現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

柏原兵三「毛布譚」柏原兵三作品集1所収

2019-02-11 17:06:57 | 参考文献
 戦時中の物不足の時に、主人公の主婦(作者の母がモデルだと思われます)が、実家の父から貰った、舶来(懐かしい言葉ですね)の上等な毛布の数奇な流転の話です。
 客用の毛布に、夫から北陸の義母へ、義母から満州にいた義弟へ、義弟戦死後はその若い未亡人へ、そして、再び戻ってきてからは客用の毛布に、戦後の混乱期に仕立て直して息子(作者自身と思われます)の外套に、最後は屑屋行きと、一度も貰ってきた当人は使うことなく終わり、いかにも当時の主婦らしい姿が描かれています。
 作者の他の作品同様、驚異的な記憶力(本人および母親のものでしょう)により、戦時中の山の手の中流家庭の様子がくっきりと浮かび上がっています。
 戦争、学歴、出世、コネなどに対して無批判な点や、ジェンダー観や結婚観に対する保守性は、発表当時から批判されていましたが、それから、五十年近くがたった今では、それらの古さが一層強くなっていることは否めません。
 しかし、こういった生活や家庭を平易な文章で克明に描く作者ならではの筆力は、今の作家にはないこともまたますます鮮明になっています。

柏原兵三作品集〈第1巻〉 (1973年)
クリエーター情報なし
潮出版社




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サキ「二十日鼠」サキ短編集所収

2019-02-11 17:05:17 | 参考文献
 今ではほとんど忘れ去られた存在ですが、五十年ぐらい前までは、切れ味鋭い短編の名手と言えば、「最後の一葉」などで有名なO・ヘンリーと並んで、双璧の存在でした。
 この短編でも、密室で見知らぬ若い女性の目の前で服を脱がなければならない状況に陥った若い男のこっけいな行動に、実は女性が目が不自由でもともと彼のことを全然見えていなかったという鮮やかなオチをつけています。
 しかし、この作品が書かれてからすでに百年以上がたち、この作品を楽しむためにはかなりの予備知識(昔の列車では知らない同士が一緒に座るコンパ―トメントという個室で区切られていたこと(クリスティの「オリエント急行殺人事件」の映画を見たことがある人ならわかるでしょう)、昔の館には二十日鼠も潜む厩があったこと、昔の男性の衣服には中に二十日鼠が忍び込むほどの隙間があったこと、昔の鉄道の駅には「赤帽」と呼ばれた荷物運びの男たちがいたことなど)が必要でしょう。
 しかし、ここで示された短編のオチ(窮地に陥ったと思っておこした懸命な(はたから見ると非常に滑稽な)行動が、最後に全く不必要だったことが判明する)は、膨大な追随者や模倣者を生み、今でもテレビでお笑い芸人のコントなどでよく見かけます(もちろん、演じている当人たちは、この短編のことなど知らない、サキから見れば玄孫の玄孫(雲孫というそうです)ぐらいの遠い関係ですが)。
 私自身は高校二年の時に初めてサキの短編集を読んだのですが、O・ヘンリーに比べてはるかにシニカルなタッチに強く惹かれ、生まれて初めての評論もどきを書いて現国の教師に提出したことを今でも覚えています。

サキ短編集 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社
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