ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

借りぐらしのアリエッティ

2010-06-30 14:29:00 | か行
いやーサッカー残念でした。

もう夏のお楽しみはあと
これでしょうかね。


「借りぐらしのアリエッティ」79点★★★★


床下に住んで
人間から生活物資をほんの少しづつ
“借り”てくらす小人のアリエッティ(声・志田未来)。

人間に姿を見られてはいけない決まりなのだけど
12歳の少年(声・神木之介)に
姿を見られてしまって・・・というお話。


これは期待を上回るクオリティでした。


まず
小人の家や庭の草木など
こまごまとしてて
凝った絵がすっごくツボ!



画面のすみずみまで凝視して
目が痛くなるほど堪能しちゃいました。


魔法を使ったりすることなく
工夫と知恵をこらして地道に生きる
小人一家の暮らしぶりが楽しく

お父さんとアリエッティが
砂糖やティッシュを「借り」に
人間の台所に行くまでの大冒険など

小人の目線を通して
ありふれた日常がスペクタクルに変わるさまに
ドキドキします。


なんたって
主人公が久々にキリッと気持ちいい美少女だし
未来少年コナンの相棒ジムシィみたいな
魅力的なキャラも登場するしね。


話は難しいこともなく
メッセージ性が強いわけでもないですが
そんな優しさが、いまはありがたい感じです。


いままでのジブリ作品の要素が
たくさん入ってますが

「耳をすませば」や「魔女の宅急便」の
エッセンスが一番多い気がしました。


ただ気になったのはプレス資料に
37歳という監督自身の素顔や直接のコメントが
何も出てこないところ。

「ジブリで一番上手なアニメーター」
「ジブリの未来を担う」
「おっとりしてる」
など、宮崎駿氏と鈴木プロデューサーによる
人物描写や伝聞はたっぷりあるんですが。

奥ゆかしい監督なのか。
これがジブリスタイルなのか。


まあ永遠に良質アニメーションを作り続けてくれる
カンパニーであっていただければ
なーんにも問題ないんですけどね。


★7/17から全国で公開。

「借りぐらしのアリエッティ」公式サイト
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セラフィーヌの庭

2010-06-27 15:21:34 | さ行
いまのところ
これが今夏のベスト1映画!

「セラフィーヌの庭」88点★★★★


実在の画家セラフィーヌ・ルイ(1864-1942)の生涯を描いた
真に力強く、美しい作品です。


1912年、フランス・パリ郊外で
家政婦として働く
中年女性セラフィーヌ(ヨランド・モロー)。

寡黙で孤独な彼女が
たったひとつ熱中していること。
それは絵を描くことだった。


ある日、セラフィーヌの働く屋敷に
ドイツ人の画商ウーデ(ウルリッヒ・トゥクール)が
引っ越してくる。

かのアンリ・ルソーを見出した目利きのウーデは
偶然、屋敷でセラフィーヌの絵を見て
衝撃を受けるのだが――。



不肖・美大出ながら
セラフィーヌという人については
まったく知りませんでした。

しかしその人生もすごければ
絵も素晴らしいんですよ
こんなにスゴイ人がいたんですねえ。


一見、愚鈍なセラフィーヌが
いったい何者なのか

川底をさらったり、教会で油を失敬したり、
木の実や草花を集めて
何をしているのか

そして彼女の絵を見せるまでの
前半部分の高まりが
ほんとに見事!


さらに
画商ウーデとの運命的な出会いで
ようやく日の目を見るかと思いきや

戦争という出来事に
彼女の人生は翻弄されていくのです。

そこからまだまだ
二転三転。


それでも
雑草のようにしぶとく生きるセラフィーヌ。
その
ずんぐりした彼女の内なる輝きを
ハッとさせる演出で魅せてくれるんです。


身軽にスルスルと木に登ったり
無愛想さのなかに
ときどき見えるチャーミングさとか。

とてもうまい。



ほら、どこみてんだか(笑)。


さらにウーデのある“事情”で
セラフィーヌの想いがすれ違ってしまう
切ない描写もたまりません。キューン!


