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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「プレシャス」

2010-05-12 06:14:53 | 映画の感想(は行)

 (原題:PRECIOUS BASED ON THE NOVEL PUSH BY SAPPHIRE )主人公の母親を演じるモニークの存在感に尽きる。それ以外は内容が薄い。そもそも、どうして舞台が87年のハーレムなのか分からない。原作がそうだから映画もそれに準拠した・・・・というのならば現時点で映像化する意味はないだろう。87年に特定した社会情勢や風俗の描出によって、現在に通じる(あるいは、今と比較できる)モチーフを提示させないと、作品のヴォルテージは上げられない。

 ヒロインのプレシャスは16歳だが、父親からの性的虐待によって2度も妊娠するハメになり、高校からドロップアウト。身持ちの悪い母親の面倒も見なくてはならず、当然勉強する余裕もなく文盲状態だ。おまけに最初に産んだ子供にはメンタル面の障害がある。

 まさに悲劇の釣瓶打ちだが、監督のリー・ダニエルズはこれを単なるお涙頂戴劇にしたくなかったのか、あえて平易なスタンスを取っている。素材に対して没入せず、手持ちカメラの多用による即物的な効果を狙い、さらにはヒロインの空想シーンに代表されるような明るくポップな映像表現も挿入。

 しかし、勘違いしてほしくないのだが、これらは“単なる手法”に過ぎない。メインのプロットと描写対象の扱いがシッカリした上での“味付け”ならば納得できるが、肝心のドラマ運びが陳腐で主人公及び周りのキャラクターの造型が練り上げられていない状況では、観ていて鬱陶しいだけだ。

 主演のガボレイ・シディベは猛烈な肥満体で見た目のインパクトは大きい。だが、逆に言えば中身の描き込み方の薄さを体型でカバーしているようにも思えて(爆)、何とも愉快になれない。彼女がフリースクールに通い、理解のある教師と友人に恵まれ、何とか立ち直るきっかけを掴むという筋書きは在り来たりで、それを工夫もなく漫然と流すだけでは(テレビで見かけるような)ただの苦労話である。もっと切迫したタッチを前面に出さないと観た後にすぐに忘れてしまう。

 だが、冒頭にも書いたようにモニークの仕事ぶりだけは天晴れである。完全に根性がねじ曲がったような、とことん世の中をネガティヴに捉え、救いようのない被害者意識に凝り固まった人間のクズを、これほど生々しく表現できたケースは稀であろう。オスカー受賞も納得だ。

 教師役のポーラ・パットンは相変わらずキレイだが、取って付けたようなキャラクター設定には閉口した。ちょっとビックリしたのはマライア・キャリーの出演。一曲披露するどころかスッピンに近い姿をさらした地味な役柄だが、このパフォーマンスがどうだというより、彼女を引っ張り出した作者の人脈の広さに感心してしまった。
コメント
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