エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

改訂版 良い子 悪い子

2015-09-28 02:52:55 | エリクソンの発達臨床心理

 

 

 
円熟した大人=物事を見抜く洞察力+秩序も大事にする鷹揚さ  
  心の眼、すなわち、一隻眼と、心の耳が、とっても大事。 p349第3パラグラフ。  &nbs...
 

 良い子悪い子普通の子。そう言われても、分からない人がいることでしょう。私も年がバレちゃいますけれども、そのむかし、欽ちゃん、こと、萩本欽一さんの人気番組「欽ドン」で、「良い子悪い子普通の子」という題で、投稿ネタを紹介するコーナーがありました。今でも忘れられないネタは、「先生が板書を間違った時、良い子:間違いを訂正してノートをとる。悪い子:先生の間違いを指摘して、ノートをとる。普通の子:間違いをそのままノートに取る」… と言った感じ。何でこれを印象深く覚えているのか? それは、無思考に同調する、日本人の特色を、このネタはよく示しているからだ、と今は考えています。

 今晩は、何の話だと思います。良い子悪い子の話です。でもね、この場合の良い子悪い子は、愛着障害の子どもです。

 愛着障害は、アメリカ精神医学会が出している診断マニュアルの、最新版の一つ前、第Ⅳ版には、抑制型と脱抑制型の2つのパターンがあることを指摘しています。このブログでも何回か取り上げているものです。抑制型は、inhibited、脱抑制型は、disinhibitedが、それぞれの英語です。抑制型は、表情が乏しく、自分の気持ちを言葉にすることも少ない感じで、「ちょっと暗いけれども、特に問題はないから」と言われてしまうタイプです。それに対して、脱抑制型は、友達を打つ、時間やルールを守らない、ものは壊す、教員の言うことは聴かない…と、「クラス一番の問題児」は、脱抑制型愛着障害児だと、日本の学校では、ほぼ100%決まっていますから、教員がホットケナイタイプになります。クラスが成り立たないからです。私どもクリニカルサイコロジストのところに相談されるケースでも、前者よりも後者が、圧倒的とまでは言えないけれども、かなり多い。抑制型は、いわば「良い子」、脱抑制型は「悪い子」ってな感じ。

 でも、子どもを観察している感じで言うと、抑制型の「良い子」の方が、脱抑制型の「悪い子」よりも、「重たいなぁ」と感じる場合が非常に多いんですね。今の小学校では、「ちょっと暗いけれども、特に問題はない」子どもまで、事細かに対応する余裕がありませんから、すなわち、脱抑制型の「悪い子」に振り回されている場合が多いですから、抑制型の「良い子」が心理職になかなか回ってこないですね。それでも、「〇〇さんは、ちょっと重たい感じなんで、出来たら心理面接をした方が良いんですけれども…」と、心理面接のコーディネーター役の教員に言う場合も、結構ありますもんね。それでも、実際に心理面接に至るケースは、そんなに多くはありません。一番頻度が多い学校でも、週一回、6時間の勤務時間が原則では、5ケースやったら、オーバーーフローでしょ。それに、教員がそんなに困ってないので(なんせ「暗いけども、特に問題はない」のですから)、心理面接をするのに必要な、保護者の了解を取ったり、そのためにいろいろ説明したりするのが「手間」と感じることも、あるいはあるのかもしれませんからね。しかも、脱抑制型の愛着障害(悪い子)よりも、抑制型の愛着障害(良い子)の方が重たい、と感じるは、あくまで臨床的直感であって、その手の研究があるかどうかも分かりませんでしたしね。

 一昨日手に入れた、ヴァン・デ・コーク教授がペンギン・ブックスから今年出した The body keeps the score : brain, mind, body in the healing of trauma 『虐待されたら、意識できなくても、身体は覚えてますよ : 脳と心と身体がトラウマを治療する時どうなるか?』。それを、パッと開いたところに、その研究が出てたんですね(pp.121-122)。 ツイテますね。それは、昨年、横浜であった心理臨床学会で講演されたルース教授の研究を紹介する件でした。この本によれば、ルース教授は、ハーバードで、ヴァン・デ・コーク教授の愛着研究の同僚だったそうですよ。

