素晴らしい映画!
しかし
この青春は、あまりに鮮烈で過酷だ。
「ハピチャ 未来へのランウェイ」79点★★★★
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1990年代、アルジェリア。
大学の寮に暮らす女子大生ネジュマ(リナ・クードリ)は
ルームメイトのワシラ(シリン・ブティラ)と
夜な夜な寮を抜け出し
ナイトクラブへ遊びに行く。
ファッションデザイナーになる夢を持つネジェマは
クラブでオーダーメイドのドレスの依頼を受け
それを売っているのだ。
一見、自由に見えるネジュマたちだが
アルジェリアには、まだイスラム社会の抑圧があり
加えて、最近は
イスラム原理主義の思想が世の中に不穏な空気をもたらしていた。
そんななかで、
ネジェマの未来と自由を奪おうとする、ある出来事が起こり――?!
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アルジェリア――
コロナ禍で再注目された、カミュの『ペスト』の舞台であります。
で、その場所で
1990年代、何が起こっていたのか?!――を
当時を知る女性監督が、
生き生きとした物語に託した作品です。
鮮烈にして戦慄な状況に
めちゃくちゃ心を揺さぶられました!
1990年代、アルジェに暮らす
ヒロイン・ネジュマ。
大学の寮を抜け出して夜遊びをし、ボーイフレンドもいて
普通に自由を謳歌しているように見える――のですが
実はそうでもないんですよね。
イスラムをルーツに持つ人々が多いアルジェリアでは
「女性が肌を出すのはダメ!」「娯楽は堕落!」といった風潮が
社会に残っている。
そんななか、
その引き締めを強くするイスラム原理主義の思想が街を支配し、
街のあちこちで検問をしたりしてる。
そして、その抑圧と恐怖が
ネジュマの未来、その人生を浸食していくんです。
まずショックだったのが
一見、「西欧社会」に属し、理解もありそうな
若い世代のネジュマや親友のボーイフレンドたちが
無自覚のうちに
相当なトキシック・マスキュリン(有害な男らしさ)にしがみついている、ってこと。
一緒にわちゃわちゃ遊んでるようなときは、まだいいけど
自分の女(や妻)となったら、話は別。
「女は出しゃばらず、家にいればいいんだ」って?
従わなければ、暴力ですか?って。
だからイスラム原理主義者たちの暴走で女性が被害を受けても
「いわんこっちゃない」「出しゃばるからだ」という空気が、彼らにはある。
さらに
そうした男性優位社会に寄り添ってしまう女たちが
宗教の名をかざして
大学内でネジュマたちを密偵のように監視し、糾弾したりするんですよ。
いったい、この構造はなんなの?
てか、まさにいまの日本に通じるところもあるよね?
と、強い憤りを感じた。
そんななかでネジュマは
ドレスも作れなくなり、
学内でのファッションショー開催も中止に追い込まれていく。
この理不尽な状況から逃れるために
フランスへの脱出など手立てはなくもないのに
しかし、ネジュマは逃げ出すことを良しとしないんです。
「私の国はここ。ただ、闘う必要があるだけ」――
そう言い切るネジュマに
なんと潔く、美しい魂だろう!と、感動した。
ラスト近く、さらに衝撃の展開になるけれど
それでも傷だらけの女たちは、決して倒れない。
繊細にして力強い姿が、素晴らしいと思うのです。
★10/30(金)からBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。