ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

2019年ベスト映画発表!

2019-12-31 02:05:18 | ぽつったー(ぽつおのつぶやき)

いや~今年はホントに最後の最後になりました(笑)

2019年ベスト映画発表です~!

 

今年は洋画部門、邦画部門にしてみました

まずは洋画部門ベスト10から!

(1位)サタンタンゴ

(2位)幸福なラザロ

(3位)存在のない子供たち

(4位)サマーフィーリング

(5位)家族を想うとき

(6位)荒野にて

(7位)アマンダと僕

(8位)希望の灯り

(9位)イエスタディ

(10位)ビリーブ 未来への大逆転

(次点)象は静かに座っている

    田園の守り人たち

    あなたの名前を呼べたなら

    リンドグレーン

    グリーンブック

    さよなら、退屈なレオニー

    WEEKEND ウィークエンド

    バーニング 劇場版

    ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた

    ペトラは静かに対峙する

 

続いて邦画部門ベストは8位まで!

(1位)新聞記者

(2位)メランコリック

(3位)半世界

(4位)よこがお

(5位)さよならくちびる

(6位)スペシャルアクターズ

(7位)長いお別れ

(8位)楽園

 

いつもながら、思い返して「グッ!」ときたものが、上位でございます。

サタンタンゴは1994年の作品ですが

日本初公開!ということと、

なんといってもワシ的に、今年はタル・ベーラ監督インパクトが大きかった!

 

全体的に、洋画邦画ともに、

いつにもまして

「社会への問いかけ」をパーソナルな視点に落とし込み、

ジワワと考えさせる良作が目立ちました。

あと、思いっきり笑えるものも!

 

もっともっと、紹介したい作品があるのですが

最近、どうにもブログ更新が追いつかず

申し訳ありません。

 

今後もできるだけ更新しつつ

雑誌やwebで書いた映画評&インタビュー記事などの情報も

SNSでできるだけ紹介していきますので

映画セレクトのヒントにしていただければ幸いです。

 

今年も読んでいただきありがとうございました。

2020年も

どうぞよろしくお願いいたします!

コメント (7)
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男はつらいよ お帰り 寅さん

2019-12-27 23:57:21 | あ行

ああ、寅さんって

ホントにおもしろかったよなあ!

 

「男はつらいよ お帰り 寅さん」73点★★★★

 

*********************************

 

現代の東京。

 

寅さんの甥っ子・満男(吉岡秀隆)は、五十路を前に

サラリーマンを辞めて、念願の小説家になった。

実は満男は、妻を早くに亡くし、

中学生の娘と二人で暮らしている。

 

妻の法要で、柴又の実家へ戻った満男は

母(倍賞千恵子)、父(前田吟)と昔話をしながら

伯父である寅さん(渥美清)との日々を思い出す。

 

そんなとき、満男は偶然、

初恋の人・イズミ(後藤久美子)と再会し――?!

 

*********************************

 

「男はつらいよ」シリーズに主演し、

1996年に亡くなった、寅さんこと渥美清さん。

 

本作は97年に作られた49作から、22年ぶりに作られた

50作めの「男はつらいよ」です。

 

渥美さんは亡くなっているけれど

映画では「寅さんがいない」とはしていなくて

「いつか帰ってくる」となってる。

 

そんな体で作られた、あったかい作品で

これが

予想以上に笑ってしみじみしました。

 

吉岡秀隆氏演じる満男を主人公に、

満男のいまの暮らし、

そして、かつての思い人イズミ(後藤久美子)との再会、というストーリーが

寅さんの名場面をうまく散りばめながら、進んでいく。

 

舞台は現代だけど

やっぱり変わらぬどこか古風なテイストが気持よく

なにより

過去の寅さんの名場面に、マジで笑いました(笑)

 

「ホントに寅さんって、おもしろかったよね!」と

改めて思い返させる作りで、うまーい!

 

タコ社長(故・太宰久雄さん)の娘役、美保純氏の

タコ社長を彷彿とさせるそっくりぶり、

 

さくら役の倍賞千恵子さんの、いまも変わらぬ可憐さ、

博(前田吟)、おばちゃん(故・三崎千恵子さん)、

おいちゃん(故・下條正巳さん)たちと

みんながにぎやかに食卓を囲んだ

あのドタバタが懐かしく、ホロリとしました。

 

こんなにも、どんよりした世の中だからこそ

いま寅さん、必要なんじゃないかと。

昔みたいにお正月、笑って観てほしい映画です。

 

 

本作にも登場する寅さんのバディ(?)

