元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「3時10分、決断のとき」

2009-09-14 06:58:55 | 映画の感想(英数)

 (原題:3:10 to Yuma)この映画の作劇上のハイライトは、それまで人畜無害に思われた街の連中が端金に目がくらんで易々と悪党団の話に乗り、主人公達を追いつめる側に回ってしまうという終盤近くの短いシークエンスだ。

 本作でのメイン・プロット、つまり借金を返すため不自由な足を引きずりつつ容疑者の護送を買って出る主人公ダンと、護送される強盗団のリーダーであるベン・ウェイドとの奇妙な連帯感を綴ったくだりは、正直言って説得力があるとは言えない。いくら拘束されているとはいえ、相手は凶悪なギャングのボスだ。事実、道中何度か単独行動に出て周りの者を殺しまくっている。

 人生の達人という触れ込みで、時折含蓄のあるセリフを吐き、切迫した事態に直面しながらも手近な風景をスケッチする余裕も忘れない傑物のベンだが、しょせんはお尋ね者だ。凡夫ながらも逆境に耐えて地道に生きようとするダンの方がよっぽど偉い。

 本来は交わることのない二人が、少しばかりハードな遠乗りを一緒に経験したぐらいで、そう簡単に共感し合うわけがない。ところが、冒頭述べたような場面を挿入することでダンとベンとの曖昧な関係が強固なものに思えてくるのだ。欲得尽くで簡単にポリシーを変える愚民達よりも、損得を超えた男同士の絆が実に良く光って見える。逆に言えば、このシーンがなければ元々骨太のドラマなんか生まれない設定だ・・・・ということにもなり、そのあたり微妙なものを感じないでもない(^_^;)。

 ジェームズ・マンゴールドの演出は弛緩したところのない堅実なもの。ストイックなまでにシークエンスを積み上げ、終盤の活劇シーンも緊張感たっぷりだ。アクション場面自体が独立的に観客を楽しませるものではなく、ドラマの流れの中で登場人物が切迫した状態になった結果引き起こされるというスキームを経ているため、重量感とキレの良さが程よく加味されている。

 主演のクリスチャン・ベイルとラッセル・クロウは好調。特にクロウは映画によっては役柄よりも役者自体の存在感が前に出てしまうことがあるが、本作では抑制されたパフォーマンスに専念していて好感が持てる。脇の面子も悪くない。

 なお、この作品はエルモア・レナードの原作による「決断の3時10分」(57年製作)のリメイクである。前作は観ていないが、当時は西部劇の全盛期であったことから日本公開もスンナリ決まったのであろう。ところが、この再映画化は完成してから2年間も輸入されなかった。今更ながら我が国における西部劇の興行的地位の低下を目の当たりにするようで、ちょっと寂しい気持ちになったものである。
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