食べ物では何が一番好きなどという質問には答えようがない。一番好きと思った**でも毎日二週間も続けば飽きて、二番手三番手に落ちる。毎日でも飽きないご飯(パン)は偉大だが、一番好きな料理とは言うまい。
私の場合、好きな食べ物はあれもこれもと甲乙付けがたく、その時々で変わると言うのが正直なところだ。人生最後の食事に何を所望、などというあり得ない質問には第一線の臨床医は答えられない。
海から遠い平野の奥で育ったせいか、魚より肉の方が好きなのだが、肉にも色々ある。一番はやっぱり牛かな。本格的に肉食を始めて高々百数十年なのに、日本人の舌は凄い。牛肉を薄く切って調理すると旨いという発見は新天体の発見に匹敵する。(尤もこれは単に経済的な理由からの、瓢箪から駒かもしれない)。
歳を取ったのか舌が肥えたのか、薄く切った牛をさっと炒めたのの旨さに目覚めた。勿論、ニューヨークのTボーンステーキ、ロンドンのローストビーフ、サンパオロのシュラスコ・・・、どれもとびきり美味しいのだが、薄切り和牛には及ばないと、前期高齢者の私は見付けた。