先日、セラフィーヌの絵を1点所蔵する
世田谷美術館の学芸員・村上由美さんに
この映画についてインタビューをし

その際にうなずき合ったのが

「画家を“エキセントリック”なふうに
描いてないところがいい」
ということ。


本当にそうなんです。

画家や音楽家を描くときって
よく髪をかきむしってみたり
狂気とのはざまにあるような描写が多いけど


でもこの映画のセラフィーヌは
彼女の描く絵のとおり

大地からエネルギーを得ているような
原始的(プリミティブ)な生命力に満ちあふれていて
ほんとうに魅力的です。

演じるヨランド・モローがすごいって
話でもあるのですが。


なお
村上さんのお話は
「週刊朝日」(7月末週発売)の
おなじみ「ツウの一見」に登場しますので
お楽しみに。

そして
映画を見たあと
ぜひ実際の絵を見てください。

9/5まで世田谷美術館2階
「建畠覚造展」内でコーナー展示されています。
詳しくは
世田谷美術館ホームページで。


★8/7から岩波ホールで公開。

「セラフィーヌの庭」公式サイト
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ボローニャの夕暮れ

2010-06-26 17:20:54 | は行
今日から公開中の

「ボローニャの夕暮れ」65点★★


原題は「ジョヴァンナのパパ」。

タイトルどおりの内容で
娘を想う父親の真っ直ぐな愛情
胸が痛くなるお話です。


1938年、第二次大戦前の
イタリア、ボローニャ。

ミケーレ(シルヴィオ・オルランド)の
17歳の娘ジョヴァンナ(アルバ・ロヴァケル)は
自分のルックスに自信がなく
極度の引っ込み思案。

ミケーレはいつも
「お前は魅力的なんだよ」と
一生懸命に娘を励ましているが

美しい妻(フランチェスカ・ネリ)は
「あまりあの子に期待をもたせないで」
と、常に冷ややか。

そんなある日、ジョヴァンナの同級生が
学校で惨殺される事件が発生する。

さらに驚くべき犯人が明らかになり――。



“美しすぎる母”へのコンプレックスを抱える娘、
娘が可愛くてしかたない父親、
そして
秘密を抱える母、という

ある家族のドラマに
第二次大戦中のイタリアの状況を
うまく絡めた渋い作品です。


父から娘への迷いなき愛情に対し
特に思春期の娘と母親のあいだに
どうしても存在する

微妙な距離感や確執なんかが
リアルに表現されてました。


家族の近しさゆえの痛みや苦み、
そして再生を描くスケッチとしては
上質だと思います。


ただ
陰気な娘という設定に戦争と
あまりに沈鬱な空気があり
ところどころ
静かにウトウトしてしまいましたが・・・


しかし
この娘は、父親が死んだら
どうするのだろう。


お互いに寄りかかり合う
親子の姿は
あたたくもあるけれど
しかし不安もいっぱいはらんでいるわけで

そしてそれは
いつの時代の親子関係にも
鏡のように映る気がします。


★6/26からユーロスペース、銀座シネパトスで公開中。ほか全国順次公開。

「ボローニャの夕暮れ」公式サイト

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バウンティ・ハンター

2010-06-24 18:32:43 | は行
こういう映画って
夫婦役の男女コンビの意外性なんかで
ついつい見に行っちゃうんですねえ。


「バウンティ・ハンター」51点★


「300(スリーハンドレッド)」の
ジェラルド・バトラーと

ブラピの元妻
ジェニファー・アニストンが
(いまだにアンジーより、彼女のほうがイイ感じと思うが)

