いまの時代の空気にあまりにハマる。
「林檎とポラロイド」76点★★★★
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ある朝、男は部屋を出て、花束を買い、
バスに乗った。
そのまま眠ってしまったのか、夜、バスの中で目覚めると
彼は記憶を失っていた。
病院に運ばれた男は医師から
最近、蔓延している「突然記憶を失う病」だと告げられる。
何の兆候もなく発症し、記憶が戻るケースはゼロ。
多くの患者には家族が迎えに来るが、
男のもとには誰も来ない。
そして男は医師に勧められ、あるプログラムに参加することになる。
毎日カセットテープに吹き込まれたミッションをこなし
ポラロイド写真を撮り、人生を再構築していこう!というもの。
「自転車に乗る」「仮想パーティーで友達を作る」
それらを淡々とこなすうち、男はあることに気づき――?
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あのヨルゴス・ランティモス監督や
リチャード・リンクレイター監督の助監督を務めた
ギリシャ生まれ、クリストス・ニク監督のデビュー作です。
うん、好きな感じ。
蔓延する謎の病い、漠然とした不安、
もの哀しさと孤独さと、可笑しみ――
まるでパンデミック禍を予見したようで
いまの空気にあまりにハマる。
ほの暗いトーンながら、映画に悲壮さはなく
「新しい自分になるプログラム」に沿って
黙々とおかしなミッションをこなしていく主人公と
そこに生まれるシュールなユーモアに
プッと笑ってしまうんです。
「自転車に乗る」とかはわかるけど
なんで「仮装パーティー」?(苦笑)とか
課されるミッションがとにかく珍妙で
でも主人公は大まじめ。
「ストリップクラブで踊り子と写真を撮る」ときには
体をくねくねさせる踊り子に
「すみません、じっとして・・・・・・」(写真が撮れない!)とか(笑)。
さらにふと気づくと、街角で
自転車に乗って自撮りしている人がいる。
ははあ、同じプログラムを「時間差」でやらされている患者がいるわけですね(笑)
まあ、これが映画の重要なキーになっていくんですが
映画を覆う
ほの哀しさの理由が明らかになったとき
人にとって記憶とは、喪失とは?を考えさせられる。
それが深くて、沁みました。
ネタバレは避けますが
どこで「気づいたか」は、ちょっとワシ遅かった。
リンゴを買うのをやめたときかな――と思ったけど
実は番地のあたりから、のようですね。
★3/11(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。