“どん底”です。
いや、別に気分がどん底というわけではありません。
そりゃあ、米沢牛の大半を友人に奪われてしまったけど、だからといって、そんなこと程度で気分がどん底になるほど、熊ができていないわけではありません。
ここは、新宿3丁目にある1951年創業の老舗居酒屋。
写真でもわかるように、三島の由紀夫ちゃんもよくいらっしゃってたようです。
では、由紀夫ちゃんに店の紹介をしてもらいましょう。
※世界的水準 by Yukio Mishima
クノッフ出版社のストラウス編集長夫妻が、新宿へ遊びに行きたいというので、案内して、まず若い人の大ぜい集まるロシヤ風の酒場「どん底」へゆき、焼鳥キャバレー二軒をまわったところ、夫婦は大よろこびであった。
酒場「どん底」では、どん底歌集というものを売っていて、ある歌を一人が歌い出すと、期せずして若人の大合唱となる。喚声と音楽が一しょになって、なまなましいエネルギーが、一種のハーモニィを作り上げる。何んとも言えぬハリ切った健康な享楽場である。夫婦はしきりにこれをアメリカの酒場との比較して、日本人の享楽がかくも友好的で、なごやかで、けんかっぽくないのにおどろいていたが、私も、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジの酒場の暗い絶望的なふんいきを思いうかべた。
しかしワビだのサビだのといっていた日本人が、集団的な享楽の仕方を学び、とにもかくにも一夕の歓楽の渦巻を作りうるようになったのは、戦後の現象で銀座の恒久バアーでコソコソ個人的享楽にふけっている連中にくらべると、焼鳥キャバレーやどん底酒場のほうが、よほで世界的水準に近づいているように、私には思われるのであった。
ということで、由紀夫ちゃんの本を初版本で読むクマとしては、
“どん底”のどん底(地下の意)に来ないわけにはゆかない。
そして、そこでドンカク(どん底カクテル)を飲まないわけにはゆかない。
案内されたのは望みどおり、“どん底”のどん底(地下だってば)。
そして金子君も唄っているドンカクを飲みます。
※ドンカクの唄/金子光晴
ドンカクをなみなみ注いで
コップをまえにおくと
ふしょうぶしょうに
この世界はうごきだす。
もう、どっこへもゆくところは
ない筈なのに、星は、
目をしょぼつかせながら
案内するために、しかたなし
もう一度、カンテラをともし
虫のやうに、あるきだす。
ドンカクをなみなみ注いで
コップをまえにおくと、
満ちてきた潮が、にわかに
桟橋の杭をたたくような
ざわめきがおこる。
僕のうち側でも。
ドンカクをなみなみ注いで
コップをまえにおくと、
もとより一滴ものまないで
坐っているこの僕にも、
人間の欲望がふくれあがって
嵐になって吹きあれて、
ナイフが飛び、カーテンが舞い、
僕をのせたまま、椅子が、
ズボンを穿いた女サルトルや、
男にちやらつく四十男とともに、
宙にうかび、天井に脊がはりついて
どう取りしずめるすべもない
ドンカクをなみなみ注いで
コップをまえにおくと
コップのふちにつかまって
小さな人魚達が唄をうたう。
“おいで、放蕩者、
お前が死ぬときに
悲しむのは
この母一人だよ。
お眠り。私の腕で。
お前がどんな悪党でも
私にはおなじだよ。
かわいい坊やだもの”
ダークナイトの世界です。
“どん底”のどん底(何度も言うけど地下のことです)で、ドンカクをなみなみ注いで、ひとり飲む酒は……(あ、隣りに友人がいたけど)格別です。
散々食べたのでつまみなんていりません。
なのに……
友人がこんなものを注文してしまいました。
ロシア漬け。
ロシア漬け?
食べてみると……酸ッパ!
おまけに、
ぼくのご友人、食べもしないのにドンドン注文。
カルパッチョ。鱈ですかねぇ?鱸(スズキ)ですかねぇ?
たのむだけたのんで、ぼくのご友人、じゃ、電車の時間があるから。と、とっとと帰っていかれました。
これらをぼくにどうしろと?
ひとり取り残されたぼくは、ロシア人とイタリア人の食べ物を前に、戸惑うばかり。
隣りの女性客が憐れむようにぼくを見ます。「嗚呼、フられちゃったのねぇ」と。
勘弁してくれー!
そこで、ぼくはニッポン男児の証として、もっともニッポン熊的アテを注文することにしました。
それが、
これ。林さんのライス。
ええ!こんな所にあったのかぁ、林さんのライスって。
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これ見てたヒトならわかるよね。
このドラマで仮面ライダーG3-X(要潤のこと)が、ハヤシライスたのむんだけど、出てきたのが林ライス。つまり林さんのライス。
ここからのヒントだったのかぁ。(単なる憶測です。偶然かもしれません)
“どん底”、奥が深いです。
今度、読んでみようかなぁ。
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いや、読むなら、
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こっちにしとけ。
新宿三丁目といったら、
有名なのがここ。
末広亭。
むかし風にいうならば、
末廣亭。
同じじゃねえか!
そのすぐ近くだから、今度落語を観にきたついでに、立ち寄ってみてはいかが?
林さんのライスはチョーお奨めします。
あのうえにかかってるソースはなんだったんだろう……たぶん、A-1ソースだと思う。
旨ス!でMAX!
吉田類さんも紹介したらしいのでリンク貼っときま~す。
【吉田類の酒場放浪記#232新宿三丁目「どん底」】←ココ。
どん底といったら、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドだけど、
やっぱここは脳内ジャズで、
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こちらから「Maria Cervantes」(マリア・セルバンテス)」はいかがでしょうか。
【くりす的全国名酒場紀行/どん底】←詳細
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