動脈硬化や癌には危険因子というものが知られている。高血圧、煙草、高脂血症、肥満、運動不足など、当てはまるものがあれば、医師看護師から口うるさく注意されてしまう。
注意されるからと渋々努力する人が居る一方には、健康法マニアと呼びたくなる自分からあれやこれやと健康増進に努めている人も居る。尤も、健康法マニアは自己流なところがあり、本当に実を得ているかどうかははっきりしない。いずれにしても危険因子を減らすことができれば心筋梗塞や肺がんになる確率を下げることはできる。
しかし確率というのは千人の人が居て、その中で何人がという話で、危険因子を減らす努力をしても癌や心筋梗塞になる人は居る。運が悪いと言われてしまうのだが、患者さんは勿論、対策を勧めてきた医療関係者も釈然としない。
Mさんは69歳の未亡人でお子さん達は独立して悠々自適、やや血圧が高い程度なのだが、十年欠かさずきちんと通院されてきた。この頃咳が出て声が少しかすれると言われるので、鎮咳剤とトローチを出してみたが改善しない。まさかと思いながら胸の写真を撮ると左の横隔膜が挙がっている。
総合病院呼吸器科のT先生から煙草も吸われないのに残念ですが、肺門の扁平上皮がんですという信じられない返事が返ってきた。病気と品行は関係ないといっても、本当に理不尽に感じられる。危険因子を減らして確率を減らしても、病気に罹ってしまえば元も子もない。運が悪いと解釈するのだが、人間はどうしてもなぜと問いたくなる。