ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

藤沢周平句集

2014-02-04 21:09:28 | Haiku


藤沢周平(1927年(昭和2年)12月26日~1997年(平成9年)1月26日)という名前を目にすると、
わたくしは深く懐かしい思いに沈んでしまう。

それは80代に入ってからの父が、今までの読書傾向をがらりと変えた時期であった。
すでに病んでいた父は書店に出かけることもなくなっていました。
そしてわたくしが代理に買ってくる本がことごとく父の好みから除外されたのには驚いた。
思案に暮れて夫に相談したら「藤沢周平はどうか?」という意見でした。
その時ふと思いだしたことがありました。
ある編集者の方のエッセーに、詩人のSさんが病床にて藤沢周平の本を読んでいたと書かれていました。

それが大当たりでした。父の読書は急激に早くなりました。
私の書店通いも急激に増えて、書店の「藤沢周平」の文庫コーナーを網羅した感がありました。
藤沢の静かな深い人間愛が、架空の歴史小説のなかに流れていました。
それは病む父の心を慰めてくださったのでしょう。
しかし、俳句を好んでいた父にはこの本はまだ出版されていなかった。間に合わなかった。


藤沢作品に多く登場する架空の藩「海坂藩=うなさかはん」は、
実は藤沢氏が初めて参加した俳句誌「海坂」からとったものでした。
そこで昭和28~29年の2年間ほど真剣に句作した時期でもあったようです。
さらに「海坂」とは、水平線のゆるやかなカーブのことだそうで、美しい言葉です。

この本のなかでは、俳句のページは3分の1ほどで、俳句誌「海坂」と「のびどめ」に掲載されたものです。
それ以外は俳句と俳人にまつわる随筆です。
これらの随筆のなかで最も興味深く読んだものは「一茶」執筆時の、
著者による俳人像を方向づけてゆく過程であった。

以下は、藤沢周平の俳句の抜粋です。(個人的趣味によって…。)

 
桐の花咲く邑に病みロマ書読む (海坂)
水爭ふ兄を残して帰りけり
汝を帰す胸に木枯鳴りとよむ
桐咲くや掌?るゝのみの病者の愛
梅雨寒の旅路はるばる母来ませり

はまなすや砂丘に漁歌もなく暮れる (のびどめ)
枯野はも涯の死火山脈白く
微かなる脳の疲れや薔薇薫る
黒南風の潮ビキニの日より病む
葭簀(よしず)よりはだか童の駈け出づる

舊友(きゅうゆう)の髪の薄さよ天高し (拾遺)
花合歓や畦を溢るゝ雨後の水 (湯田川中学校碑文)


 (平成11年3月20日 第1刷)