源公こと、佐藤蛾次郎さんに「週刊朝日」でインタビューをさせていただいてます。

 

AERAdot.にアップされてますので

ぜひ、映画と併せてご一読くださいませ~

 

★12/27(金)から全国で公開。

「男はつらいよ お帰り 寅さん」公式サイト

コメント (2)
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シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

2019-12-12 23:08:13 | さ行

驚いた!本当にあるんだ、この宮殿。

 

「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」72点★★★★

 

********************************

 

1863年、フランス南部の田舎に住む

郵便配達人シュヴァル(ジャック・ガンブラン)。

 

人付き合いが苦手で寡黙だが

マジメに働き、妻と幼い息子と暮らしていた。

 

だが、妻が病で亡くなり、

幼い息子とも別れさせられてしまう。

 

数年後。

傷心の彼は、若き未亡人フィロメーヌ(レティシア・カスタ)に出会い

恋をし、新たな家庭を築き出す。

 

そんなある日、シュヴァルは奇妙な石につまづき

崖から転がり落ちる。

 

それをきっかけに彼は

家の前に、巨大な建築物を造り始めるのだが――?!

 

********************************

 

1879年から33年間にわたり

郵便配達人のシュヴァルが

たった一人で石を拾い集めて作った宮殿。

 

ピカソらが絶賛し、いまも実在するこの宮殿は

仏政府の重要建造物に指定され、観光名所になっているそうで

 

いや~こんなスゴイ人がいるんだ!と、まず驚いた。

 

対人は苦手だけれど、勤勉で寡黙なシュヴァルは

妻を病で亡くし、

「お前には育てられないだろう」と、幼い息子を手放さねばいけなくなる。

 

傷心な彼を郵便局の同僚がさりげなく案じ、

やはり夫を亡くした若き未亡人・フィロメールの家の担当にしてくれ

(なんと気の利くことよ。笑)

そこで彼は、彼女に恋をする。

 

全体的に展開はサクサクで

さっぱりしていて、そこも好感。

 

で、フィロメールとの間に娘も生まれ、

よりいっそうマジメに郵便配達をする彼は、

しかし、あるとき、神の啓示を受けたように、

庭に石で宮殿を作り始めるんです。

 

これが尋常じゃないスケールと、美しさの建造物で、

マジですご過ぎる。

 

建築の専門知識もなく、見聞も決して広くなかった彼が

バリかインドネシアの宮殿か

いやガウディか、はたまた?!というほどの超絶クオリティの建造物を造る

その驚きとともに、

 

小さな村で「変人」扱いされながら

取り憑かれたように宮殿造りに励むシュヴァルの味方をし

見守る妻フィロメール、そして娘アリスとの関係がやさしくて

いい話だなあ、と感じました。

 

ひたむきに、ひたすらに、なにかを成し遂げる。

市井の人のいち人生に、光が当たる話は、大好きです。

 

★12/13(金)から公開。

「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」公式サイト

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家族を想うとき

2019-12-11 23:15:54 | か行

めちゃくちゃ、あたたかい。

だからこそ、この家族の行く末が沁みるんです。

 

「家族を想うとき」78点★★★★

 

*********************************

 

イギリスの地方都市。

妻と16歳の息子、12歳の娘を持つリッキー(クリス・ヒッチェン)は

フランチャイズの宅配ドライバーとして働きはじめる。

 

マジメに働いてきたものの

10年前の金融破綻で

仕事もマイホームの夢も失ったリッキーにとって

「自分のがんばり次第で、いくらでも稼げる」

この仕事は最後のチャレンジだった。

 

ギリギリの生活費のなか

介護ヘルパーとして働く妻の車を売って配達用のバンを買い、

なんとか仕事をスタートさせたリッキー。

 

想像を超えるハードな仕事にも耐えていた彼だが

次第に家族にひずみが生まれていき――?!

 

*********************************

 

引退を撤回した83歳のケン・ローチ監督が

大ヒットした「わたしは、ダニエル・ブレイク」(17年)に続き

「いま、撮らねばならない物語」とした作品です。

 

序盤から後半まであたたかいのに

後半の最後でいきなり暗雲から、グッと暗転に転じる。

珍しい構成にハッとしつつ

その重い警告を、受け止めずにいられない。

そんな物語です。

 

警告、とは

もちろんこんな状態を引き起こしている社会に対してだけど

しかしそれ以上に

働きすぎの人や父親に対して、ダイレクトに響くと思いました。

 

まず

なんといっても、冒頭からすぐに

一市民の普通の暮らしに自然に入っていける、その紡ぎ方がさすが。

 

今回の主役となる一市民は、

つましくも愛おしい4人家族。

 

父リッキーはフランチャイズの宅配ドライバーとして再起を図り

様々な家を訪ね、様々な人に出会う。

 

妻はとても穏やかな人で

介護ヘルパーとして、やはり様々な家を訪ねる。

 

