超人日記・俳句

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#俳句・川柳ブログ 

<span itemprop="headline">「戦場のメリークリスマス」と野の詩人イエス</span>

2008-12-18 17:46:09 | 無題

季節にちなんで、久し振りに「戦場のメリークリスマス」に接してみた。CDを聞いたのでもなく、DVDを見たのでもなく、思索社から出ていた原作「影の獄にて、映画版」を読んでみた。「戦メリ」はヴァン・デル・ポストの二つの小説を原作としている。映画ではたけしが演じていたハラ軍曹を中心にして描いた「影の獄にて」と、デヴィッド・ボウイの演ずるジャック・セリアズ及びサカモト演じるヨノイ大尉を中心とした「種子と蒔く者」である。ハラ軍曹という癇癪持ちで残酷だが憎めない日本兵は捕虜収容所でさんざん残酷な行為に及んで、今戦犯として死刑になる前にかつての捕虜だったローレンスと面会する。鬼のようなハラ軍曹だが、かつて処刑されるはずのローレンスたちを自分はファーザー・クリスマス(サンタクロース)だと言って釈放してくれたことが、二人の数少ない良い思い出だ。処刑されるハラ軍曹がかつての束の間の聖夜を思い出して、大声で「めりーくりすます、みすたーろーれんす」と笑う。
「種子と蒔く者」は、捕虜収容所の異端者ジャック・セリアズの物語である。ジャック・セリアズは学生時代に、背中に瘤がある心のきれいな弟が、新入生のいじめの儀式でさらしものにされるのを、見て見ぬふりをした。それ以来、歌の好きだった弟は歌わなくなってしまった。セリアズは、心のきれいな弟を見捨てる罪を犯したことに悩んでいる。命知らずのセリアズの行動は、その後悔の念から来ている。大勢の収容所の人々が命の危険にさらされたとき、彼は自分に想いを寄せていた禁欲的なヨノイ大尉の前に歩み出てヨノイに頬ずりをする。ヨノイは動揺で倒れてしまい捕虜たちは救われたが、セリアズは生き埋めの刑で殺される。死んだセリアズの髪を、ヨノイは故郷の神社に奉納する。セリアズの行為は明らかに、キリスト教の核にある贖罪(罪のあがない、つみほろぼし)の行為である。弟を見捨てた罪をあがなって、捕虜を救って死んでいったのである。一方ハラ軍曹の「めりーくりすます」は、贈与の物語である。聖なるものがハラ軍曹を通して、捕虜たちに無罪放免というクリスマスの贈り物を与えた。キリスト教のテーマである贈与と贖罪の二つの物語が、この映画ではうまく映像化されている。この贈与と贖罪の物語の中で、ヨノイ大尉のセリアズへの禁じられた想い(フォービドゥン・カラーズ)が耽美的に描かれている。そこを強調した大島渚の美的感覚は凄い。野の香りに満ちた詩人イエス(ルナンの表現)の残影が、耽美的なこの映画を背後から支えている。



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