駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

遅れ回復運転

2011年10月01日 | 小験

 

 忘れられつつあるが、暫く前にJR福知山線で遅れ回復運転による脱線の大惨事があった。まだ十年経たないと思う。何ともやりきれない事故の原因の解明と反省は今に生かされているだろうか。

 ところで、診療にも遅れ回復診察があるのをご存じだろうか。医院によって多少の差はあるだろうが、午前中の診療時間は決まっており、際限なく延長するわけにはゆかない。次に別の仕事が待っているし、待たされる患者さんから苦情も出るからだ。

 診察と言うのは、鰻の蒲焼きを焼くように、皿に絵付けをするように、調髪をするように・・・ある種のリズムで進んでゆくところがあり、途中でペースを乱されると元のリズムに戻るのが結構大変なのだ。このリズムから外れると同じ仕事に数%余計手間と時間がかかってしまう。僅かなことだが五人十人となると五分十分の遅れに繋がる。

 今朝医院を開けると直ぐ、歩けなくなったとS爺さんが担ぎ込まれてきた。仏壇に線香を上げに行ったら突然ひっくり返ったとのこと。来院時に麻痺はなく話もできる。顔色がやや青い。まだ事務は出勤しておらず、早番の看護師と二人で診察検査をしたところ、徐脈性不整脈による一過性意識障害発作らしいとわかり、救急車を呼ぶことになった。

 救急車は四、五分で直ぐ来てくれるのだが、まず受けてくれる病院を確保しなければならない。市立病院に電話をして救急外来で受けてくれるか確認してから、119番に電話する。どうして119番はいつも畳み掛けるように早口で物を言うのだろうか。これでは初めての人は戸惑うと思う。私は慣れているのでゆっくり落ち着いて話してやる。そうすると、テンポが狂うらしく向こうがあたふたする。それでも二十年前に比べたら119番の対応は随分良くなった。昔は何度も嫌な思いをした。

 ちょっと脱線したが、事務が居ないと転院搬送依頼書がどこにあるかがわからない。取り合えず、病院への紹介状を書いていると事務のNさんが出勤してきた。依頼書を出して貰い書き始めるとサイレンが聞こえてきた。書類がうまく間に合って良かった。おかしな話なのだが、救急車を要請してから患者を診ている暇がない。いつもK先生が書類が多すぎると怒るわけだ。患者の状態が不安定で、手が離せず書類が書けない時は殴り書きで数行、あとは申し訳ありませんと隊員に謝り、病院への紹介状は後からFAXという本末転倒になる。

 さて今日はこれで、出だしが七、八分遅れた。これを回復しようと手際よく診察してゆくのだが、慌てると間違えるのを経験しているから、雑談を短くし細心の注意を払いながら一人十五秒ずつ位遅れを取り戻してゆく。そうして三十八人の患者さんを十二時五分に診察し終えた。

 いいんだか悪いんだか、これも一つの職人技だろう。

 

コメント
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