ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

やさしい女

2015-03-31 20:08:58 | や行

このビジュアルだけでも、かなりおいしい。でしょ?


「やさしい女」69点★★★☆


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1960年代のパリ。

質屋を営む男のもとに
若い女(ドミニク・サンダ)がやってくる。

安物のカメラなどを質に出す彼女に一目惚れした男は
彼女を説き伏せ、結婚する。

質素ながらも
順調そう見えた結婚生活だったが――?!

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ドストエフスキー原作×ロベール・ブレッソン監督。

1969年制作のデジタル・リマスター版で
1986年以来となる劇場公開だそう。

初めて見ましたが

「あっ」と思わせるオープニングの掴みといい、
話の行方を捜すあいだ、
登場人物の顔から下を映す切り取り方といい

このポスタービジュアルでもある
ヒロイン、ドミニク・サンダが
最初に質屋に現れたときの、この鮮烈に印象的なシーンといい

とにかく静かに
映像が物語る、その様がカッコいい。


でも、話には翻弄されます(笑)


貧しいヒロインは結婚し、安定を手に入れたはずなのに
欠片もしあわせそうじゃない。

いつも心ここにあらずで
人並みの幸福を凡庸として嫌っているのか、
誰かに想われることすら束縛になるのか。

捉えどころのない美しい妻の
望みはなんなのか?

夫同様、オロオロしてしまう。

でも、終始そんな状態である
ドミニク・サンダの憂いの表情が
ほんっとに美しい。

見どころはずばり、そこです。ハイ。


★4/4(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「やさしい女」公式サイト
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カフェ・ド・フロール

2015-03-25 23:08:15 | か行

こうなるとは、予想がつかなかった。いい!


「カフェ・ド・フロール」75点★★★★


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2011年、カナダのモントリオール。

40代のアントワーヌ(ケヴィン・パラン)は
2年前に離婚し、若い恋人とラブラブで、仕事も絶好調。

しかし彼の元妻(エレーヌ・フローラン)は
アントワーヌとの別れをいまだに受け入れられない。

いっぽう
1969年のパリで美容師をする
シングルマザーのジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)は
ダウン症の息子に愛を注いでいた。

時空を超えて描かれる二つの物語は
いったい、どんな意味をもつのか――?


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「ダラス・バイヤーズクラブ」の
ジャン=マルク・ヴァレ監督の作品。

2011年を生きるイケイケ男と彼に捨てられた元妻。
1969年を生きるシングルマザーとダウン症の息子。

時間も場所も違う二つの物語が
めまぐるしいけどシャープな手さばきで交互に進む。

最初は
イケイケ男の日常に鼻白みながら
「これは何の話なんだろう?」といぶかしく思ってたんです。

同時に
ダウン症児を一人で育てるお母さんの
愛情と奮闘にはすごく共感したし

でも
「いったいこの二つが、どう関係するの?」と
なかなかわからない。

そして、それが
こう重なってくるとは!

予想がつかず、おもしろかったし
「ダラス~」よりワシは断然グッときた。

ぜひ予備知識ナシで見てほしいです。


この話ってすごく突き放していうと
浮気男の凝った“言い訳”とみえなくもない。
こういう理由があったんだから、しかたないべ、っていう。

でもそこを直感で
「そだね。こりゃしかたないね」と思ってあげられるのが
すごいなあと思った。

実は本作、監督自身が
長年連れ添ったパートナーと別れ、
それを消化するために作ったらしいんです。

そんな極パーソナルな感覚が物語として大きくうねった、
成功例といえると思います。


思い返すと、いろいろ謎もあって
「ラストのあの写真はなんだったのか?」には監督も答えていない。
あと、冒頭の飛行機の場面などから
主人公はもう死んでるのでは――?と推察する方もいるようです。
たしかに、それは理にかなってるかな。

観たあとに話し合うのが
またおもしろいですよ。


★3/28(土)からYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「カフェ・ド・フロール」公式サイト
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ジュピター

2015-03-23 23:34:48 | さ行

エディ・レッドメインが出てるんですよ~。


「ジュピター」3D版 46点★★☆


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シカゴに住むジュピター(ミラ・クニス)は
家政婦として凡庸な日々を過ごしていた。

ある日、彼女は何者かに襲われ、殺されそうになる。

そのとき、強靱な戦士ケイン(チャニング・テイタム)が現れ
彼女を救う。

そして、ジュピターはケインから
到底信じられない自分の秘密を聞くことに――?!

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ウォシャウスキー姉弟監督の新作。

前作「クラウド アトラス」から3年、
オリジナルとしては「マトリックス」以来16年ぶりだそうです。
(そんなにか?!


