都会の暗い建物の中に置き去りにされていた
ある小さな島のおじいが造ったサバニくんが
やっと里帰りをすることができました。
大きな船に乗ったサバニくんを、
人間たちは飛行機で追いかけ、
サバニくんと一緒に小さな船に乗り換えて、
南の、ある島に着きました。
島の若者たちが協力してくれて、
ゆっくりと島の中を移動して、
ヤギや牛たちを驚かせながら
無事サバニくんの新しい家に到着。
生まれた島とは違う島だけど、
生まれた島と同じように、
きれいな青い海に囲まれた、小さくて、素敵な島。
この島でね、来年の夏、
たくさんのこどもたちが
このサバニくんに乗ってくれる予定。
島の中をゆっくりと運ばれているときに、
通りかかった島のおじいが、
じーっと時間をかけて見てくれて、
優しい笑顔で
「きれいなサバニだねえ。
おめでとう。」
って言ってくれた。
なんで、おめでとう、だってこと、分かったのかなあ。
都会からやっと里帰りできたこと、知ってたのかなあ。
これは、里帰りしたサバニくんの、
ずーと前に造られた祖先。
丸木をくりぬいて造った丸木舟サバニ。
沖縄のことばでは、まるきんに、って言います。
マスト(帆柱)を立てる穴が前後に3つ見えるけど
その理由が、分かるかな?
ヨットが上手な人なら分かるかも知れないけど、
帆柱の立ち方の角度を変えると、
フネは自分で風上に向かおうとしたり、
逆に、風下に向かおうとする。
ウインドサーフィンの人たちが
舵がなくてもいろんな方向に自由自在にセーリングできるのは、
この性質を100%利用しているからなんだね。
そういう帆掛け舟の性質を利用して、
行きたい方向への風向きに合わせて
帆柱の立て方を選ぶ。
そうすると舵をあまり使わなくていいので、
フネも人間も楽だし、スピードも速い。
今の日本では、ヨットの名選手しか知らないようなことを
昔のおじいたちは普通に知っていたんだよ。
サバニくんの祖先も素晴らしいし、
昔のおじいたちも、素晴らしいね。
その素晴らしさを、
今の若者たちに引き継ぐことができたら、
それも、すごく素晴らしいことだよね。