加山到のハマッ子雑貨飯店

おもちゃ箱をひっくり返したような楽しい雰囲気が伝われば嬉しいなっと。08年11月6日開店!

俺にも行ける。

2016-09-08 | 日々是充実
富士山に登ってきました。
何度か登頂している弟に誘われての初の富士山。というより、僕にとっては初めての山登り。
持病である腰痛が心配の種であり、「初めてで富士山は無謀」という周囲の声よりもワクワクの高揚感にほだされて挑んできました。


<暗い中出発>
9月6日23時過ぎに吉田口五合目に到着。体慣らしと腹ごしらえ。
そして24時・・・もとい。
9月7日、深夜0時出発。
緩やかな山道をすたすたと歩き始めるも、「急ぎ過ぎ。後でへばるよ」と弟に制止される。「こんなゆっくりでいいの?と思えるぐらいのペースで行かなきゃ。」
天気が良かったので、街の夜景が良く見える。同時に頭の上には満天の星。思わず「へぇ~~~~~!」
六合目からは傾斜がきつくなっていき石ころが多い道に登山を実感し始める。そのうちに砂のような地面に足を取られ始めて歩きにくくなる。まるで砂浜の斜面を歩くみたい。「火山灰だよ。」と弟。

1時40分に七合目到着。
いくつかある山小屋の前のベンチで休憩。山の天気はすぐ変わる・・・しとしと雨が降ってきた。
その後は雨の具合と体調を見ながらの山登り。時には「これが登山用の道!?」と疑問に思うほどの崖。大小のゴロゴロした岩肌を登る。手にしたストックが邪魔に思えるほど、両掌を使っての這い上がる姿はもはやロッククライミング。
登山用の道だという意思表示をしているかの如く、上からつながっている鎖を引きながらひたすら登る。


<まだまだ元気な七合目>

「自分を変える」。これが登山に際して自分に課したテーマ。
いいことがなかった今年上半期。巻き返しを図った8月の舞台公演でも、役者活動を継続するか否かを自身に問うほどの精神的プレッシャーに悩んだ。とにかく、何かきっかけを作ってそれを成就して新たなる風を自分に取り入れたい。
「富士山に行ってみない?」
昨年、弟に誘われたが台風で登山を断念。そして迎えた今回。いいきっかけになるはず。

普段から街を歩いていたり、おしゃれなバーで飲んだり、あるいは日常とは違った状況にあたったりすると、ドラマや映画のワンシーンをよく思い起こして「あ、主役になったみたい」と出演者に憑依する自分がいたりするが、今回に限っては一切なし。そんな事を考える余裕すらない。ただただ登る。ひたすら頂上目指して、目の前の崖や火山灰の道や石ころだらけの道と悪戦苦闘。

いつしかレインウェアも雨が浸透して上半身は汗とまじりあってびしゃびしゃ。履き心地の良いトレッキングシューズも泥と雨でぐちゃぐちゃ。当然靴の中も濡れている。背負ったリュックもぐしょぐしょ。中に入れてある携帯やカメラをタオルに包み込んでリュックの中央に収め直す。
吐く息も白い。両手の先、全ての指にしびれを感じ始めた。頸椎痛の影響か?いや違う。両手の指全てが一気にしびれることなんて一度もない。見えない不安が襲ってくる。腰痛や疲れ易い体質でなければ、もっと気が楽なんだろうなとの思いが頭を横切る。

「変わるんだ。」自分にはっぱをかける。
先走っていた高揚感も徐々になくなり、腰に痛みが出たらどうしよう、体力はまだ残っているかという不安と、雨によって冷たくなっていく体や手足。
暗闇の中で頼りにするのは、頭につけた小さなヘッドライトのみ。明るく照らされた部分しか見えないから視界は狭い。前方を照らすと足元を踏み外すし、足元を照らせば一寸先はまさに闇で方向感覚が失せる。
「大丈夫?」
そんなときに何度も声を掛けてくれる弟に力強さと優しさを感じる。


