元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あなたなしでは生きていけない」

2009-09-28 06:27:04 | 映画の感想(あ行)

 (原題:No Puedo Vivir Sin Ti )アジアフォーカス福岡国際映画祭2009出品作品。何だか、気が滅入ってくるような映画だ。冒頭、台北の市街地で幼い娘を抱えて飛び降り自殺を図ろうとする中年男が映し出される。それから映画は時制を巻き戻して、その自殺騒動に至った過程を描くが、どうもこれが観る者を納得させるような筋書きにはなっていない。

 高雄市の港湾地区に住むこの親娘は、古びた船に許可無く勝手に入り込んで寝起きしている。父親はモグリの潜水夫で、生活はその日暮らしだ。この娘は父親が既婚者の女と同棲していた時に出来た子供で、件の彼女はとうの昔に彼を捨てている。だから娘には戸籍が無く、小学校にも通えない。父親は戸籍取得のために奔走するが、役所も警察も政治家もマトモに取り合ってくれない。悲観した彼は前述の暴挙に出るわけだが、困ったことに観る側にとってこの主人公には感情移入できないのだ。

 彼はとことん愚かである。自らの置かれた立場を理解せずに、厚い行政の壁にぶち当たっては跳ね返され、挙げ句の果ては騒ぎを起こして収監されるまで我に返ることはない。もちろん、愚かな人間を描くこと自体は問題はない。ただし、そこに作者の“普遍的な視点”がなければならない。たとえば徹底的に突き放したり、逆に大いに共感を示したり、その上でどういう方向に人間描写のステージを上げていくか、そういうスキームが必要だ。

 ところが本作にはそういう映画作りの“戦略”が感じられない。愚かな人間に対して漫然とカメラを回していれば、何か描けると思っているようだ。どうせならば自殺騒動そのものを全編に渡って引っ張り、警察との駆け引きの中で回想場面を挿入していく方法を取った方がまだ良かったのではないか。

 あまりケナすのも何なので、良かった部分も指摘しておこう。それは本作がモノクロで撮られているところだ。もしもカラーだったら主人公の惨めな生活がリアルに迫りすぎて、観る側の忌避感はもっと増していたことだろう。また、親娘が高雄と台北とをバイクで行き来する際に、イメージショット的な風景の点描が違和感なく織り込まれるが、これが白黒画面らしい清澄な美しさを醸し出していた。

 ただし、バックに流れる音楽はセンチメンタルに過ぎる。全編BGM無しで貫いた方が効果的だったと思う。監督はレオン・ダイという人物だが、取り立てて才能のある作家ではないと見た。主演のチャオ・ヨウシュエンは好演。子役も達者だ。しかし、それだけでは評価出来ない。
コメント
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