駅前医院の診察室に腰掛けていると、些細な症状で相談されることも多い。足の裏が火照る、喉の奥に引っ掛かる感じがする、首の右側が突っ張る感じがする、ガスが良く出る。指先が痺れる感じがする・・・。まあ、患者さん本人にとっては些細ではないのかもしれないが、総合病院へ行くほどではないと駅前医院へやってくるわけだ。
こうした症状は深刻な病気の前触れのことは殆どなく、話を聞いて診察して、心配なものではありませんよと説明して、対症的に治療すれば時間とともに消失することが多い。中には症状が取れにくい人もいるが、そのほとんどは患者さん側の感受性というか性格に問題があることが多く、五年も十年もああでもないこうでもないといろんな訴えを聞いてゆくことになる。
しかしながら、希には重大な病気が隠れていることもあるわけで、診る方は心配ありませんよと言いながら実は細心の注意を払っている。だから、しばらく経過を診る。そうでない場合には必ず良くならなかったらまた来てくださいという言葉を処方している。
まあそうして百回ばかり心配ありませんよと言っている内に、一回ぐらいどうもこいつは怪しいというのが紛れている。未だに寝入り鼻にあれでよかったかなと浮かんでくる症例がある。翌朝カルテを見直して、場合によっては呼びだして駄目を押している。
病気の初期は微妙で非特異的で、身体の不調や疲れあるいは感冒と区別が付きにくい。区別ができないと言った方がいいかもしれない。心配ありませんよと言いながら、実は心配している因果な仕事だが、恐らくこうしたことは他の職種でもあるだろうと思う。