AMASHINと戦慄

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月喰ウ蟲

2020年07月24日 | 二酸化マンガ
ちょっとだけ奮発して、大越孝太郎の短編集『月喰ウ蟲』の初版本をようやく入手。
人間椅子ファンとしては購入が随分と遅すぎた稀覯書である。

大越孝太郎作品を今の今まで躊躇してきた理由として、改訂版の方の『月喰ウ蟲』の表紙を先に見てしまって、その画にピンとこなかったってのがある。
元来ガロ系のマンガ作品は、丸尾末広の作品にしろ、自分には敷居が高いものがあったし。


大越孝太郎といえば、ご存じ初期人間椅子のジャケット、挿絵などでかなり携わった人物として、椅子ファンの間では馴染ある作家さんであるかと。




大越氏の人間椅子での仕事はどれも素晴らしく、9th『怪人二十面相』なんかは画にかなり拘りと力が入っていて秀逸であるかと。
今回購入した『月喰ウ蟲』の初版本の表紙はわりとキャッチ―で、構図もなんとなく9thジャケと似ており、「あ、この表紙なら買いだな」と得心した次第である。

チラシのデザインなども手掛けられてて、この1992年の関西三都『百物語』ツアーのイラストなんて、もっサイコー



『月喰ウ蟲』は、浪人時代同じ予備校に通ってた人間椅子ファンの女の子に見せてもらったことがあって、表題作「月喰ウ蟲」では、はじめ近未来世界のデカダン趣味に溢れた街風景が3ページくらいにわたって映し出されるんだが、そこにさりげに(いや、これみよがしか?)ねずみ男時代の鈴木研一氏が(コマをまたいで)描かれているのを見て「オオーーッ!!」と興奮したのを覚えている。




「パノラマ境奇譚」での街風景も、よくみてみると・・・・



で、本書の巻末で解説を担当しているのが和嶋慎治氏だったりする。




『猟奇男大越孝太郎、その人と作品』というタイトルで、大越氏の人となりと作品について、いつもの文学青年ちっくな文体で解説しておられる。
その扉ページもちゃんと大越氏に描いてもらってる。

これはどちらかというと鈴木氏へ捧げた感じ?


扉ページは初版のと改訂版のとそれぞれ異なり、改訂版の方は和嶋氏がオーケンみたいないでたちで描かれていて、なんかちょっと違うような気がする。
ちなみにカバーに和嶋氏が写真付きで紹介されてるのは初版のみ。


和嶋氏の解説によると、大越氏とはガロのパーティーでお互いよそよそしい初対面を果たしたんだとか。
5ヵ月くらい前に、古本屋で『ガロ』の江戸川乱歩特集号(1994年4月)を発見し、最近推しの谷弘兒目的で購入したら、奇遇にも大越氏の作品(『妖虫』)と和嶋氏の文章が掲載されていた。
ひょっとして、この頃のことだろうか?




江戸川乱歩『妖虫』は、今回購入した初版にも掲載。



さらに和嶋氏の解説によると、この大越氏、マンガのみならず実生活においても、現代の人形倒錯者とでも言うべき本格的なプラモデル、フィギュア作成の趣味も持ち合わせており、その彼の造ったフィギュア作品が初版本の裏表紙、目次ページ’に(あと背表紙にも)堂々と掲載されている。
(本書には、特別企画として3ページにわたる模型講座も掲載されている。これも初版のみ)




そして、なにをかくそう人間椅子のインディーズ時代の名作『踊る一寸法師』のあのおどろおどろしい侏儒の造形を手掛けたのも大越氏である。





さて、肝心の短編集『月喰ウ蟲』であるが・・・
本書を読んだ限りでは、大越氏の作品は近未来が舞台のものが多く(まぁこれらは20年も前の作品であるが)、そこに怪奇、畸形、性倒錯、街の頽廃風景、猟奇犯罪、探偵趣味、SEX、DRUG、ROCK N' ROLL・・・・と、自分の好きなありとあらゆる要素を詰めに詰め込みまくるといった印象がある。
人間椅子もその要素のひとつであろう。鈴木氏が出てくる「月喰ウ蟲」は1991年の作品だから、おそらく人間椅子のジャケットを手掛ける以前から彼のお気に入りのバンドだったと見受けられる。

アンドロイド、あるいはアンドロイド化した人間を扱った作品なんかを読むと、ヤプーズの歌詞内容(バーバラセクサロイドなど)を彷彿とさせてるし、全体的に少女愛が濃厚なところは、オーケンの世界に近いものを感じる。

「織垣家の娘」、 「差出人をみたら匿名だこりゃ」 などの、丸尾末広作品を彷彿とさせる昭和初期、大正時代らへんが舞台の土着風の倫理観なしなしの近親相姦ものなんかは、人間椅子の世界にわりと近いものがあるかと。
「差出人を~」のオチなんかはなんとなく原作の人間椅子だし。




表題作「月喰ウ蟲」は、全くキャラ設定の違った内容のものが2編収録されてるんだが、後期のものは探偵趣味に溢れたなかなかポップな作風で、主人公は垂紅介(たれべにすけ)という知的猟奇趣味のオシャレなイケメン作家で、ルックスの良さゆえに女子との接し方も上手いんだけど、ちゃんと愛する従順なかわいい正妻がいたりしてちょっと鼻につくキャラだが、江戸川乱歩が明智小五郎(あるいは怪人二十面相)を自分の分身として描いたように、これはおそらく作者自身の理想像を描いてるんだと。
大越氏は、フリークス(醜怪な者)たちのやるせないコンプレックス、哀れさを代弁するかのような作品を描いてはいるんだが、初版本に掲載されてる作者の写真はけっこうイケメンだったりするので、実生活においては、この垂紅介のように案外リア充だったのではないかと。





現在人間椅子は、昔からしたら考えられないくらいの売れっ子バンドになった。
その躍進に乗じて沙村広明原作のTVアニメ『無限の住人-IMMORTAL-』の第2クール主題歌に、人間椅子の書き下ろし新曲が(ようやく)起用され、その24年振りのコラボを記念して、長年廃盤だった1996年に原作者である沙村広明の企画・依頼によって制作された漫画のイメージアルバム『無限の住人』がリマスタ化され来月再発されるという。

それに比べて、大越氏がジャケットを手掛けていた時代は、バブルが弾け、バンドブームも終わり、人間椅子の人気もどんどん落ち込んでアルバムも全然売れなくなった頃。
5th『踊る一寸法師』なんてついにメジャーから解雇された後、インディーズから出した作品だ。

にもかかわらず、バンドは極貧の中、ドラマーは安定してなかったけれど情熱だけでバンドを維持し続け、今じゃ考えられないくらいアイデア満載の傑作アルバムをリリースし続けていた。
世間からは見放された感があったが、大越孝太郎氏をはじめ、当時すでに人気を博していた漫画家沙村広明氏、『ガロ』の編集者など、人間椅子の唯一無二の音楽性に感銘を受けた感性豊かなクリエイター達が、損得勘定関係なく自ら人間椅子にアプローチをかけてくるという、今考えると、絶妙な文化交流が行われていたほんといい時代だったなぁと。






追記。

大越孝太郎作品で、もひとつ人間椅子要素濃厚というか、このキャラクターどう見ても○○やろ!!っていう作品があるみたいなんだが、この辺の作品になると、もう18禁の成人エロ漫画に属するものらしく、いよいよ購入を躊躇ってしまう。

にしても・・・・この頃になっても大越氏の中には人間椅子のことが頭の片隅に残っていたのかと思うと、感慨深いものがある。


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