映像はなかなか迫力ですが

申し訳ないことに、話がつまらない・・・。コンセプトも感じない・・・。
どこかで見た
ファンタジー×アクションゲームの世界というか

簡単に言えば
平凡な女の子が、ある日突然
「あなたはさる惑星の王妃なのです」と言われて
「えー!あたしが?!」みたいな。
うーん、どうなんでしょうね
今の時代、この設定で引っ張れるんでしょうか。

古代の神ふうの世界感は
なんとなく「マイティ・ソー」に似てるし、
“生まれ変わり”とか何かもう、いろんなものを混ぜ込んでる感じ。


「人間は単なる“部品”(というか道具?)で
別の存在に利用される駒である。ガーン!」という設定は
マトリックスから継承されてるのかな。

まあ「銀河鉄道999」からといえばそうですが。

それでも
チャニング・テイタムの肉体美は魅力だし、
なんたって旬のオスカー俳優、
エディ・レッドメインが悪役で登場します!


★3/28(土)から全国で公開。

「ジュピター」公式サイト
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酒中日記

2015-03-19 23:06:47 | さ行

さ~今日も酒飲んで語るぞー(笑)
何話したかは、よく憶えてないぞー(笑)

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「酒中日記」73点★★★★


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評論家・エッセイストの坪内祐三氏が
『小説現代』で連載中の同名エッセイを
本人主演で映像化したドキュメンタリードラマ。

坪内氏が夜な夜な文壇バーを渡り歩き、
文士たちと飲み、語り明かすという
その様子を写しているわけなんですが、

これが、笑っちゃうほどおもしろい(笑)

ある夜は新宿の文壇バーで都築響一さんと話し
ある夜は銀座の文壇バーで亀和田武、杉作J太郎の両氏を
謎の(?)ナポレオンでもてなす。

登場する方々との会話は
雑談といえども、もちろん文化度高く、

バーの片隅にコソっと座って、ちゃっかり聞かせてもらってる
楽しさとお得感があります。

しかしそんな知識人も
ときにはグダグダに、酩酊もする。
特に中原昌也さんとのシーンの
テンポのよい切り返しには大笑いしました(笑)


坪内さんという方は
さすが編集者出身というのでしょうか

一見、飄々とした孤独好きにみえて、
その実、人懐こいというか
誰の懐にもスッと入れるし、誰との会話も上手に動かせるんですね。
人付き合いの苦手な自分には、ものすごく勉強になった。

「俳優になってもイケるんじゃない」なんて言われて
フッとクールを装いつつ
嬉し顔がバレバレだったり(笑)

自意識を隠さないところが、
みなさんに好かれる理由なのかなと思います。

ほかにも重松清氏、南伸坊氏、中野翠氏など豪華メンバーが登場。
誰が見ても、けっこうおもしろいと思います。


★3/21(土)からテアトル新宿ほか全国順次公開。

「酒中日記」公式サイト
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陽だまりハウスでマラソンを

2015-03-17 20:03:00 | は行

もっとハートフルかと思ったけど
逆に、そこがずしんときた。


「陽だまりハウスでマラソンを」70点★★★★


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1956年、オリンピックのマラソンで金メダリストとなった
西ドイツ出身のパウル(ディーター・ハラーフォルデン)。

いまはすっかり年を取り、
妻(ターチャ・サイブト)と隠居生活だ。

だが妻の体調が悪くなってしまう。
一人娘(ハイケ・マカッシュ)は仕事に忙しく
面倒を見られない。

しかたなくパウルは妻と老人ホームに入るが、
そこはとてつもなく退屈な場所で――?!


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70代の元オリンピック選手が
もう一度、フルマラソンを走ろうとするが――?というドイツ映画。

もっとハートフルで
“老人がんばるコメディ系”かと思ったんですが
想像とは違って、けっこうシビアで重さもあった。

でも、そこがずっしりきた。


しかし
「人生はマラソンだ!」もちょっと想像と違ったし
ワシが宣伝素材からイメージするものが単に間違ってるのか(苦笑)


ともあれ、本作は
いやでもやってくる“老い”を考えさせ、
仲睦まじい老夫婦の行く末に胸を詰まらせ、
(妻役の女優の慈愛に溢れる優しい眼差しがたまらなくいい!

若い世代が親の面倒をどう見るか――という
万国共通の問題を突きつけられる。

そして老人施設でのケアの問題もある。

「走りたい!」という70代のパウルを
施設のスタッフは「やめなさい!」「ホームの秩序を乱さないで!」
なんとしてでも止めようとするんですね。

本当は一人一人に合ったケアが必要なのに
「他と違うことをさせられない」という状況に
なにより人手不足があるのだろうか、
日本で聞くのとまったく同じだな、と「ふーむ」と思いました。


まあ、
しのご言わずに、パウルを走らせてやれば
こんなに問題が長引かなかったのに・・・という気もするんですが
それを言ったら、せっかくの話が台なしか。すみません(苦笑)

ちなみに主人公が
1956年のメルボルン・オリンピック金メダリストだ、という設定は
フィクション。

冒頭に流れるニュース映像が
あまりにもリアルなんで
てっきり事実かと思いました。


★3/21(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館

「陽だまりハウスでマラソンを」公式サイト
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