翻訳 小原京子
これは、ディタ・クラウス(1929年・プラハ生まれのユダヤ人)の実話をもとに書かれた小説です。
アウシュビッツ・ビルケナウ強制(絶滅)収容所の31号棟には、ユダヤ人の子供500人が収容されていました。1944年、若者アルフレート・ヒルシュはそこに学校を建てた。子供たちを20位のグループに分けて、それぞれに教師を付けた。もちろんユダヤ人の。教師たちは小声で語る。狭い収容所で、それぞれの教師の講義が邪魔をしないために。黒板も机もない。わずかな椅子があるだけでした。
そしてさらに秘密の図書館を作った。たった8冊の本だが、その図書係になったのが、「ディタ」という少女だった。彼女の仕事はたった8冊の本を教師と子供に貸し出し、傷んだ本の修理をして、毎晩違う場所に隠すことだった。もちろん彼女も秘かにそれらの本を何度も読んだ。
収容所の移動がある度に、人々は選別される。体力のある者とない者にわけられていく。そしてない者が殺される。ある者は移送される。この繰り返しで人々は淘汰されてゆく。病気で死んだ者は、大きな穴に投げ込まれるだけだ。移動先の環境、食糧事情、労働条件はどんどん悪化するだけだ。
別棟にいる父が死に、移動先で母が死に、独りぼっちのディタは、なんとか過酷な日々を生き抜き、ナチスの魔手から解放される時を迎えた。
440ページにもなる長編小説であった。中間部では辛くて読めないという思いもあったが、終章に向かってわずかな光が見えはじめたあたりから、一気に読み終えました。こんなことは二度とあってはならないと思うのは勿論のことだが、過酷極まりない状況のなかでも、ディタは懸命に生きた。その後の人生も……。そこに消えることのない「光」を見た。
(2016年7月10日 第一刷 集英社刊)