クライストチャーチから、国道1号線を南に1時間南下し、そこから右に折れて、西方向に時速100kmで走り続けること、1時間半。
南アルプスの雪融け水でできた湖がある。水は薄く茶色をしているが透明で、その名もレイク・クリアウォーター。
その湖が、ニュージーランド南島代表凧キチセーラーたちの集合場所だった。
すぐ近くには、映画のロードオブザリングの撮影で長期ロケに使われた谷がある。南半球の初夏なのにまだ雪の残った南アルプスのとばくちで、少なくとも景色については百点満点の場所だ。
その上この湖は、昔の氷河が流れた名残なのか、緩やかなU字谷の中にある。つまり山と山の間の鞍部になっていて、北西か南東か、どちらかの風向の風が、スロットル効果で加速されて吹き抜ける場所にある。安定した強い風が望ましいカイト・セーリングには、持ってこいの地の利なのだ。
ただし、皮下脂肪の薄い日本人には、ちと寒い。周囲の雪山の景色を見ているだけでも寒くなってくる。そして湖の水は雪融け水だから、湖の水温も当然低い。
だけど、野性児がそのまま大きくなったような南島カイトセーラーには、そのようなことは毛ほども気にならない様子。
そういえば、最近オークランドでは珍しくなってきた、町を裸足で歩く人も、こちらでは依然として多い。こどもに限れば、裸足率はほぼ100%だ。子供靴メーカーにとってはお手上げの地域だろう。
朝10時に到着したときに吹いていた、比較的暖かい北西風が、30分もしないうちに南東風に変わり、ぐんぐん強さを増してくる。急激に気温が下がる。
クライストチャーチでの前日は、インストラクターの先生は、「服装はTシャツで大丈夫」と言っていたが、翌日のこの日は、「ウエットスーツは持ってきたか?」と聞いてきた。
野性児であっても、少なくともTシャツは困難、と判断する気温と風なのだ。
日本出発時にはウエットスーツ持参の必要性も少し感じたが、今回のニュージーランド行きの主目的に必要な荷物にウエットスーツを加えることは、スーツケースの物理的限界を超えていたので、諦めた。
持って来てないよ、と伝えると、そうか…、と真面目な顔のまま答えた。
そうして、ウエットスーツさえ持っていればなあ、みたいなことを言いつつ、彼が自分で着始めたのは、ドライスーツだ。
そうだよね、やっぱり。
ベテランカイトセーラーにとってさえ、そういうコンディションだということだ。
前日にカイトに初めて触った初心者にとって、転覆の可能性が高いことを考えれば、また、転覆した後自力でカタマランを起すまで水に浸かっている時間の長さを予想すると、ウエットスーツでも不安で、ドライスーツでなければ水上に出て行くことは恐ろしい。
ドライスーツを着たインストラクターが、上空に舞うカイトボーダーたちの凧を見上げながら、
「今日はすごくガスティー(風の中に突風が混ざる割合が多い)だなあ。ここはこういうことはあまりないのになあ。」
とつぶやく。
風が強いこと自体はカイトセーリングにとってはそれほど問題ではないらしい。小さい面積のカイトを選べばいいことだからだ。
カイトセーリングの初心者にとって、最も難しいのが、強弱の多い風なのだそうだ。
インストラクターは直接提案しないけど、コンディションが厳しいことを生徒に理解してもらって、生徒が自発的に今日は諦めようと判断してくれることを願っている。
ぼくも人にセーリングを教えることも多いから、その辺りの心理はすごくよく理解できる。
ベテランカイトセーラーですら顔をこわばらせている難しいコンディションの中、昨日カイト操作の基本を知ったばかりの自分が、カイトでカタマランボートを、自由自在に走らせているイメージが、絵として見えてこない。
恐らく走ることはできるだろう。昨日のバギーで覚えたことを応用すれば風上にも行けるだろう。だけど、突風がカイトに入ったときの船の向きによっては、転覆の可能性も高そうだ。湖の真ん中でそれが起きたときに、どういうふうに対処していいのか、イメージが見えてこない。それは危険だ。自分の命の問題だけではなく、いろんな人たちに迷惑が掛かる。
そう考えをまとめ、はるばるニュージーランド南島の南アルプスの麓まで来たことではあるけども、この日のカイト・カタマランの練習はスッパリと諦めることにした。
今回は、カイトバギーで風上に走れることを体験できたことで良しとして、でも、水上でのカイトセーリングは次の機会に絶対にリベンジする!