元夫VS元妻のバトルを繰り広げます。


交通違反の法廷をすっぽかした罪で
指名手配された元妻(ジェニファー・アニストン)を

賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)の元夫が
追いかけるというストーリー。


キャスティングからして
ゴシップ感アリアリなのが
この手の映画の魅力でしょうか。

他愛ないいさかいや、こじれにこじれた男女のドタバタから
警察内のある事件につながる
サスペンス展開には工夫があります。

品のない怒鳴り合いもないので

週末、夫婦で子どもをシッターに預けて
フラッと見るには
悪くないセレクトだと思います。
(日本でそんなこと、可能なのかはわかんないけど)

しかし
いかんせんセリフも間合いも
カックンくる子どもっぽさ。

みどころは
バトラーのたくましい胸筋~腹筋チラリと

アニストンのナイスバディでしょうか。

あれ?
ある意味ナイスカップル?



それにしてもアメリカ人って
ホントにこういう
男女のドタバタ戦、好きですよねえ。


ジュリア・ロバーツVSブラピの「ザ・メキシカン」(超ラジー映画!)
言わずと知れた
アンジーVSブラピの「Mr.&Mrs.スミス」(これもつまんない)

最近では
サラ・ジェシカVSヒュー・グラントの「噂のモーガン夫妻」(これはイケてた)

などなど。


ハリウッド俳優の息抜き出演?
という気も少々しますが

やっぱり、観客が
パートナーへの日頃のうっぷんを
はらすための映画なんでしょうかねえ?

あるいは、お互いへの
「こういうの、やめてくれよな」的メッセージ?


★7/10から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「バウンティ・ハンター」公式サイト
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ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実

2010-06-23 12:04:26 | は行
過去を記憶できないものは
同じ過ちを繰り返す――ジョージ・サンタヤナ(アメリカの哲学者。1863-1952)

そのとおりでがんす。

「ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実」67点★★


1974年に作られて
第47回(1975年)アカデミー賞の最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した
ドキュメンタリーです。
日本初公開。


「地獄の黙示録」などベトナム戦争を描いた映画に
多大な影響を与えた記録集で

なにがすごいかというと
1972年、徐々に終わりが見えつつも
まだベトナム戦争泥沼の真っ最中のときに

アメリカ兵士、軍人、政治家、ベトナムの村人など
戦争に関わったあらゆる立場の人に
インタビューをしているところ。

敵対する双方をきっちり取材してあり
印象に残る言葉も多かった。

「我々は間違えたのではなく、いま間違えているのだ」
という
米軍筋からの賢明な意見がある反面

「東洋人の命の価値は西洋人より小さい。
だって人口が多いし、東洋的な思想からも
そう感じられる」

なんて
寝ぼけたことを堂々とほざく
元米軍関係者もいたりして

おい、おっさん!
そのアホ面、永遠に記録されたからな!
ざまあみろ!

って感じなんです。


いやー“記録”ってすごいわ。

インタビューと記録映像で積み重ねた作りは
まま単調でもあり
途中、周辺からスウスウと寝息も聞こえましたが
(番長もほんの3分ほど・・・すみません)

こういう映画は
きちんと見ておくべきでしょう。


この映画を詳しく教えていただくため
従軍カメラマンとして現地にいらした
写真家の石川文洋さんに
取材をさせていただきまして

どんなにこの記録が貴重かということが
つくづくわかりました。

こんなに自由に取材、撮影ができたのは
ベトナム戦争だけだったんですね。

湾岸戦争も、もちろんイラク戦も全然ダメ。

そりゃあ戦争の最中に
当事者の
「間違いだった」なんてコメント
まずいってなもんでしょうが


「この戦争で米軍は
余計なことを学んじゃったんだ」

って、おっしゃってました。

我々はもっと別のことを
こういう映画から学ばないといかんということが
とてもよくわかるお話でした。

文洋さんのインタビューコメントは
現在発売中の「週刊朝日」7/2号50Pめに載ってますので
ぜひ、読んで見てください。




★6/19~7/16 東京写真美術館ホールで公開中。

「ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実」公式サイト

同時公開で
「ウォーター・ソルジャー ベトナム帰還兵の告白」(1972年作品)もやってます。
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