 この部分のタイトルが The long-term effect of disorganized attachment 「まともな愛着がない場合の長期に渡る影響」というものです。ルース教授は、愛着研究のために、1980年代初め、いまから30年以上前に、母子が向かい合っている場面をヴィデオに収めることを、赤ちゃんが、生後半年、1年、1年半、5才、さらには、7才か8才の時に、都合5回したそうです。対象はすべて、愛着障害のリスクがある、と考えられる家族でした。

 まともな愛着が育たないケースには、2つのパターンがあるようです。良い子悪い子普通の子とは違います。矛盾していますでしょうか? 母親の話です。「第1パターンの母親」と「第2パターンの母親」と呼ぶことにしましょうか。

 第1バターンは、母親が自分のこと(仕事や研究)にかまけて、子どもの面倒を看ないケースです。そういう母親は、「押し付けがましく、子どもに対して敵意がある」場合が多いそうです。脱抑制型の愛着障害の子どもと同じです。その手の大人も子どもも、見てたら(話を聴いてたら)それとすぐに分かりますね。母親が赤ちゃんに合わせるのではなくて、母親が赤ちゃんに自分に合わせるてもらいたいし、合わせるようにするタイプです。

 第2パターンは、母親が赤ちゃんをどうしていいのか分からず、恐る恐るかかわるタイプだそうです。そういう母親は、「引っ込み思案で、依存的な」場合が多いそうです。抑制型の愛着障害の子どもと同じです。この母親は、また、子どもを慰めるよりは、自分が子どもに慰めてほしいタイプですから、子どもが泣いてても、抱き上げないそうですね。母親自身が、大事にされて来なかったからです。

 ルースさんは、第1パターンの母親は、身体的虐待を受けるか、親のDVを見せられているし、第2パターンの母親は、性的虐待を受けたり、親と死別・生別していることがある、とのことです。

 私に言わせれば、母親自身の心の中に、うまく関われずに、ホッタラカシにしている子どもが1人いるから、眼の前の子どもとも、うまく関われないし、ホッタラカシにする訳ですね。

 しかし、こうなると、赤ちゃんの方でも、自分のいろんな気持ちに合わせる力がない、その母親に対して、だんだん気が休まらなくなりますし、だんだん不機嫌になりますし、だんだん「イヤイヤ」をするようになるのが、ルースさんはヴィデオを見て分かったそうですよ。そりゃそうでしょ。母親も、いくら自分のお腹を痛めた子でも、そんなにされれば、ますます「関わりたかぁない」となります。

 そして、その赤ちゃんが20才になる頃、どうなっているのでしょうか? どう思います?

 ルースさんの追跡調査によれば、次のように報告してるそうですよ。「生後8か月の時点で、赤ちゃんが母親と気持ちのやり取りがあまりできないでいる場合、情緒不安の青年になり、様々な自己破壊的な衝動、たとえば、極端な浪費、援助交際のような、不特定多数とのセックス、薬物濫用、危険な暴走運転、過食などに走る場合が多い」と。また、ルースさんたちの当初の予測とは反対で、第1パターンの「押し付けがましく、子どもに敵意を持つような母親」よりも、第2パターンの「気持ちを出さない(一見、大人しそうな)母親」の方が、大人になった子どもたちを情緒不安にすることに対して、深刻にして、長期にわたる影響がある、ということです。

 ルースさんの報告は母親に報告です。しかし、その母親は、かつて子どもでしたし、しかも、愛着障害の子どもであったことを、思い起こしていただきたいと思います。 愛着障害を治療せずに、そのままにホッタラカシにしておいたら、「良い子」も「悪い子」も、共に「悪い親」になる訳です。かくして、愛着障害は、拡大再生産され、愛着障害の子どもに様々な苦しい思いをさせ、さまざまな精神障害をもたらすばかりではなくて、社会が、人的負担、財政上の負担をしなくてはならない、様々な社会病理を生み出すことになります。

 

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