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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サマーフィルムにのって」

2021-08-28 06:52:55 | 映画の感想(さ行)
 評価すべき箇所があまり見当たらない。聞けば第33回東京国際映画祭で上映されて好評を博し、世界各国の映画祭でも歓迎されたらしいが、この程度のシャシンが持ち上げられる理由が分からない。脚本も演出も、劇中で展開されるような学生の自主製作レベル。かといって、お手軽なラブコメ編として割り切るような思い切りの良さも無い。観ていて困った。

 北関東の地方都市の高校に通う女生徒の“ハダシ”は映画部に籍を置いているが、自身の企画が通ったことはない。何しろ、彼女が撮りたいのは時代劇なのだ。彼女は筋金入りの時代劇オタクで、放課後は町外れの空き地にある廃車で友人2人と昔の映画を視聴する毎日だ。ある日、彼女の前にサムライ役にぴったりの理想的な男子、凛太郎が現れる。

 無理矢理に凛太郎を映画製作に引き込み、仲間たちと撮影を始める“ハダシ”だが、実は彼の正体は未来からやってきたタイムトラベラーだった。彼によると“ハダシ”は長じて大物監督になるらしいが、その後の凛太郎が生きている時代には映画はすでに絶滅しているという。“ハダシ”はショックを受けるが、それでも来るべき9月の文化祭に向けて映画の製作を続ける。

 題名にもある通りドラマのほとんどがサマーシーズンで展開されるにも関わらず、どう見ても撮影時期は夏ではない。加えて、全編これ天候が曇りで、海辺のシーンでさえピーカンではないのだから呆れる。これでは夏らしい青春ドラマとしての爽快感に欠け、看板に偽りありだ。また、タイムトラベル云々のネタは、取って付けたようで気恥ずかしい。

 そして何より、キャラクター設定には難がある。主人公が時代劇にのめり込んでいること自体はまあ許すとして、性格は自分勝手だ。自己の都合で周囲を掻き回した挙げ句、クライマックスの上映会の場面では“あり得ない行動”に走る。幕切れは何かの冗談ではないかと思うほど唐突で、観ているこちらは面食らうばかり。

 だいたい、ヒロインの“ハダシ”をはじめ、他の面子は本名でクレジットされず、“ビート板”だの“ブルーハワイ”だのといったセンスが良いとは言えないニックネームで呼ばれるのは脱力する。唯一本名表記である主人公のライバルの花鈴が、最もシッカリした造型であるのは皮肉なものだ。松本壮史の演出は凡庸で、映像も音楽も冴えない。

 主演の伊藤万理華は頑張ってはいるのだろうが、一本調子で抑揚が無い。このあたり、しょせんは“坂道一派”だと片付けられてしまいそう。相手役の金子大地はまあまあだが、他のキャストはあまりコメントしたくはない。わずかに印象的だったのが、花鈴に扮した甲田まひるだ。本当のアイドルだった伊藤よりもずっとアイドルらしい外見で、演技も悪くない。何でも彼女の“本業”はミュージシャンで、ジャズピアノも披露するという。面白い人材で、今後も注目したい。
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