六時半に電話が鳴る、まずいなあ。
「**町の**です。お爺さんが亡くなったみたいです。呼吸してません」。
えーと、さっと朝飯を食ってと頭の中で計算をして「一時間くらいで着きますから待っていてください」。と伝える。病院と違い町医者は息せき切って駆け着けるとは限らない。九十前後の大往生に、慌てて事故など起こしたらかえって申し訳ない。
K爺さん、肺がんの末期にしては高齢のためか苦しみも少なかったようで、穏やかな死に顔だ。午前二時頃「おいっ」。て起こされて、またお小言かと思ったら、なんだかやさしくて。ちょっと胸をさすってやったら「ありがと」って寝たようだったんです。朝、手が冷たいんでびっくりして見たら息をしていなかったんです。
と目の赤いお婆さん。爺さんは痩せぎすだったが、婆さんは小太りで血色もよい、きっと怒鳴られながらコロコロと動き回って良く世話をしたんだろう。
息子は母親に似てずんぐりむっくりだが、床を取り囲む娘さんや孫娘達は爺さんに似たかすらっとして整った顔立ちだ。赤い目で私を見つめながらお礼を言われたが、あまり美しいので一瞬ドキッとした。
僭越かもしれないが、爺さん言うことあないなあと思いながら帰途に就いた。