小さな駅に電車が停まった
ドアーがきしみながら開くと
大きな蜂が車内に飛び込んだ
電車は時刻通りに走り出し
車内の人々は
前へ後へと波立った
すると、
頑丈そうなスポーツシューズを履いた若者が
窓ガラスにとまっている蜂を蹴って
(スゴイ!強くて柔軟な足!)
座席に落ちた蜂をつまみあげ
(アブナイヨ)
床に落とすと さらに踏みつけた
蜂は動かなくなって
車内は静かになった
しばらくすると
ほっそりとした若者が現れて
死んだ蜂は紙にくるまれて
彼に委ねられ
次の駅で下車した
かつての少年たちが
大人になって
また出会ったような
一駅区間の物語
二人の若者は眼を合わせることもなくて
まだ咲いていた
秋薔薇を観た帰りに……。