元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「悪なき殺人」

2022-01-08 06:25:12 | 映画の感想(あ行)
 (原題:SEULES LES BETES)凝った作りの因縁話で退屈はさせないのだが、いささか“盛りすぎ”の感がありイマイチのめり込めない。また、感情移入できるキャラクターがいないのもマイナスだ。とはいえ各キャストは好演だし、舞台設定や映像も魅力がある。その意味では存在価値はあると言えよう。第32回東京国際映画祭のコンペティション部門で観客賞を受賞している。

 雪深いフランスの山間地で夫ミシェルと共に農場を切り盛りするアリスは、村はずれで一人で暮らすジョセフを何かと気に掛けている。ジョセフはメンタルに問題があるが、アリスはそんな彼と懇ろな関係だ。吹雪の夜、近隣の別荘地に滞在していた主婦が失踪するという事件が起きる。警察はジョセフが怪しいと睨むが証拠が無い。一方、ミシェルも妻には明かせない秘密を抱えていた。この事件はパリに住む若い女マリオンや、遠くコートジボワールでネット詐欺に勤しむアルマンをも巻き込んで、思いがけない展開を見せる。



 同一の案件をアリスをはじめとする各登場人物の視点で描くという、いわゆる“「羅生門」方式”なのだが、それぞれのエピソードが真相の一部分を明かしていくという仕掛けは興味深い。キャラクターの表と裏が次々と露わになり、それなりのサスペンスは醸成されている。しかし、プロット面では不手際が目立つ。

 まず、くだんの失踪事件の動機付けが弱い。あの程度で“犯人”は凶行に及ぶものなのか疑問だ。さらに、犯行に及んだ後の行動が不自然。ジョセフの言動は、いくらハンデがあるとはいえ説明不足。ネット詐欺の手口は幼稚であり、分別のある大人ならば簡単に引っ掛かるはずが無い。アルマンは謎の教祖らしき男を崇拝しているようだが、どういう背景があってのことか不明だ。極めつけはラストで、無理矢理にくっ付けた感が強く観ていてシラけてしまった。

 いたずらにアクロバティックなストーリーを繰り出すよりも、納得できるモチーフをじっくり練り上げた方が良かったと思う。ドミニク・モルの演出はストレスフリーでテンポ良くドラマを進めるが、物語自体に不満があるため高評価は差し控えたい。

 ただし、出演者は好調。ドゥニ・メノーシェにロール・カラミー、ダミアン・ボナール、ギイ・ロジェ・“ビビーゼ”・ンドゥリン、バレリア・ブルーニ・テデスキといった顔ぶれは馴染みは薄いが、皆的確に仕事をこなしている。また、マリオンに扮したナディア・テレスツィエンキービッツはエロ可愛くて良い(笑)。パトリック・ギリンジェリのカメラによる、フランスの山岳地帯の風景も捨てがたい。
コメント
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