ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ようこそ映画音響の世界へ

2020-08-30 01:37:44 | や行

 

みんなが知ってるあの映画のあの音が、コレだった?!って

ごっつおもしろい!

 

********************************

 

「ようこそ映画音響の世界へ」74点★★★★

 

********************************

 

映画に不可欠な効果音や、映画を盛り上げる音楽など

映画の「音」にスポットを当てたドキュメンタリー。

 

音響の職人を始め、

「音で物語を助けてくれる」と話すジョージ・ルーカスをはじめ

スピルバーグ、デヴィッド・リンチ、ジョン・ラセター――などなど凄い監督メンツが出演し

「よくぞそこに、注目してくださった!」とばかりに

音響製作者たちへの感謝とリスペクトを語りまくるという

すごーくおもしろい映画です。

 

クリストファー・ノーラン×ハンス・ジマーなんて

けっこう垂涎(笑)

 

メンツがすごいので

登場する映画が、誰もが知ってる大作だというのもポイントで

「スター・ウォーズ」に「地獄の黙字録」

「マトリックス」に「ROMA/ローマ」――

え?! あのシーンのこの音って、こうやって作られていたのか!

わかりやすいのがいいんです。

「スター・ウォーズ」のライフセーバーの音は、あれから作られていたのか!って

びっくりしたりね。

 

映画音響のエポックって、意外と最近で

1970年代にやっとモノラルからステレオになったとか

1960年ごろまでは

観衆の声とか、馬のひずめの音とかを

スタジオが持っていた「効果音」のストックを使い回していた――なんて裏話もあって

へえええ!

 

と、映画好きにはたまらない内容なのですが

そんな「へえ!」だけにあらず

 

今回、クローズアップされた音響製作者たちが

だいたい1950年ごろに生まれ、少年時代に「録音」という新しい技術に夢中になり

好きを極めた結果、

70年代に新鋭監督(ルーカスやコッポラ)たちと組んで、

音のスペシャリストになっていった――という過程も

すごく興味深かった。

 

なんだかアップル創業やFacebook創業前夜のような

若者たちのピュアな原動力の発露と、発展をみるようで

多幸な気分になりました。

 

映画って本当にいいものですねえ!

 

★8/28(金)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ようこそ映画音響の世界へ」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オフィシャル・シークレット

2020-08-29 22:21:58 | あ行

その勇気を称えたい!

 

「オフィシャル・シークレット」73点★★★★

 

*********************************

 

2003年1月。

英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)で

メールのチェックや翻訳の仕事をする

キャサリン(キーラ・ナイトレイ)は

 

ある日、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から送られてきた

メールを見て愕然とする。

 

それは英米がイラク侵攻を強行するため

違法な工作をする、という内容だった。

 

「戦争をはじめるために、ウソをつくの?」

――内容に憤りを感じたキャサリンは

悩んだあげく、マスコミにその内容をリークする。

 

2週間後、記事が英国「オブザーバー」紙の一面を飾った。

 

しかし、キャサリンの職場ではリークした犯人探しのため

執拗な取り調べが始まる。

 

そしてキャサリンの告発も虚しく、

イラク侵攻は開始されてしまう――。

 

*********************************

 

2003年3月20日、「大量破壊兵器あり」のウソで始まったイラク戦争。

暴走する戦争を止めようと

内部情報をリークした、一人の勇気ある実在女性を描いた作品です。

 

アメリカで「記者たち」(19年)に描かれた彼らが闘ったように

同じくしてイギリスで

たまたま「イラクを攻撃するための工作」を知り、

正しき行いをしようと、突き動かされたキャサリン。

 

彼女は

英国諜報部勤務、といっても

華麗なるスパイ的なポジション、とかではぜーんぜんなく

新聞広告に応募して採用された

本当に、いちスタッフ。

 

映画も彼女を

いかにもヒロイックな人物として描いていない。

そこが、いいんですね。

 

良識あるいち市民として、ウソを見過ごせなかったその心情、

いっぽうで

正しいことをしているのに、職場を追われ、逮捕され、身の危険すら感じ

「本当に、やってよかったのか?」と悩む

彼女の胃が迫り上がるほどの迷いや恐怖に

ものすごく共鳴できる。

 

それでも、信念を通す。

キャサリンの底にある鋼のパッションを

キーラ・ナイトレイが素晴らしく演じています。

 

