▼地球温暖化の影響による琵琶湖の酸欠状態
琵琶湖は今、大きな問題を抱えている。最深部は104メートルあるが、湖底近くの水中溶存酸素濃度が低下傾向にある。2008年12月中旬に測定したところ、2ppm(ppmは100万分の1)。生物が生息する限界であり、これを下回ると魚は死んでしまう。2007年12月には、水深90㍍の地点でハゼ科の固有種イサザが約2キロメートルにわたって約2000匹余り死んでいた。原因は酸欠であると思われる。
琵琶湖への酸素供給は、そのほとんどが大気中から行われる。冬期の寒さで湖面や湖岸・河川が冷やされ、酸素を豊富に含んだ表層の水が重たくなり湖底に降下する。それによって、深層の水が上昇し、水の入れ替わり「全循環」が起こる。これまでは冬場に表層と深層の水が混ざり合って酸素が全体に行き渡り、健全な状態が保たれてきた。しかし最近、地球温暖化による暖冬の影響で十分に循環がなされず、部分的に酸素が足りない状態が続いている。湖の中の自浄作用、自己回復力が働かなくなったのである。
▼琵琶湖の水量は日本の湖沼全体の34パーセント
琵琶湖は400万年前には現在の位置よりも南にあったとされる。「古琵琶湖」である。滋賀県は、太平洋側から上がってくるプレートと日本海側から上がってくるプレートがちょうど交わるところに位置し、地殻変動が激しい。今から約40万年前、太平洋側のプレートが上がってきて、現在の形になったという。プレートどうしがぶつかるところには活断層が形成される。花折断層や琵琶湖の西岸と東岸にそれぞれ断層があり、現在も1年間に1~2ミリメートル沈みながら北の方角に進んでいると言われている。
琵琶湖の水は約275億トンある。日本の淡水の湖沼全体で約800億トンだから、全体のほぼ34パーセントを占める。面積は東京都23区より少し大きい。最深部104メートル、標高85メートル。海面よりも20メートルほど深く、深いところの水は入れ替わりにくい。南湖の瀬田川と隣接する京都に浄水を供給する疏水2本、宇治発電所のバイパス1本が湖水の出口である。湖全体の水が交換されるには約16年かかるとされる。そのため湖底が汚染されると修復が容易ではない。
▼1987年をさかいに琵琶湖の水が変質
高度成長期以降、琵琶湖の周辺には企業や人が激増し、琵琶湖に対する環境負荷が大きくなった。1950年代後半からアンモニア濃度が上昇。おもな原因はし尿や肥料だ。1970年代後半からはリン濃度が上り、富栄養化が始まる。1977年、赤潮発生。武村正義知事(当時)が富栄養化防止条例(石けん条例)を制定施行したのは1980年である。1983年、富栄養化が進んだ状態を示すアオコが、南湖で発生。1994年には北湖でも発生した。1990年代からは大腸菌が増え始める。
富栄養化やリン、アンモニア濃度は1980代、行政の政策などにより徐々に改善されていったが、1987年ころをさかいに琵琶湖の水が変質し従来と違う様相を呈してきた。地球温暖化の影響である。1988年から湖の水温が上昇し始め、今日にまで至っている。また、湖のなかの泥、湖底泥の状態が悪化しており嫌気化や軟泥化が進んでいる。
▼琵琶湖の環境悪化から社会のあり方を考える
地球全体は氷期に向かいつつあると言われているが、過去の温度の推移を見ると、1900年初頭から急激に上昇し始めていることがわかる。これは産業革命以降の人間社会の生産消費活動の結果であると推測できる。多量のCO2排出はそのおもな原因のひとつである。
産業革命がもたらした大きな変化は化石燃料の使用だ。石油や石炭などの化石燃料は植物が太陽エネルギーを固定し、みずからのからだを作ってきた残骸である。長い時間をかけて地中に堆積されたそれらを私たちは掘り起こして使用しているのだから、過去の貯金を食い潰しているようなものである。そして埋蔵量には限界がある。
