現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

少年少女の名作案内 日本の文学 リアリズム編

2019-02-14 08:43:04 | 参考文献
 2010年に出た日本児童文学のガイドブックのリアリズム編で、こちらも50作品が選ばれています。
 同様の本は1979年、1998年にも出ていますが、この本は日本児童文学者協会編という縛りが取れたせいか、選考範囲はかなりバランスのとれたものになっています。
 特長としては、戦前および戦争直後の児童文学作品(有島武郎、椋鳩十、竹山道雄、壺井栄など)が復権したこと(従来のガイドブックは、1950年代以降の狭義の「現代児童文学」に偏っていました)、一人一作という総花的な縛りをなくして重要な作家は複数の作品を入れたこと(椋鳩十、今西祐行、山中恒、大石真、古田足日)、単独作品だけでなくシリーズ物も取り上げたこと(新十津川物語シリーズ、バッテリーシリーズなど)、90年代以降の新しい作品も取り上げられたこと(森絵都、梨木香歩など)があげられます。
 巻頭に、編者の一人である佐藤宗子が、「日本の現実を生きる子どもたち」というタイトルで、大正時代から現代までの日本のリアリズムの歴史について概観しています。
 それによると、かつて文芸の1ジャンルであった童話(読者は子どもに限定されていませんでした)が、50年代にスタートした「現代児童文学」により読者を子どもに特化したものになって、それが80年代から一般文学との境界があいまいになっていき、現在ではまた大人も含めた文芸の1ジャンルになったことが良くわかります。
 ただし、佐藤の文章には書かれていませんが、かつての童話が芸術的な文芸であったのに対して、現在の児童文学はエンターテインメントを中心とした文芸(特に女性向きの)である違いはあります。
 各作品の評者は、編者たち(佐藤宗子、藤田のぼる)が属する日本児童文学者協会評論研究会のメンバー(必ずしも日本児童文学者協会の会員とは限りません)を中心に、日本児童文学学会の会員など、評論、研究分野の人たちがほとんどで、先行研究なども紹介しつつバラつきのないものになっています。
 ただし、対象期間が長くなったことと、50作品の限定されたことにより、重要な作品がかなり抜け落ちていますので、先行の同種の本と併用して使う必要があるでしょう。


少年少女の名作案内 日本の文学リアリズム編 (知の系譜―明快案内シリーズ)
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自由国民社
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劇団座敷童子「泳ぐ機関車」

2019-02-14 08:34:45 | 演劇
 1950年代の九州の炭鉱を舞台に、山主の息子である8歳の少年の目を通して、炭鉱と山主一家の興亡を描いています。
 そういった点では、児童文学の世界に近い作品だと言えます。
 手作り感満載の舞台美術、出演者と観客とが一体になった小さな閉ざされた演劇空間、大げさなせりふ回し、長い独白など、70年代の小劇場ブームの雰囲気を濃厚に残した作品でした。
 こういった本当に芝居が好きな演者と観客が作り上げる舞台は、商業演劇全盛の現代では貴重な存在でしょう。
 こうした小劇場の舞台が、今の若い世代に受け入れられているとしたら、かつての小劇場ファンとしては非常にうれしいことです。
 商業化されていない小劇場の一番いい点は、一人の美人もイケメンも出演していないことです。
 いわゆるスターシステムの裏返しで、主役も脇役も普通のルックスの役者が演じているので、それだけで一定のリアリティが保障されます。
 あとは、純粋に脚本、演出、舞台美術、演技力だけの勝負になります。

シアターガイド 2016年 04 月号 [雑誌]
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