彼らの仕事を通して、様々な市民の横顔を見せる

うまい方法だなあと感服。

 

そんな夫婦の子どもたちは

思春期まっただ中ながら

なかなかカッコいい16歳の息子(声がアダム・ドライバー似でよい!)と

利発な12歳の娘。

 

父と母には「もっと、生活水準を上げたい!」という望みはあれど

彼らはごく普通に、幸せでもあるんです。

 

この一家の風景が、とてもあたたかいのが

本当に映画としてのキモ。

 

でも、父親リッキーがバカみたいに忙しくなり、

だんだん家族に歪みが生まれ出すんですね。

 

リッキーは宅配ドライバー業を

「自分のがんばりでいくらでも稼げる独立型起業」みたいに、謳われて始めるんですが

実際は「個人事業主」として、大企業に都合よく使われる身。

 

トイレに行く間もないほどの激務で

しかも、不満を訴えれば「いくらでも代わりがいる」とクビ。

 

当然、雇用保険や保障も何もなく

何かトラブルが起きても、自己責任。

これは昨今ニュースになっている「ウーバーイーツ」配達人をはじめ

ワシみたいなフリーランスすべてに共通する状況なわけで。

 

そんな状況のなかで働く父は、次第に疲弊してゆく。

すると家族の団欒が減り、会話が減り、

子どもたちは孤独になり、息子はより反抗的になり

トラブルも起こし始める。

 

でも、それでもまだ

家族の風景は、あたたかさを保っているんです。

 

リッキーが娘と配達に行ってチップをはずんでもらったり、

家族4人でテイクアウトのインド料理を食べたり。

さまざまなエピソードが「家族のぬくもり」を保っている。

 

このフツーの家族のあたたかさがあるからこそ

一つのひびから、

転がるように事態が暗転し、

いよいよ家族をつなぐ糸がほころびはじめたときの衝撃は大きい。

 

しかもその暗転は

決して「他人事」ではないんです。

誰の胸にも迫ると思うので

必見です。

 

★12/13(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「家族を想うとき」公式サイト

コメント (8)
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リンドグレーン

2019-12-08 16:42:54 | ら行

これは良い!心を持っていかれた!

 

「リンドグレーン」77点★★★★

 

**********************************

 

1923年、スウェーデンの田舎の町。

16歳のアストリッド(アルバ・アウグスト)は

自由奔放で、周囲とはなじまない、一風変わった少女。

 

中学を卒業した彼女は

かつて新聞に掲載された作文がきっかけで

地元の新聞社で助手をするチャンスを得る。

 

父の知り合いである編集長(ヘンリク・ラファエルセン)のもと

アストリッドは水を得た魚のように

生き生きと仕事をし始める。

 

そんな彼女に編集長は好意を抱きはじめ

彼女もその愛を受け入れるのだが――?!

 

**********************************

 

「長くつ下のピッピ」の作者、アストリッド・リンドグレーンの

知られざる物語。

なのですが、

創作にいたる話などは一切カットし、

スウェーデンの田舎での少女時代から、10年ほどの間の

ある人生の一部分にのみ焦点を当てている。

 

その潔さに加え、主演女優も素晴らしく、

静かにエモーショナルをかきたてられました。

 

 

1920年代のスウェーデンの田舎で、他に染まらず

一味変わった存在だったアストリッド。

そんな彼女は、キラリと光る文才を認められ、

地元の新聞社で助手を務めることになる。

 

初めてタイプライターに

自分の書く文字が打ち込まれた瞬間の震えるような喜び。

生き生きと取材に行き

ようやく居場所を見つけて輝き出した彼女は

父ほど歳の違う、新聞社の編集長に惹かれていく。

 

彼も彼女を愛し、

二人は結ばれるんですが

しかし、予期せず、アストリッドは妊娠するんですね。

 

編集長には妻がいるし、子どもも7人もいる。

到底、親にも許されない。

歓びの絶頂から、

とたんに不安に押しつぶされそうになる様も、

そこから決意のもとでの出産、そして幼い子との胸を引き裂かれる別れ――

彼女の心の震えにシンクロして

一挙手一投足から目が離せなくなる。

 

自分の心にのみしたがって、

この時代に立とうとする彼女の

不安定にして脆く、しかし強いさまを、繊細に演じた

アルバ・アウグストが素晴らしく

(「マンデラの名もなき看守」「リスボンに誘われて」などで知られる

映画監督ビレ・アウグストの娘さんだそう!)

 

その魅力を引き出した女性監督も、見事でした。

 

リンドグレーンは02年に94歳で亡くなるまで、

子どもの人権を守るために活動したそう。

この歴史を知ると、納得、ですなあ。

 

★12/7(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「リンドグレーン」公式サイト

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