ありがたき2冊の書籍。
「対中外交の蹉跌 上海と日本人外交官」片山和之著(2017年 日本僑報社)
著者の片山氏は現在上海で日本総領事を務めている方で、ご本人より著書を戴きました。
外務省入省を目指したいきさつから、入省前後の勤勉・奔走ぶり、青春時代か?と思わんばかりの楽しい描写、そして中国への思い入れを熱く語ると共に、古くから欧米やアジア諸国との外交舞台とされた上海の歴史や、そこに絡んだ歴史的な錚々たる外交官や人物、戦前から現在に至るまでの在上海日本国総領事館の歴史を克明に綴っています。
片山氏は1980年代中期に外交官補として北京大使館に勤められた際、単身赴任中の私の父と出会い交流を深めてくださったようで、後年私が氏と初めてお会いした時に亡き父の話をたくさん聞くことが出来ました。父は1975年に開設された戦後の日本国総領事館の第1期メンバーでしたが、片山氏が現在その総領事館で総領事としてお務めになっていることに少なからずのつながりを感じています。
そして誠に嬉しいことに、著書の中に父について記されています。上述したように著書には上海の歴史、外交上の錚々たる人物などが綴られている中に、一兵卒のような小さな存在であった父について書いてくださったことに驚き、そして感謝感謝感謝感謝・・・!
「日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族」 深谷敏雄著(文庫本/2017年 集英社)
2年前に出版されたハードカバー(右)が文庫本になり、著者から私に送られた来ました。
戦時中日本軍のスパイとして中国に潜伏し、身分を隠すために中国人になりすまし中国人女性と結婚し、戦後中国当局に捕えられ上海監獄で激しい拷問に耐えながら、祖国や家族のために黙秘を貫いた元兵士と、その家族のドキュメント。
日中両国の長きにわたる交渉の末、20年間の獄中生活から解放され念願の帰国を果たした時は、終戦後すでに33年経っていた・・・。
ハードカバーが出版された数か月後、90余年の人生の幕を閉じた元兵士の胸中は想像を絶します。
元兵士が収監されていた監獄に、総領事館同僚と共に何度も足を運んだのが私の父でした。当時我が家はその父の仕事の関係で上海に住んでおりましたが、中学生だった私は父が総領事館に勤務し、日中両国の外交問題に携わっているという程度は知っていても、どのような仕事をしているのかは知る由もありませんでした。そのうちのひとつが監獄に収監されている日本人兵士を無事に帰国させることだったのでしょう。
文中、監獄での面会の場面が何度か出てきており、父も実名で登場しています。どんな思いで戦後処理に当たっていたのか、どんな思いで同じ日本人を救い出そうと懸命になっていたのか。早くに亡くなった父の足跡を垣間見ることが出来る一冊です。