人間社会は現在、有史以来最大の人口を抱えている。大量死を招く戦争回避の努力や医療技術の発達など人命尊重を前提とした社会システムが構築され、また、科学技術の発達を背景にしてエネルギーの使用量が激増している。地球温暖化の根本問題は、人間が生活し生産消費することで生み出された余分なエネルギーが地球環境に負荷をかけているということにある。これはかつて人間社会に飢饉などをもたらした太陽系の中で起こる自然現象ではない。ここが決定的な点である。では、どうしたらよいか。まずは現状を知ることだろう。将来どのような社会を構築していくべきか、根本的な議論をする時期がきているのである。
▼あらたな課題
2009年に琵琶湖の湖底から泥水の吹き出しがあり話題となっている。同時に、湖底近くの濁度も上昇してきている。これらは何を意味しているんだろうか。最新の研究によると、この吹き出しは琵琶湖が縮小してきているのと対応しており、しかも年々拡大してきている。このような地殻の運動は、プレートの動きと対応している。最も懸念されるのは、このような急激な地殻の動きが温暖化と関連がある場合である。気温が1℃上昇すると、地球の周長は40m膨張すると言われている。なんだと思うかもしれないが、周長が40m伸びるということは、地球の半径が6m膨らむことに対応している。大きな値である。7000万年前にプレートの動きが活発化し、アンデス山脈ができたのもこのことが原因であるという論文もある。もしそうだとするならば、地球温暖化が進めば、琵琶湖はさらに縮小し湖底からの吹き出しももっと拡大することになる。このことは、琵琶湖全体の水質や生態系を大きく変えることとなり、おそらく全く異なった状況が出現することになるだろう。今でも、深い場所での水の上下運動が少しずつ変わってきている。つまり、湖底近くで局所的な対流が発生してきている。環境問題と地殻活動が融合したスケールの大きな課題であるが、冗談として放置するわけにもいかないのではないだろうか。いずれにしても注意深い観察が必要だろう。
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淡探とはっけん号を購入して琵琶湖の調査を継続するためのカンパを募集していますが、送金については今しばらくお待ちください。まだ事務局の準備ができていないので。4月に入ったら大々的にカンパを募集します。一口1000円です。
琵琶湖は今、大きな問題を抱えている。最深部は104メートルあるが、湖底近くの水中溶存酸素濃度が低下傾向にある。2008年12月中旬に測定したところ、2ppm(ppmは100万分の1)。生物が生息する限界であり、これを下回ると魚は死んでしまう。2007年12月には、水深90㍍の地点でハゼ科の固有種イサザが約2キロメートルにわたって約2000匹余り死んでいた。原因は酸欠であると思われる。
琵琶湖への酸素供給は、そのほとんどが大気中から行われる。冬期の寒さで湖面や湖岸・河川が冷やされ、酸素を豊富に含んだ表層の水が重たくなり湖底に降下する。それによって、深層の水が上昇し、水の入れ替わり「全循環」が起こる。これまでは冬場に表層と深層の水が混ざり合って酸素が全体に行き渡り、健全な状態が保たれてきた。しかし最近、地球温暖化による暖冬の影響で十分に循環がなされず、部分的に酸素が足りない状態が続いている。湖の中の自浄作用、自己回復力が働かなくなったのである。
▼琵琶湖の水量は日本の湖沼全体の34パーセント
琵琶湖は400万年前には現在の位置よりも南にあったとされる。「古琵琶湖」である。滋賀県は、太平洋側から上がってくるプレートと日本海側から上がってくるプレートがちょうど交わるところに位置し、地殻変動が激しい。今から約40万年前、太平洋側のプレートが上がってきて、現在の形になったという。プレートどうしがぶつかるところには活断層が形成される。花折断層や琵琶湖の西岸と東岸にそれぞれ断層があり、現在も1年間に1~2ミリメートル沈みながら北の方角に進んでいると言われている。
琵琶湖の水は約275億トンある。日本の淡水の湖沼全体で約800億トンだから、全体のほぼ34パーセントを占める。面積は東京都23区より少し大きい。最深部104メートル、標高85メートル。海面よりも20メートルほど深く、深いところの水は入れ替わりにくい。南湖の瀬田川と隣接する京都に浄水を供給する疏水2本、宇治発電所のバイパス1本が湖水の出口である。湖全体の水が交換されるには約16年かかるとされる。そのため湖底が汚染されると修復が容易ではない。
