ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

レンブラントは誰の手に

2021-02-28 15:11:07 | ら行

後半の展開にハラハラ。

 

***************************

 


「レンブラントは誰の手に」70点★★★★

 


***************************

 


「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」


(おそらくこの後の顛末も入れて

「みんなのアムスステルダム美術館へ」(14年)のタイトルになってます)

で、美術館改装工事の裏側を

そのドタバタをも正直にユニークに描いた

ウケ・ホーヘンダイク監督によるドキュメンタリー。

 


レンブラントの名画が家に飾ってあるという

オランダのごっつ名家の11代目にして

若き画商であるヤン・シックス氏。

 


お育ちの良さを感じさせる

この甘~いイケメンが

オークションで見つけた一枚の絵画。

 


「え?これ、レンブラントじゃん?

だってうちにあるし、ずっとそのタッチ見てきたし」と

判断した彼は

その絵を安く競り落とす。

そしてその真偽を専門家に鑑定してもらうのだが――?!というのが

主軸です。

 


で、まあニュースにもなっている話なのですが

せっかくなので、そのハラハラも併せて観ていただきたい。

それに真偽とは別に、意外な問題も起こってくるんです!

 


主人公ヤン・シックス氏は純然たるおぼっちゃまで

別にお金儲けが目的じゃないんですね。

映画の中で、彼自身が

「家柄を超えて、画商として自身の力を試したかった」と素直に言っている。

 


たしかに目は確かそうだし、

眠っているお宝発掘に向けた彼のワクワクした笑顔も非常にいい。

 


展開もまるきりドラマでおもしろいのですが

ただ、この映画、彼だけのストーリーじゃないんですよね。

 


同時に豪奢な自邸でレンブラント絵画を愛でる

公爵の暮らしぶりとか

逆に絵画を手放すことになった男爵の話とか

それを国の威信にかけて

手に入れようとする美術館同士の駆け引きとか。

 


話があちこちに入り乱れてつなぎ合わされるので

少々わかりにくく

思考が寸断されるのが難点。

 


「芸術の真価とは何か? それは値段なのか? それを誰が判断するのか?」といった

大きな問題を提示していることはわかるのですけどね。

 


さらに、こんなこと言っても詮無いけれど

こんなご時世、庶民としては

ヨーロッパの純然たる階層社会、その歴史を

羨望というより

なんだか複雑な気持ちで見てしまうのもたしか。

 


しかし彼らのような人々が

レンブラントほか才能のパトロンとなり

彼らを育成し、美の至宝を世に残してきたのも事実なんだよなあと

いろいろを考えたりするのでした。

 


★2/26(金)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「レンブラントは誰の手に」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

2020-10-10 18:44:19 | ら行

じわじわと来る、「あとじわ」系。

 

「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」73点★★★★

 

*********************************

 

サンフランシスコで生まれ育ったジミー(ジミー・フェイルズ)は

祖父が建て、かつて家族と暮らし

しかし、すでに人手に渡ってしまった

思い出の宿る家を愛している。

 

ある日、現在の家主が

その家を手放すと知ったジミーは


友人モント(ジョナサン・メジャース)の助けを借りながら

再びこの家を取り戻すべく

奔走するのだが――?!

 

*********************************

 

祖父が建て、いまは人手に渡った実家に

こだわり続ける青年と、その親友のつながりを描く物語。

 

新しいのに、懐かしく

どこか文学的で、静かなSFのような雰囲気もある

不思議におもしろい作品です。

 

おなじみ気鋭のA24×ブラピ率いるプランB作品だそうで

ああ、なるほど!

 

ハッとさせるカメラワークや音楽、

独特の語り口とリズムをもつ、映画文体。

そこにある空気を味わう・・・という感じなんですよね。

 

いつもどおり、予備知識ナシで観て

「若者が撮ったとしたら、どんだけ渋い、いい趣味なんだ!」と思ったんですが

実際、若者が撮ってた(笑)

 

主人公ジミー演じるジミー・フェイルズと

ジョー・タルボット監督は10代からの友人だそうで

センスよく、いい意味で老成してる感ありあり。

 

ジミーの実家があるサンフランシスコの街は

かつて日系人たちが住み、1941年のパール・ハーバー攻撃で彼らが収容所へ強制移住させられ

その後、ジミーの祖父らの世代の黒人たちが住み、

やがて家賃が高騰し、黒人たちは出て行かざるを得なくなり、

いまはリッチピープルたちが暮らし、

かつての住人はワゴン車で暮らしていたりする――という歴史の変遷と事情がある。

 

