今もサラリーマンという言葉が生きているかどうかよく知らないが、薬品メーカーのMR(医院を訪問してくる営業担当者)はサラリーマンと呼んでよいだろう。彼等が唯一医師の私がよく知るサラリーマン達だ。
A社のU君、今日の訪問入室時、いつになく真面目な顔をしていた。
「お変わりありませんでしょうか」。
「暇だよ。今日の午後はまだ5人しか患者さんが来ない」。
「今の季節は落ち着いているんですね・・・。K社の担当が若い女性に変わりましたね」。
「ああTさんね」。
「先生喜んでいるんじゃあないですか」。
「何をアホなことを、感じの良い子だね。あそこは大体三四年で交代するからね」。
「実は、私京都へ転勤になりました」。
「えー、それはまた急に。いつから」。
「一昨日、言われました。十月からです」。
「それは残念。京都は大変そうだなあ。なかなか難しい所と聞くよ」。
「今度は病院担当なんです。ここが良かったんでがっかりです」。と肩を落としている。
「いやまあ、住めば都というから」。
「先生には、良くしていただいて、本当にお世話になりありがとうございました。今度は交代の新人を連れて、もう一度お伺いします」。と、最敬礼のお辞儀をして出て行った。唯、世間話をよくくしただけだが、ウマが合い親しくなっていたので突然の別れにはつらいものがある。
サラリーマンは辞令一枚で住み慣れた土地を離れなければならない。植木等のセリフとは違う。尤も、だからああ言って笑い飛ばしているのかもしれない。