元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヒトラーの贋札」

2008-01-27 07:57:14 | 映画の感想(は行)
 (原題:DIE FALSCHER)ラストクレジットの、そのまた最後の部分を読んで“アッ!”と思った。第二次大戦中、ナチス・ドイツが連合国側の経済にダメージを与えるため、各地の収容所から印刷技術のスキルを持ったユダヤ人を寄せ集めて大々的な偽札作りを実行しようとした“ベルンハルト作戦”なるプロジェクトの全貌が、どうしてかくもリアルに描かれたのか、その“理由”がエンドロールで示されているからだ。しかもその事実が一種のドンデン返し的なインパクトを観客に与えるように周到に作劇が練られている。これはなかなか骨のある映画だ。



 偽札作りの国際的なプロである主人公をはじめ、呼び寄せられたスタッフはそれまでの生死の瀬戸際にあった収容所生活とは段違いの待遇を与えられる。清潔なベッドにまともな食事。ちゃんと“休日”まで設定されるのだ。しかし、彼らの仕事場のすぐ近くでは親衛隊による残虐行為が日々行われている。

 当初の計画の一つであった偽ポンド札の作成に成功すると、褒美としてリクリエーション用に卓球台を支給されるが、休み時間に卓球に興じる彼らの壁一枚隔てたすぐ近くで惨劇が繰り広げられているという皮肉。しかし彼らにはどうすることも出来ない。この不条理さが戦争の欺瞞を如実に表現する。

 集められた面々のキャラクターがそれぞれ“立って”いるのは監督のステファン・ルツォヴィツキーの手柄だろう。海千山千の主人公をはじめ、純情なロシア出身の美学生、印刷技術もないのに身分を偽って加わった者、苦悩をあらわにする現場リーダー、そして“正義”のために作業をサボタージュする強者までいる。対するナチス側にも、囚人達に理解を示しているようでいて早々に敗戦を察知し、逃げる準備に余念のない親衛隊少佐という食えない人物を置いているところが憎い(演じるデーヴィト・シュトリーゾフもなかなかのパフォーマンスだ)。



 戦争の理不尽さを告発するだけの重いドラマになっていない点も好印象で、エンタテインメント方面に振られた適度なサスペンスとストーリー展開の速さで退屈させない。上映時間が1時間40分とコンパクトなのもよろしい。

 主人公役のカール・マルコヴィクスは儲け役で、抜け目のない立ち回りで戦時中を生き抜いただけではなく、冒頭とラストにおける戦後のエピソードでは気骨のあるところを見せる。またそれが納得できるような人物像を造型しているあたりも見逃せない。米アカデミー賞の外国語映画部門にノミネートされたのも納得の佳作である。
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