いくら、その家を愛していても

しがない暮らしをしているジミーに、手が届くわけないんです。

でも、あきらめられない。

 

そもそも、なんで世の中は、こんな状況になっちまったのか。

そんな叫びも内包していて、

ちゃんと深い。

 

 

なにより

ジミーがこだわっている家が

「プール付き豪邸」とかではなく、

レトロな祖父の家っていうのが、いいんですよね。

 

美しいヴィクトリアン様式の家だけど

いまどきの趣味からいうと、ちょっとテーマパーク風で、キッチュともいえる。

こういう家にこだわる、ってのが、じわじわとツボる。わかる。

 

ワシも子ども時代に行った

渋谷の裏手にあった、おじさんちが忘れられない。

 

レトロな一軒家の

使い込まれた板の間、台所の灯り、雑多な空間――

取り壊される、と聞いて見に行ったときも

アパートになってしまったあとも

ついつい見に行ってしまうんですよ。忘れられないの。

 

もちろん、そんな一等地、手に届くわけもないじゃん!って

ああノスタルジー。

 

そういうのあるある、って感じる方、ぜひ!

 

★10/9(金)から全国で公開。

「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」公式サイト

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン

2020-10-02 23:18:10 | ら行

ピエール・カルダン、ブランドの名前じゃなくて

人の名前だって、知ってました?

 

**************************

 

「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」71点★★★★

 

**************************

 

ファッションだあ?知らねえナァ?という昭和のおじさんだって

知ってるであろう「ピエール・カルダン」の名前。

そのご本人を追うドキュメンタリーです。

 

ご本人がいまだバリバリ現役、かくしゃくとした98歳(!)

ってことにまずびっくり。

 

というか、失礼ながらご存命だったのか!

いや、それ以前に

デザイナーの名前だったのか!と驚く人も少なくないんじゃないかなあ。

 

だって本人も言うんだもの。

「“ピエール・カルダン”が実在すると驚かれるよ。

ブランドの名前だと思われている。広告の成功だね」

 

ええ、ホントにそのとおりでございます。

 

1922年、イタリア・ヴェニス近郊に生まれた彼は

2歳でフランスへ移住。

ディオールのもとで働き、1950年、28歳で独立し

「ピエール・カルダン」を創り上げたデザイナーなんですよ。

 

あまりにその名が偉大で、実は知らないことだらけ――ということが、まず驚きでした。

 

ドレスを作るだけでなく、

1950年代後半から

日本人モデルを始め多様なモデルを起用し、

 

ファッション未開の地だった日本、中国、ソ連にも行き、

ファッション業界だけでなく

世界の美の基準にも革命を起こした、すごい人だったんですねえ。

 

 

各国とライセンス契約をどんどん結び

事業を拡大していった背景には

金儲けだけでない、

ファッション途上国の産業の促進もあったようです。

 

もちろん、商人(あきんど)魂もあったと思いますが

なにより、知らないことを知る、好奇心が大きかったのかなあと思う。

 

特に日本との、浅くないつながりに驚きました。

 

そして、いつも海外のドキュメンタリーを見ながら、思うこと。

1950年代から最近まで

それぞれの時代でピエール・カルダン氏にインタビューをする人たちの

まあ、敏腕なこと!

さまざまに練った質問を繰り出して、本音を引きだそうとする。

 

勉強させていただいてます!

 

★10/2(金)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ

2020-09-28 23:56:17 | ら行

どんな才人にも、持てないものがあるのか。

 

******************************

 

「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」69点★★★★

 

******************************

 

名作なドキュメンタリー

「オアシス:スーパーソニック」(16年)のその後を

弟のリアム・ギャラガー側から描いた作品。

 

兄ノエルとの決裂後、

自らバンドを結成し、音楽を続けようともがくさま、

私生活でのトラブル、挫折などを正直に告白しています。

 

トラブルメーカーであっても

いまも天賦の声とグルーヴに変わりなく

さすがだなあ、と思うけど

 

でも、やっぱり四苦八苦しているんですよね。

 

「オアシス」というバンドの

あの瞬間、あのスパークは時代との奇跡的な出会いだったのかもしれないし

リアムという人の才能が、一般を軽く超越しているのは当然。

 

が、それでも

どんな「持てる者」にも「持っていないものがある」のだと、

どんな才人も、一人ではやはりダメなのだと

 

そのことがよくわかって

ちょっと残酷でもある。

 

