脳卒中の講演会の前に時間があったので本屋に寄る。岸本佐知子さんの「根に持つタイプ」はなかったので代わりに「気になる部分」を購入、詰らない講演会は馬耳東風と聞き流し、暗がりで読んでしまう。
向田邦子に似ていないのだが、似ている。つまり、現世対応処理能力は遠く及ばないものの些事に目敏く、連想を膨らまして物語る能力が優れている。尤も似ていると言っても、その内容は向田邦子と九十度違い、連想というより妄想して出来上がっており、現実離れした生で面妖な物が多い。
とても私のような凡庸な小心者では、万が一デートできても、えっ、ぎょっ、なぬっと振り回され、目眩がして熱が出るのが落ちだろう。
妄想力と孤立力はどこか村上春樹に似ており、ひょっとしたら小説も書けるのではないかと思った。米原万里さんは岸本佐知子さんを御存じなかったような気がして残念でならない。通訳ではないけれど、英語圏にもこんなユニックな人が居ますよと紹介する編集者は居なかったものか。
結論としては彼女のエッセイは面白いけれども奇妙な味わいのものが多く心安らぐ鎮静剤には向いていない。書斎の隅に定位置を見つけるだろう。
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