実在のキャサリンは1973年生まれ。

日本に留学し、広島で仕事をした経験から

反戦への強い思いがあったことが

劇中で明かされる。

 

これは――日本人である我々は特に

胸に手を当てなければならないでしょう。

 

彼女の告発を記事にしたのは

イギリスの日曜発行の新聞「オブザーバー」紙。

勇気ある行動ですが、やっぱりそうそう思うようにはいかず

「うちは官邸の広報紙かよ!」と、内部記者に揶揄されるシーンを見ながら

この出来事からすでに17年、いまだ、いやさらにメディアは

ひどい状況になってないか?と

思わずにいられないのでした。

 

★8/28(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「オフィシャル・シークレット」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ソワレ

2020-08-28 23:49:49 | さ行

日本版A24スタジオ作品、という趣が!

 

「ソワレ」73点★★★★

 

************************************

 

現代の日本。

 

俳優になる夢を持ちながら

鳴かず飛ばずの翔太(村上虹郎)は

生まれ故郷の海辺の街で

高齢者施設の入居者に、演劇を教えることになる。

 

翔太はそこで

施設スタッフとして働くタカラ(芋生悠)に出会う。

 

どこか陰のあるタカラは

想像を絶する苦痛を生きのびてきた女性だった。

 

が、何も知らない翔太は

ある夕方、夏祭りに誘おうと、彼女のアパートに向かう。

 

そこで衝撃の事態を目にした翔太は

とっさにタカラの手を取り、

あてどない逃避行を始めるのだが――?!

 

************************************

 

センシティブな題材を

繊細に、「触感」を大切にしつつ、

既存の映画文法に挑戦しながら、映像に落とし込む――

そんな気概と意思が写っていて

 

どこか

「ムーンライト」(16年)

「ミッドサマー」(20年)などを排出した新鋭

A24スタジオの作品に似た空気を感じる作品でした。

 

 

で、監督が外山文治氏と知り

「ああ!」とより嬉しく、腑に落ちた。

「燦々(さんさん)」(13年)も好きで

気になっていた監督なんですよねー。

 

で、映画の内容は

逃れられない存在=父に蹂躙され続けてきたタカラ(芋生悠)が

ある事件を起こし

偶然居合わせた翔太(村上虹郎)と、逃亡をはじめる。

 

その逃避行は希望のない「予感」を感じさせつつも

ひたすら青く、みずみずしく

追わずにはいられない。

 

観ているうちに誰もが

「こんな弱者を追い回し、追い詰めるよりも、

やらなきゃいけない事、捕まえるべき悪はあるんじゃないか?」

――と憤怒するはず。

 

その感情は発展して

「こんな世界で何ができるのか」「なにが正義か?」「何が犯罪か?」――の問いを

じわじわと、我々に突きつけてくるのだと思います。

 

翔太が言う

「なんで弱い者ばかりが損をして、馬鹿を見るばかりなんだ。

そんなの良いわけがない!」

――というセリフ。

いま、このときに響くんだよなあ

 

来週9/1発売の『週刊朝日』、「この人の1週間」で

本作をプロデュースした俳優・豊原功補さんにお話を伺っております。

「なぜいま、『ソワレ』が必要だったのか――?」

じっくりひもとく、一助になれば幸いです!

 

★8/28(金)から公開。

「ソワレ」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グッバイ、リチャード!

2020-08-23 16:22:18 | か行

ジョニー・デップの、いまここが境地――かなw

 

「グッバイ、リチャード!」70点★★★★

 

******************************

 

大学教授のリチャード(ジョニー・デップ)は

ある日、がんで「余命180日です」と告げられる。

 

自覚症状もなく、仕事も順風満帆、

美しい妻(ローズマリー・デウィット)と娘(ゾーイ・ドゥイッチ)に囲まれ

理想の暮らしを送っていた彼にとっては青天の霹靂。

 

「なんでやね~ん!!!」と絶叫した彼は

さあ、そこからどう生きるのか?

