ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ケイト・レディが完璧な理由

2012-05-31 23:24:20 | か行

バリキャリの“完璧”な役なら
「ふーん」って感じだったけど
意外に庶民派で好感!

「ケイト・レディが完璧(パーフェクト)な理由(わけ)」70点★★★★

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ケイト・レディ(サラ・ジェシカ・パーカー)は
妻、二児の母、投資会社のファンドマネージャーという役柄をバリバリこなし、

ママ友たちに
「なんであんなに完璧なの?!」と絶賛される女。

……かと思いきや、

実は手抜きとアイデアで、
3役を自転車操業をしているフツーの女性だ。

そんな彼女に
仕事でビッグなチャンスが訪れる。

NY本社の責任者ジャック(ピアース・ブロスナン)が
彼女のアイデアに興味を持ち、
クライアントに売り込みたいというのだ。

そして彼女はジャックと
行動を共にするようになるが――?!


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サラ・ジェシカ・パーカーが
働く二児の母を演じるワーキングコメディ。

完璧、とかいうもんで身構えたら、
まあ庶民的で賑やかで、
がさつでチャーミングなキャラクターで実にかわいい。


市販のパイを手作りに偽装するわ、
着ていく服を探して
「シミと臭いのないシャツ発見!」と歓喜する様子に笑っちゃいました(笑)


主人公が仕事と家庭を同じように真実愛している
その気持ちが伝わるので、

実生活でのワーキングマザーはもちろん
そういう彼女たちを「大変そうだなー」と横目で見ているワシなどにも、
いやみなく素直に共感できました。

イクメン流行りのいま、男性も必見かもね。


あとこの映画が
「仕事と家庭」という天秤だけじゃなく、
もう一段入っていて気が利いてるなと思ったのは、

ケイト・レディがホームパーティに集まった
ダンナの友人だか、近所の人だかに、
「で?キミの仕事なんだっけ?」と言われるところ。

そう、そんなもんですよ(笑)


そのとき、その人にとって
仕事はすべてかもしれないけど、

ちょっと離れてみると
人生は仕事だけじゃないし、
かといって、家庭かの二択にあらず、ってね。

まあいろんな選択肢アリの
世の中になるといいんですけどね、という。

90分でサクッとしてる分、
ダンナが物分かりよすぎたり
理想論で終わってもいる感もあるんですが、

働く人なら、見ていて元気をもらえると思います。

こういう映画はありじゃないかな。

★6/2(土)からシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「ケイト・レディが完璧な理由」公式サイト
コメント (4)
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ジェーン・エア

2012-05-30 23:30:55 | さ行

「闇の列車、光の旅」の
キャリー・ジョージ・フクナガ監督作。

この監督はエモーションの盛り上げかたがうまい。

「ジェーン・エア」72点★★★★

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幼いころに両親を亡くした
ジェーン・エア(ミア・ワシコウスカ)は
不幸な少女時代を過ごし

寄宿舎でも教師から不当な扱いを受ける。

それでも負けずに成長した彼女は、
ある屋敷の家庭教師となる。

ある日、彼女の前に、
若き屋敷の主、ロチェスター(マイケル・ファスベンダー)が現れる。

そのぶしつけな態度に戸惑いつつも
しかし次第に、彼と心を通わせるようになるジェーン。

が、彼女にはまだまだ
苛酷な運命が待ち受けていた――。

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父方の祖父が日本人という
日系アメリカ人のキャリー・ジョージ・フクナガ監督が、
1847年に出版され、18回も映画化されてきた(!)
名作文学に挑んだ作品。


「闇の~」もそうだったけど、この監督
やってることは意外にベタなんですが
(薄幸な少女、不遇やイジメ、果たせない愛とかね)

感情の盛り上げ方がうまくて
キュンとさせるんですよね。

冒頭、嵐の中をさまようジェーンの姿をセリフなしで見せ、
ただならぬ切迫感をみせるのもうまいし、

抑圧される彼女の苦しみを描くことで
自由を渇望する彼女の願いに、観客を共鳴させる。

次の展開へ、そして悲劇へと
観客を上手に誘うんです。


生い立ちの不幸や
社会の抑圧に屈することなく背筋を伸ばし
使用人の立場でもキリリと尊厳を守り抜く
ジェーンに共感し、胸が震えます。

まあそんな強さがまた
彼女の苦しみを倍にしてるんですけどね。


化粧っ気がなくても輝くジェーンを
ミア・ワシコウスカが素晴らしく演じています。

上映時間2時間が、6時間にも感じられました。いい意味で。


監督に『キャンディ・キャンディ』とか
映画化して欲しい。上手いと思うマジで(笑)


★6/2(土)からTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野感ほか公開順次公開。

「ジェーン・エア」公式サイト
コメント (1)
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外事警察 その男に騙されるな

2012-05-29 19:32:37 | か行

これは役者が粒ぞろいでした。


「外事警察 その男に騙されるな」70点★★★★


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国際テロを未然に防ぐための組織、
警視庁公安部外事課=“外事警察”の住本(渡部篤郎)のもとに
「濃縮ウランが朝鮮半島から流出した」との情報が入る。