<八合目>

3時30分に八合目に到着。
降ったりやんだりしていた霧雨も、ほぼ降り続くようになり雨粒も大きくなる。
山小屋にたどり着くものの、中に入れるのは代金を払った宿泊者のみ。「休憩はお断りします」の張り紙に切なさを感じる。脇にあるトイレで雨宿りをするが、ここでも「休憩のためにトイレを利用するのはやめて下さい」との張り紙と、場所によっては使用禁止を促す録音したテープがひっきりなしに流れている。「雨宿りのためにトイレを使った場合5万円をお支払いいただきます」と英語で書かれた驚きの張り紙もある。
ならばせめて軒下で思うが、15センチほどの軒下では濡れない方がおかしい。
遠くにあった稲光が近づいてくる。登頂を目指す気持ちと天候不良に伴う不安がないまぜになる。
でも。しかし。but。但是・・・思ったほど疲れは感じない。暗闇の中、うっすらと見える雲は眼下にあり、稲光でさえほぼ目の高さ。
「もうすぐだ。」しんどいんだけど、まだまだ軽やかな気持ちが残っている。
「行ける!登れる!てっぺんまで行けるぞ!」

そこから何度かの休息を入れ、知らないうちに痛みはじめた左ひざを気にかけながら2時間半ほどかけて、早朝6時に本八合目(標高3400m)にたどり着く。
休憩ができる山小屋があるためか数十人の登山者が室内で、或いは屋外で体を休めている。1本500円のペットボトル、1個600円のカップヌードルをほおばる人もいる。結構割高だねぇ・・・。

 
<持参したお握りをほおばる>

3776mの頂上まであと300m強。
あと1時間登れば頂上に行ける。しかし雨は強くなっており、スマホで見る雨雲予想では1時間後には一瞬雲が無くなるも、その後は大きな雨雲が数時間にわたって富士山を包むと出ている。となると、頂上までは行けたとしても、下山時には最悪の天候となることは間違いない。周囲にいる登山者たちの顔にも疲労と困惑が窺える。


<本八合目>

この6時間の出来事や様々な思いが頭をよぎる。雨とは言えすで明るくなってきている空を見上げる。弟と顔を見合わせた。痛みを感じている左ひざも、懸念していた腰も割と調子がいい。気持は前向きだ。
それでも出した結論は・・・登頂断念。
ふっと感じた「危険」という二文字がどういう意味を持つのかは漠然とし過ぎてよくわからない。
「よく来たよ。ここまで。」
弟のねぎらいの一言に暖かさと感謝を感じつつ、重い腰を上げ下山を始めた。


<下山途中に一瞬見た虹>

3時間かけての下山。下り坂はほぼ火山灰の山道。元来足を取られやすい上に雨の影響もあってなおさら滑りやすい。かかとからブレーキを掛けるように歩くが、これが左膝にかなりの負担になり激痛へと変わる。なんどかうずくまることも。約10mごとに数分の休息を入れる。
「カニの横歩きがいいよ。」と弟のアドバイスで、右足を下る方向に向けてひょこひょことあるくが、今度は右ひざに負担となり痛みが始まる。こうなれば仕方がない。後ろ向きだ。お、結構楽だ!しかしこの歩き方もふくらはぎに負担がかかるようになり、前向き、カニ歩き、後ろ向きと足の症状によって歩き方を変えて・・・9時に無事五合目に到着。


<後ろ向きで下山の図>

雨さえ降らなければ確実に登れたであろう富士山頂。あと一歩のところで残念というよりも「やればできる」との思いが強く、山頂に登れなかったという悔いは一切なし。
「俺にもできる」

余談ですが、9月7日は私と弟しいては加山家が中国から帰国して39周年の日でした。
富士山に導いてくれた弟、無理しないでと言いながらも明るく送り出し、そして帰宅時には迎えてくれた愛妻。2人に感謝です。
そして長文を読んで下さった皆々様。ありがとうございました!


<弟>
コメント (8)
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