その代わり、ベテランの技を、じっくりと至近距離で見せてもらうことにする。
ちゃんと、風上に走っていっている。
その2 での予告と違って、カイトで海を走りませんでした。
スミマセン。
その代わり、空を飛びました。
ウソです。ワタクシではなく、インストラクターの先生です。
南アルプスの雪融け水でできた湖がある。水は薄く茶色をしているが透明で、その名もレイク・クリアウォーター。
その湖が、ニュージーランド南島代表凧キチセーラーたちの集合場所だった。
すぐ近くには、映画のロードオブザリングの撮影で長期ロケに使われた谷がある。南半球の初夏なのにまだ雪の残った南アルプスのとばくちで、少なくとも景色については百点満点の場所だ。
その上この湖は、昔の氷河が流れた名残なのか、緩やかなU字谷の中にある。つまり山と山の間の鞍部になっていて、北西か南東か、どちらかの風向の風が、スロットル効果で加速されて吹き抜ける場所にある。安定した強い風が望ましいカイト・セーリングには、持ってこいの地の利なのだ。
ただし、皮下脂肪の薄い日本人には、ちと寒い。周囲の雪山の景色を見ているだけでも寒くなってくる。そして湖の水は雪融け水だから、湖の水温も当然低い。
だけど、野性児がそのまま大きくなったような南島カイトセーラーには、そのようなことは毛ほども気にならない様子。
そういえば、最近オークランドでは珍しくなってきた、町を裸足で歩く人も、こちらでは依然として多い。こどもに限れば、裸足率はほぼ100%だ。子供靴メーカーにとってはお手上げの地域だろう。
朝10時に到着したときに吹いていた、比較的暖かい北西風が、30分もしないうちに南東風に変わり、ぐんぐん強さを増してくる。急激に気温が下がる。
クライストチャーチでの前日は、インストラクターの先生は、「服装はTシャツで大丈夫」と言っていたが、翌日のこの日は、「ウエットスーツは持ってきたか?」と聞いてきた。
野性児であっても、少なくともTシャツは困難、と判断する気温と風なのだ。
日本出発時にはウエットスーツ持参の必要性も少し感じたが、今回のニュージーランド行きの主目的に必要な荷物にウエットスーツを加えることは、スーツケースの物理的限界を超えていたので、諦めた。
持って来てないよ、と伝えると、そうか…、と真面目な顔のまま答えた。
そうして、ウエットスーツさえ持っていればなあ、みたいなことを言いつつ、彼が自分で着始めたのは、ドライスーツだ。
そうだよね、やっぱり。
ベテランカイトセーラーにとってさえ、そういうコンディションだということだ。
前日にカイトに初めて触った初心者にとって、転覆の可能性が高いことを考えれば、また、転覆した後自力でカタマランを起すまで水に浸かっている時間の長さを予想すると、ウエットスーツでも不安で、ドライスーツでなければ水上に出て行くことは恐ろしい。
ドライスーツを着たインストラクターが、上空に舞うカイトボーダーたちの凧を見上げながら、
「今日はすごくガスティー(風の中に突風が混ざる割合が多い)だなあ。ここはこういうことはあまりないのになあ。」
とつぶやく。
風が強いこと自体はカイトセーリングにとってはそれほど問題ではないらしい。小さい面積のカイトを選べばいいことだからだ。
カイトセーリングの初心者にとって、最も難しいのが、強弱の多い風なのだそうだ。
インストラクターは直接提案しないけど、コンディションが厳しいことを生徒に理解してもらって、生徒が自発的に今日は諦めようと判断してくれることを願っている。
ぼくも人にセーリングを教えることも多いから、その辺りの心理はすごくよく理解できる。
ベテランカイトセーラーですら顔をこわばらせている難しいコンディションの中、昨日カイト操作の基本を知ったばかりの自分が、カイトでカタマランボートを、自由自在に走らせているイメージが、絵として見えてこない。
恐らく走ることはできるだろう。昨日のバギーで覚えたことを応用すれば風上にも行けるだろう。だけど、突風がカイトに入ったときの船の向きによっては、転覆の可能性も高そうだ。湖の真ん中でそれが起きたときに、どういうふうに対処していいのか、イメージが見えてこない。それは危険だ。自分の命の問題だけではなく、いろんな人たちに迷惑が掛かる。
そう考えをまとめ、はるばるニュージーランド南島の南アルプスの麓まで来たことではあるけども、この日のカイト・カタマランの練習はスッパリと諦めることにした。
今回は、カイトバギーで風上に走れることを体験できたことで良しとして、でも、水上でのカイトセーリングは次の機会に絶対にリベンジする!
その代わり、ベテランの技を、じっくりと至近距離で見せてもらうことにする。
ちゃんと、風上に走っていっている。
その2 での予告と違って、カイトで海を走りませんでした。
スミマセン。
その代わり、空を飛びました。
ウソです。ワタクシではなく、インストラクターの先生です。