東京国立近代美術館でフランシスベーコン展を見てきた。17世紀の哲学者ベーコンが絵も描いていたわけではない。同姓同名の二十世紀ダブリン生まれのアイルランドの画家だ。
画家ということになっているけれども、私は画家と言うよりも人間存在を剥ぐ不安定表現者とでも呼んだ方がよいと感じた。
不気味なエイリアンのような人体像ばかりで、はっきりいって、其処に美はない。見たくもないものを見せ付けられる不快な感覚が引き出されてくる。静止画なのに蠢いている感じがして、何とも嫌な後味が残った。
妻は最初の二枚を見ただけで出て行ってしまった。気持ちは分かる。
美に出会った後の爽快高揚はなく、首根っこを掴まれて魂を揺さぶられたような何とも言えぬ不興が残った。
普通の人間は人生や命を経験した知覚と言葉で捉えた概念で理解しようとするが、ベーコン氏はそれを飛び越え理解を捨象して直接掴んで心の奥へ投げつけてくる。
解説にピカソと並ぶという表現があったが、それは違うのではないか。ピカソの作品からはデフォルメされていても芸術の香りが漂ってくる。ベーコンの作品は芸術だろうか、非規則違反の表現者だ。
これは私の個人的な感想で、異論は多いだろう。奇妙な予感だが、ベーコン氏はこれを読んだとしても怒らないと思う。