医学部の臨床系の教授には二種類があって、実際に多くの患者を診ていて診療能力の優れている群と診療能力はさほどではないが研究実績が優れている群である。両分野に優れることは至難の業でどちらが良いとか悪いとかという問題ではなく、診療科の運営権限のある教授の他に臨床能力に優れた臨床教授を置く大学も出て来ている。
先日の高脂血症の講演会の教授は第一線で多くの患者を診ておられる臨床能力の高い教授であったので、我々実臨床に携わる者には参考になる話が多かった。
中で印象に残ったというか、多少がっかりしたのは、灰色というか微妙な領域の患者さんの扱いである。所謂悪玉コレステロールが診療ガイドラインで僅かに異常域の患者をどう治療するかというフロアからの質問に、患者の個性を見て薬を使うか生活指導だけで経過を見るか決めているという返事だった。つまり薬を飲みたい人には薬を出し、嫌がる人は生活指導だけで経過を見るということだった。教授と雖も泣く子と地頭には勝てないというか、セールスの極意のようなこと言われた。そして、生活指導はなかなか上手くゆかないことが多いと正直に言われ、何せみのもんたとの競争ですからとまで言われたのには苦笑してしまった。
患者の志向に沿って矯めすというのが確かに一番良い方法だろうと、長く臨床をやって来た私も思うのだが、そこに未だ微かな無念さというか至らなさを感じているのも確かなのだ。