 

******************************

 

 

ガンで余命宣告された大学教授が

人生を見つめ直す物語。――と書いてしまうとありきたりに思えるんですが

ジョニー・デップの、あの目力(めぢから)や毒気が

よい意味で抜けた、ナチュラルなダメさに見入ってしまった。

 

残り少ない命、どうせ先がないんだ、弾けてやる!――とはちょっと違って

リチャードは

力むことなく、限りなく正直に「自然体」になっていく。

 

 

寝っ転がって授業をし

ハッパを吸い、酒を飲み、親友とグダグダ話をする。

娘の、ある告白にも

「え?まあいんじゃね?そういうこともあんじゃね?」な感じw

 

それは彼自身が青春を送った時代に

「ホントは、こう生きてみたかったナ」というモデルなのかもな、と思う。

そんなリチャードに

ジョニデ自身がなにやら重なってしまうというか(笑)。

なんか、自然でいいなあと。

 

リチャードは親友一人にしか病気のことを打ち明けないので

ほかは誰も彼がそうなった理由を知らないんですが

それでもゼミの学生たちや、彼の娘ら若い世代が

リチャードの変化を好意的に受け入れる、ってとこもポイント。

 

大人の鎧を脱ぎ捨てて、素直に、正直になった人は

若者たちに、ある処し方を表すことができるんでしょうね。

 

そんなリチャードに寄り添ってくれすぎる(笑)

親友役、ダニー・ヒューストンもいい味だしてます。

 

終わり方も、悪くない。ないんだけど

やっぱ、1点だけひっかかってしまうのでありました――

置いていこうよ!

 

★8/21(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。

「グッバイ、リチャード!」公式サイト

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

2020-08-21 23:59:49 | は行

イケてないとか、こじらせとか、スクールカーストとか、

従来の基準で分類できない新しさ!

 

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」74点★★★★

 

**********************************

 

親友として高校生活を送ってきた

モリー(ビーニー・フェルドスタイン)と

エイミー(ケイトリン・デヴァー)。

 

二人はそれぞれ崇高な将来の目標を持ち、

恋にうつつを抜かすパリピー同級生たちを尻目に

高校時代のすべてを勉学に費やし、

輝かしい未来を勝ち取った――――

 

はずだった。

 

が、卒業を前に

二人はパーティー三昧だった同級生たちが

同じくらいハイレベルな進路に進むことを知る。

 

愕然とする二人は失った時間を取り戻すべく、

イケイケな同級生の卒業パーティーに乗り込むことを決意するのだが――?!

 

**********************************

 

いやはや、またまた米・ハイスクールものが

最新基準にアップデート!(笑)

 

イケてない、とかで簡単にくくれない

ありきたりのカテゴライズやスクールカーストではまるで分類不可能な

新たな女子たちに、完敗(笑)。

テイラー・スイフトらが絶賛、てのも納得できる作品でした。

 

 

ベッドサイドにミシェル・オバマや

ルース・ベイダー・ギンズバーグ(※「ビリーブ 未来への大逆転」(18年)「RBG 最強の85才」(19年)

をご参照ください!)の写真を飾る

意識高い生徒会長モリー(ビーニー・フェルドスタイン)と

「途上国の女性を、ナプキン作りで応援する!」という

(※「パッドマン 5億人の女性を救った男」(18年)も参考になるかも)

活動家のレズビアン女子エイミー(ケイトリン・デヴァー)。

 

 

この「意識高い系のヒロイン」2人の個性は

ちょっといままでになかったわー、と思う。

女優にして本作を監督した

オリヴィア・ワイルドの嗅覚が

すごい、ってしか言いようがないんですがw

 

で、恋も遊びも封印し、将来のために勉学一直線だった彼女たちは

高校卒業を前に

遊んでた、と見下していたクラスメイトたちが

自分たちと同レベルの進学をすることを知る。

 

んで

「まっしぐらだった私たちはなんなのよ!私たちの青春を返せ!」とばかりに弾ける――

というのが大まかなストーリーです。

 

なによりいいね!なのが

イケてる側におかれている人々も、そしてその反対にいるヒロインたちも

誰も別段、ルックスイケてないんですけど、というリアル(笑)

 

それでもイケイケを体験したいヒロインたちは

人気者のパーティーに行こうして

なかなかたどり着けないんです。

 

そんな一夜のドタバタは

どこか遠い日に、自分に起こったような

青春の迷走としょっぱさを体感させてくれる。

 

そして、さまざまを超えたのち

彼女たちは、自分たちが真に犯していた過ち――

パリピーと思っていた同級生たちを

一面でしか見ていなかった、ということに気づく。

 

それを超えての、

最後の仲間たちとの一体感。

 

うう

青春のキモはどんな時代も

不可侵の聖域にあるのだ、と

じん、ときてしまうのでありました。

 

★8/21(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで公開。

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする