ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

生きて帰ってきた男 小熊英二

2016-04-08 22:14:54 | Book




この本を読もうと思ったきっかけは、対談「戦争が遺したもの・鶴見俊輔・小熊英二・上野千鶴子」でした。この対談における小熊英二氏の鶴見俊輔氏への質問が、非常に見事だったことによります。

サブタイトルは「ある日本兵の戦争と戦後」となっています。これは小説ではありません。小熊英二氏によるお父上のお話の聞き取りと、時代考証から成り立っています。
読み終わって、深い感動を覚えました。小熊英二氏のお父上である「小熊謙二氏・1925年生まれ」の少年時代から旧制中学を早期卒業(戦争のため。)、その後の就職、そして召集で満州へ、終戦とともに、シベリア抑留者となる。そして帰国。貧しく働く場所を転々としてから、やがて仕事が順調になった。結婚、そして1962年小熊英二氏の誕生となる。

お話を「シベリア抑留」に絞らず、お父上の戦前、戦中戦後、そして今日に至るまでの歴史をすべて明らかにすることによって、「戦争」が一人の人間の生涯をどのように翻弄したか?そしてどのようにして、お父上が戦中戦後に誠実に向き合ってきたかが、丁寧に検証されていました。

その一例が、朝鮮人や台湾人の元日本兵が、元日本兵と同等の恩給その他を要求する運動や裁判に積極的に関わり、お父上の変わらぬ生き方をはっきりと見たという思いでした。

以前、新聞紙上で、小熊英二氏がお子さんと手を繋いでいる写真を見たことがありました。非常に忘れられないものでした。この本を読みながら、さらに忘れることはないでしょうと思いました。この先にも、さらに家族の歴史が続いてゆくのでしょう。どうか幸せな日々でありますように、と願っています。全ての人々も幸せでありますように。ふたたび戦争が起こりませんように。

書いていたら、きりがありません。感動をどう伝えたらいいのか?是非とも読んでいただきたいものです。


《覚書 引用です。》

『さまざまな質問の最後に、人生の苦しい局面で、もっとも大事なことは何だったのかを聞いた。シベリアや結核療養所などで、未来がまったく見えないとき、人間にとって何がいちばん大切だと思ったか、という問いである。
「希望だ。それがあれば、人間は生きていける」 そう謙二は答えた。』


 (2015年6月19日 第一刷 岩波書店刊)

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