▼1987年をさかいに琵琶湖の水が変質
高度成長期以降、琵琶湖の周辺には企業や人が激増し、琵琶湖に対する環境負荷が大きくなった。1950年代後半からアンモニア濃度が上昇。おもな原因はし尿や肥料だ。1970年代後半からはリン濃度が上り、富栄養化が始まる。1977年、赤潮発生。武村正義知事(当時)が富栄養化防止条例(石けん条例)を制定施行したのは1980年である。1983年、富栄養化が進んだ状態を示すアオコが、南湖で発生。1994年には北湖でも発生した。1990年代からは大腸菌が増え始める。
富栄養化やリン、アンモニア濃度は1980代、行政の政策などにより徐々に改善されていったが、1987年ころをさかいに琵琶湖の水が変質し従来と違う様相を呈してきた。地球温暖化の影響である。1988年から湖の水温が上昇し始め、今日にまで至っている。また、湖のなかの泥、湖底泥の状態が悪化しており嫌気化や軟泥化が進んでいる。
▼琵琶湖の環境悪化から社会のあり方を考える
地球全体は氷期に向かいつつあると言われているが、過去の温度の推移を見ると、1900年初頭から急激に上昇し始めていることがわかる。これは産業革命以降の人間社会の生産消費活動の結果であると推測できる。多量のCO2排出はそのおもな原因のひとつである。
産業革命がもたらした大きな変化は化石燃料の使用だ。石油や石炭などの化石燃料は植物が太陽エネルギーを固定し、みずからのからだを作ってきた残骸である。長い時間をかけて地中に堆積されたそれらを私たちは掘り起こして使用しているのだから、過去の貯金を食い潰しているようなものである。そして埋蔵量には限界がある。
人間社会は現在、有史以来最大の人口を抱えている。大量死を招く戦争回避の努力や医療技術の発達など人命尊重を前提とした社会システムが構築され、また、科学技術の発達を背景にしてエネルギーの使用量が激増している。地球温暖化の根本問題は、人間が生活し生産消費することで生み出された余分なエネルギーが地球環境に負荷をかけているということにある。これはかつて人間社会に飢饉などをもたらした太陽系の中で起こる自然現象ではない。ここが決定的な点である。では、どうしたらよいか。まずは現状を知ることだろう。将来どのような社会を構築していくべきか、根本的な議論をする時期がきているのである。
▼あらたな課題
2009年に琵琶湖の湖底から泥水の吹き出しがあり話題となっている。同時に、湖底近くの濁度も上昇してきている。これらは何を意味しているんだろうか。最新の研究によると、この吹き出しは琵琶湖が縮小してきているのと対応しており、しかも年々拡大してきている。このような地殻の運動は、プレートの動きと対応している。最も懸念されるのは、このような急激な地殻の動きが温暖化と関連がある場合である。気温が1℃上昇すると、地球の周長は40m膨張すると言われている。なんだと思うかもしれないが、周長が40m伸びるということは、地球の半径が6m膨らむことに対応している。大きな値である。7000万年前にプレートの動きが活発化し、アンデス山脈ができたのもこのことが原因であるという論文もある。もしそうだとするならば、地球温暖化が進めば、琵琶湖はさらに縮小し湖底からの吹き出しももっと拡大することになる。このことは、琵琶湖全体の水質や生態系を大きく変えることとなり、おそらく全く異なった状況が出現することになるだろう。今でも、深い場所での水の上下運動が少しずつ変わってきている。つまり、湖底近くで局所的な対流が発生してきている。環境問題と地殻活動が融合したスケールの大きな課題であるが、冗談として放置するわけにもいかないのではないだろうか。いずれにしても注意深い観察が必要だろう。
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淡探とはっけん号を購入して琵琶湖の調査を継続するためのカンパを募集していますが、送金については今しばらくお待ちください。まだ事務局の準備ができていないので。4月に入ったら大々的にカンパを募集します。一口1000円です。