だからこそ、それを直視し、なおかつ前へ進もうとする

リアムのがんばりと胆力には敬服するし

恋人にしてマネージャーである女性と出会えて、本当に良かった!と思うのだけど

 

解散から11年。

いまだ会っていないという兄弟に

なんとかならんのか!と歯がゆい(余計なお世話だけどさー)

 

しっかりできたドキュメンタリーではあるのだけど

ただ、「オアシス:スーパーソニック」があまりに良ドキュメンタリーだったことと

そしてやはり、

片方だけの言い分を聞き

周辺取材をするのは、ちょっとフェアじゃない――という気がしてしまうんですよ。

 

ほんとにこの二人、どうにかならんのか!

 

★9/25(金)から公開。

「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

LETO

2020-07-24 23:53:00 | ら行

イカしたビジュアルとセンスいい音楽。

でもそれだけじゃない「魂」がある。

 

「 LETO-レト-」71点★★★★

 

*****************************

 

1980年代前半。ソ連時代のレニングラードで

西側ロックの影響を受けたアンダーグラウンド・ロックのムーブメントがあった。

 

その中心人物であるマイク(ローマン・ビールィク)が開催した

ある海辺のパーティーに

ロックミュージシャンを夢見るヴィクトル(ユ・テオ)がやってくる。

 

一瞬でヴィクトルの才能を見抜いたマイクは

彼をデビューさせようと面倒を見ることに。

 

が、マイクの妻ナターシャ(イリナ・ストラシェンバウム)も

海辺で出会ったときから

ヴィクトルに何かを感じていたーー。

 

*****************************

 

1980年代、ソ連時代のレニングラードで

トーキング・ヘッズやルー・リードに共鳴し、

不自由ななかで、心を発散させようとした

実在ロックミュージシャンたちの日々を描いた物語です。

 

ちなみにLETO、とはロシア語で「夏=summer」の意味。

 

 

洒落たモノクロのビジュアル、

主人公ヴィクトルのオーラと

その彼を取り巻くピュアな三角関係が描かれ、

いきなりサイコ・キラーとかかかっちゃう?!なセンスで観ても、

まず間違いないといえますが

ただの「洒落た」映画ではない感覚に、戸惑う人もいるかもしれない。

 

なので、「予備知識なし」推奨の番長ですが

この映画に関しては

少々、予備知識が必要かもしれない、ということで

解説いたします。

 

この話は、すべて実在の人、実際のことに基づいているんですね。

 

冒頭、海辺での若者たちの集まりに顔を出した最初のシーンから、

目を惹きつけて離さない、東洋系のヴィクトル。

この人も実在の人物。

 

ロシア人の母とコリアンの父を持ち

映画のとおり、先輩ミュージシャンだったマイクに見いだされブレークした人で

しかし、1990年、人気絶頂のさなかに交通事故で28歳で亡くなってしまうんです。

マジ伝説人物なんですね。

 

そんなヴィクトルを演じる韓国俳優ユ・テオがまたいい!

キム・ギドク監督「殺されたミンジュ」(14年)や

最近ではシム・ウンギョン共演のドラマ「マネー・ゲーム」に出てるそうで

これはチェックせねば!という感じ。

 

で、現実にヴィクトルを見い出した、

当時のロシア・アンダーグラウンドロックの中心人物マイクとその妻ナターシャも実在し

ヴィクトルとのピュア恋も本当だったそう。

 

それを知ると余計に

この映画が深まる気がいたしました。

 

1980年代

歌詞もすべてチェックされ、「お行儀のいい音楽」を求められた当時のソ連。

 

そのなかで

フラストレーションをためていた若者たちが

西側ロックに触発され、自らの解放を願った。

 

モノクロで切り取られた風景には

洒落た感性と同時に、どこかぬかるんで、泥臭い湿り気を感じる。

それは「ここから飛び立ちたい」と願う若者たちの魂だったのか、と思ったり。

 

さらに

本作の監督キリル・セレブレニンコフ(1969年生まれ)についても

知っておくと、より作品度がましまし。

 

彼はロシアで活躍していた監督ですが

2017年、本作の撮影中に国の予算を不当横領した罪で逮捕され

自宅軟禁となってしまった。

状況はいまだ解除されていないのですが

そのなかで、完成させたのがこの映画だそう。

 

うーむ、

汝、不当な圧力に、屈することなかれ、と

リアルなこぶしをあげたくなる、作品なのでした。

 

7/24(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「LETO-レト-」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする