彼の「哈爾浜詩集」のなかには「杏姫」という詩がある。
杏の実れる枝を提げ
髫髪(うない)少女の来たりて
たびびとよ杏を召せ
杏を食べたまへとは言へり。
われはその一枝をたづさへ
洋館の窓べには挿したり。
朝のめざめも麗はしや
夕べ睡らんとする時も臈たしや
杏の実のこがねかがやき
七人の少女ならべるごとし
われは旅びとなれど
七人の少女にそれぞれの名前を称へ
七日のあひだよき友とはなしけり。
あはれ奉天の杏の
ことしも臈たき色をつけたるにや。
思うことありて、この詩をここに記す。