日本が核テロの標的になる可能性が高い――。


住本はソウルで鍵を握る科学者(田中泯)に接触し、

さらに部下の松沢(尾野真千子)に
子連れの女性・果織(真木よう子)に
近づくよう命じるが――。


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公安が主役の渋~いクライムサスペンス。

NHKのテレビドラマの映画化だそうで
ドンパチが主ではなく、

自分の目的のために(=国家安全のため、だけど)
利用できる相手を懐柔する=「おとす」という
攻撃方法がポイント。


その術に長けているのが
渡部篤郎演じる主人公で、

例えば、夫をスパイさせるために
真木よう子に近づき、優しげに、しかしチクリ、ゆらりと揺さぶり
協力させようとするわけです。

終始落ち着いた調子で、
しかし無言の威圧感を与え、

言葉巧みに説得し、また取引をし、
人間を操ることで敵を攻撃するというのが
なかなかおもしろかったです。

ああ公安って、
話には聞くけど、ほんとにやーらしいのねえとか(笑)
いや、知りませんけどね。

ただ、肝心の話には
単純なところも、無駄なところもある。

でも
「光が強ければ、出来る影は濃い」という
コンセプトを感じる深い黒の色調や、

その色合いにハマる役者を
上手にあてていて、合格点。

真木よう子氏が上手く、
田中泯がさすがの存在感でした。


★6/2(土)から全国で公開。

「外事警察 その男に騙されるな」公式サイト
コメント (2)
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ミッシングID

2012-05-27 14:06:17 | ま行

「ボーン」シリーズの
DNAを受け継ぐ…っていうコピーは巧みだなあ(笑)


「ミッシングID」61点★★★

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ごく普通の高校生
ネイサン(テイラー・ロートナー)は

学校の課題で
幼なじみのカレン(リリー・コリンズ)と
児童誘拐事件について調べることに。

「失踪児童サイト」を見ていた彼は
信じられないものを目にする。

それは、自分の子ども時代と
そっくりな少年の写真だった。

これは自分なのか――?
自分は誘拐されたのか――?

ネイサンが両親に事情を聞こうとしたそのとき、
何者かが家に押し入ってきて――?!

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「トワイライト」シリーズの狼ジェイコブ役
テイラー・ロートナー主演のアクションサスペンス。

序盤はハイスクール白書っぽく、
あるきっかけでサスペンスになっていくというもので、

ジェイソン・ボーンばりのドキドキを期待しましたが、
やはりシビアなサスペンスにするには
主役が高校生じゃ若すぎる。

それに多少腕っぷしに自信があっても
普通の高校生がCIAを倒すって無理だろというところで
思考が止まっちゃうんですよねえ(笑)


テイラー・ロートナーは好きだけどね。

そもそも
高校の宿題で「失踪児童サイト」を調べてたら
自分の写真が載ってる……って設定もなあ。
罠だとしても、仕掛ける側も気の長い話で(笑)

ということで
ロートナーくんはカッコイイですが

アッと仰天のアクションもないかわりに、
割りと安心して見られるティーン向け、という感じでした。


★6/1(金)から丸の内ピカデリーほか全国で公開。

「ミッシングID」公式サイト
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私が、生きる肌

2012-05-25 18:32:49 | わ行

「女」を完璧に「造型」として捉えた
独特のシュールな映像と観点が、監督らしいなあと。


「私が、生きる肌」67点★★★☆

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2012年、スペイン・トレド。

形成外科医のロベル(アントニオ・バンデラス)は
人工皮膚研究の権威。

彼の屋敷には
ベラ(エレナ・アナヤ)という美女がおり、
なぜか全身をボディースーツで多い、
監視モニターでその行動を観察されている。


初老のメイド(マリサ・パレデス)が
ベラの世話をしていた。

ある日、そんな屋敷を
音信不通だったメイドの息子(ロベルト・アラモ)が訪ねてくる。

荒くれ者の息子は、ベラを発見し
彼女に襲いかかろうとするのだが――?!

*************************

冒頭、不思議な部屋のなかで
黙々をヨガをする美女が映し出される。

それはまるでシュールレアリスム絵画のように
完璧な構図で美しい。

しかしよく見ると、素肌かと思ったものは
おかしなボディースーツ!

そんなところもだまし絵チックで
引きこまれます。


妻を失った主人公が狂気の行動に出る話で、
しかも
「皮膚」とか「外科」とかから
ちょっと血まみれを想像していましたが、
思ったほどどぎつい描写はなかった。

豪華な屋敷の様子や、怪しげな実験をするドクターなど
どこか明るくパキッとした映像と謎めいた雰囲気が
「刑事コロンボ」みたいだなあとも思いました。
(バンデラスの顔がバタ臭いところも、昔っぽくて雰囲気がある。笑)


シュールだけど話に整合性はあり、

アルモドバル監督らしいジェンダー視点も全開で
確かに突き詰めているとは思う。

思うんですが、
想定を越えて感じ入るものは特になかった。


謎いっぱいの中盤まではよかったんですが、
タネ明しのあとは少々退屈でもあったし。

でもこの映画は
何があってもネタバレして欲しくない。台無しだもん。


実は試写後、
おっきな声で未見の人に
もっとも確信部分のネタバレをしているおばさんがいたんですよ。

同業者なのか?顔は見なかったけど
恥ずべき行為!怒り心頭!


★5/26(土)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「私が、生きる肌」公式サイト
コメント (2)
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