分かるというのはどういうことかと問い出せばますます分からなくなるが、成る程分かったという感覚を我々が持っていることは確かだ。それが各人同じものかどうかは定かではないが、誰しも小さくユウレカと声を上げたくなる瞬間や感覚は身に覚えがあるだろう。
さて、そのわかったという感覚がどうしても抱けないのが1+2+3+4+5+6+・・・=-1/12という式だ。1,2,3,4と無限に足していった和が有限の確定数値、しかもマイナスになるなんて、一体どういうことなんだろう。私にはどうしてもわかったという感覚に結びつかない数式だ。単に私に数学の才能がなく数学の訓練を受けていないだけのせいとも思えない。
もっと素朴な大きさがなく位置だけという点の存在も、思考上のものと打ち切って受け入れてはいるが、無限小というかゼロの大きさが存在するというのはどういうことなのか考え出せば腑に落ちるものではない。
自分が専門とする医学の場合でも知らないことは山ほどあるが、時間をかけて解説や論文を読んでいけば分からないということはまずないと思う。分子生物学的な部分には相当専門的な知識や思考が要求されるので、手こずって途中で放り投げるかもしれないが、わからないという感覚は残らないと思う。
まあ、分からないことはたくさんあるが、多くは経験や知識の不足によるもので、理解しようとすればたぶんなんとか分かるだろうという領域に入ると感じて、大して気にもせず生きていける。しかしどうしてもプラスの数を無限に足して、とても収斂しそうにない数列がマイナスの数値になるなどということは、生きてゆくのに何の差支えもないのだが、どうしても腑に落ちない。狐に摘まままれたような気がしてしまうのだ。尤も、高校の数学教師は狸の方に似ていたが。